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神経梅毒
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

神経梅毒の概要

神経梅毒は、梅毒菌が脳や脊髄などの中枢神経系に感染することで起こる病気です。

中枢神経系は全身からの多くの情報を処理する重要な場所です。梅毒菌が中枢神経系に感染することにより、頭痛や記憶障害など、脳機能を中心にさまざまな症状が出ます。梅毒の治療を怠れば症状は深刻なレベルまで進行する恐れがあり、重篤な後遺症が残る可能性もあります。

梅毒の症状は、感染から数週間の潜伏期を経て現れる症状を含め、感染後1年以内の「早期梅毒」の諸症状(性器や口にできるしこりやただれ・手足や全身に見られる紅斑)がよく知られています。しかし、それらの典型的な症状以外にもいくつかの病期があり、自覚できる症状に乏しいケースや、数十年単位の潜伏期間を経て再び症状が出るケースもあります。

神経梅毒は、梅毒のどの病期においても発症する可能性があります。

現代においては、梅毒に感染しても薬物治療により根治が可能です。早期に感染に気がついた場合であれば、後遺症等のリスクも低く抑えることができます。

神経梅毒に関しても同様に、軽症の段階で治療をおこなえば完治が期待できます。一方で、梅毒の末期症状として出る神経梅毒は致死的で治療も困難とされています。ただし、現代では梅毒の病期が末期まで進行してしまうケースは少ないと考えられています。

梅毒について

神経梅毒は、梅毒トレポネーマという細菌が血液循環に乗って脳や脊髄に入ることで発症します。梅毒トレポネーマは主に性的接触によって感染するもので、粘膜や皮膚の小さな傷から体内に入ります。

近年、梅毒感染者は急増し、その背景には出会いの多様化が影響していると考えられています。男性の感染者は20〜50歳代の人が多く、女性の感染者は20代が突出して多いとの報告があります。

出典:厚生労働省「梅毒」

神経梅毒の原因

梅毒の原因菌である梅毒トレポネーマは、皮膚や粘膜を介して血中に入り込み、全身に広がります。 一部の菌が中枢神経系に到達することで神経梅毒を発症します。

神経梅毒は細菌に感染した後、早期から晩期までどのタイミングにおいても発症する可能性があります。

HIVウイルスに感染している場合や免疫力が低下している状態では、神経梅毒を発症するリスクが高まるともいわれています。

神経梅毒の前兆や初期症状について

神経梅毒の初期症状は頭痛や疲労感、聴力や視力の低下などがあります。進行するとさまざまな脳機能に問題が生じ、記憶障害や幻覚、ふらつきなどの症状が出るケースもあります。ただし、いずれも神経梅毒だけにみられる特異的な症状とは言えないため、症状だけから神経梅毒を疑うことは容易ではありません。

神経梅毒は梅毒の感染がきっかけで発症する病気であるため、性器にしこりや潰瘍ができていたり、手のひらや足裏、体幹などにバラ疹という赤い発疹が出現していたりなど、梅毒そのものの症状がすでに出ている可能性も十分に考えられます。

また、上記のような前兆となる症状が見られない、無症状性の梅毒もあると言われています。そのため、梅毒の感染を疑うような状況があった場合は、できるだけ早く医療機関に相談したり、検査キットなどでチェックしたりといった予防的措置も、初期症状を見落とさないために重要になります。

神経梅毒の検査・診断

神経梅毒では問診をはじめ、血液検査や脳脊髄液検査、画像検査など複数の検査結果を総合的に判断して診断します。

血液検査では梅毒トレポネーマに対する抗体価を調べるため、TPHAやRPRという項目をはじめさまざまな項目を調べる検査をおこないます。

必要に応じて脳脊髄液検査を実施することもあります。脳脊髄液検査は背骨の間に細い針を刺し、採取した脳脊髄液を調べる検査です。

脳脊髄液の成分を分析することで、中枢神経系への感染の有無や程度を判断することができます。

また頭部MRI検査やCT検査などの画像検査をおこなう場合もあります。頭部の画像を撮影することで他の神経疾患との判別や症状の原因となっている部位の特定につながります。

神経梅毒の治療

神経梅毒の治療は、中枢神経系に入った細菌を排除するために抗菌薬の投与を中心におこないます。ペニシリン系の薬剤が有効とされており、日本においても標準治療薬として使用します。

ペニシリンをはじめとする抗生物質のアレルギーがある場合は、代替薬を使用することがあります。

治療開始後、ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応という一時的な発熱や発疹などが出ることがありますが、神経梅毒の治療における想定内の反応であるため、対症療法によって治療します。

治療開始後は定期的な血液検査や脳脊髄液検査によって、治療の効果や経過を観察します。

神経梅毒になりやすい人・予防の方法

神経梅毒はすべての梅毒感染者、梅毒のすべての病期で起こる可能性のある病気で、なかでもHIVウイルスに感染している人はリスクが高まるといわれています。

また、梅毒の治療を適切に受けていない人や治療を途中で中断した人も、神経梅毒を発症するリスクが高いといえます。

神経梅毒を予防するためには、梅毒に感染しないことが重要です。不特定多数との性的接触を避けることや、性的接触する際は正しくコンドームを使用することなどが感染予防につながります。

また、定期的な検査も有効な予防策といえます。とくに梅毒に感染するリスクが高い接触があった場合は、症状の有無にかかわらず、できるだけ早く検査を受けることが大切です。

現代において、梅毒は適切な治療によって治癒が期待できる病気です。感染したまま放置すると重症化のリスクが高まり、大切なパートナーなどにも感染を広げるリスクも生まれます。

梅毒の検査は、医療機関で受けることができるほか、保健所などで匿名検査を提供している市町村もあります。また、市販の検査キットも容易に入手できます。万一、梅毒に感染してしまったとしても、早期に発見し治療を受けることが非常に重要であり、神経梅毒の発症予防だけでなく、梅毒の重症化の予防、感染拡大の防止にも役立ちます。

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