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結核性髄膜炎
前田 広太郎

監修医師
前田 広太郎(医師)

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2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。

結核性髄膜炎の概要

結核性髄膜炎は結核菌の感染により頭痛や発熱、意識障害などの症状をきたします。亜急性(数日~数週間かけて)に重篤化する疾患です。結核の既往歴、結核患者との接触歴、結核流行地域への渡航歴や居住歴がある場合に起こりえます。髄液検査ではリンパ球優位の細胞増多が特徴的で、髄液中の結核菌培養やPCR検査で診断します。発症から治療までの時間が長引くことが多く、確定診断も得られにくい疾患であることから致死率および後遺症率が高い疾患です。結核性髄膜炎を疑った場合、早期治療が重要で抗結核薬による経験的治療を早急に開始します。

結核性髄膜炎の原因

結核性髄膜炎は、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)により引き起こされます。空気感染により肺に侵入し、そこから血行性に中枢神経系に移行します。中枢神経に病巣を形成し、これがくも膜下腔に破裂することで髄液内に菌が放出され、髄膜炎を発症すると考えられています。結核性髄膜炎は髄膜炎全体の13.9%を占め、結核全体の4.5%が中枢神経結核とされます。全結核の1%、肺外結核の4%が結核性髄膜炎だったという報告があります。

結核性髄膜炎の前兆や初期症状について

髄膜炎では項部硬直、発熱、意識障害などが典型的な症状です。しかし、結核性髄膜炎は、比較的緩やかに症状が始まるとされます。細菌性髄膜炎と比較して、項部硬直をはじめとした髄膜刺激兆候がみられにくいとされます。乳幼児では体重増加の鈍化、微熱、無気力といった非特異的な症状となります。乳幼児ではほとんどの初期症状はそれに先行する呼吸器感染症(肺結核)に由来するものが主体となります。年齢の高い小児や成人では、食思不振や不安感が頭痛や嘔吐に先行します。似たような症状の流行性感冒との違いは、その症状が長く持続することとされますが、症状のみではしばしば鑑別が困難となります。症状の頻度としては、頭痛(50~80%)、発熱(60~95%)、嘔吐(30~60%)、光過敏(5~10%)、項部硬直(20~80%)、意識不鮮明(10~30%)、昏睡(30~60%)、痙攣(小児50%、成人5%)、片麻痺(10~20%)、対麻痺(5~10%)の他に、人格の変化や盗汗などが報告されています。他の感染性髄膜炎と比較して、脳神経障害による神経症状が頻度が高く、最も多いのは外転神経麻痺(眼球を外に向けることができないなど)、次いで視神経障害や動眼神経麻痺(眼球運動の障害)、顔面神経障害(顔面の筋肉が動かないなど)を同時に障害される場合が多いとされます。

症状が緩徐に進行する亜急性の経過をとるため、発症から1週以内の受診が7%、1〜3週での受診が57%、3週以上での受診が36%となっており、発症から受診・診断・治療まで時間がかかってしまうことが多いです。

結核性髄膜炎の検査・診断

細菌性髄膜炎の確定診断は、1)髄液塗抹での抗酸菌陽性、2)髄液培養での結核菌同定、3)髄液PCRによる結核菌遺伝子の検出、のいずれか満たすことで診断が確定します。

腰椎穿刺による髄液検査にて、単核球優位の細胞増多、蛋白上昇、髄液糖/血糖比<0.5、髄液アデノシンデアミナーゼ(ADA)上昇などがみられますが、いずれも他の疾患でも上昇する場合があります。髄液から結核菌が検出されれば確定診断となりますが、塗抹検査の感度は10~37%、培養検査の感度は43~52%と低く、陽性となることは少ないことに加え、培養には4~8週程度かかります。結核菌PCR検査の感度は75~100%、特異度89~100%と高く、迅速性にも優れます。しかし、薬剤感受性検査のためには培養も必要とされ、塗抹、培養、PCRの3つ全てを行う必要があります。結核菌に対するインターフェロン-γ遊離試験(IGRA)は、髄液検体を用いることが可能なT-SPOTが使用されますが、感度59%、特異度89%と診断精度は十分でなく、結核感染の既往でも陽性となるため、PCRや培養による同定が必要です。

血液検査では、抗利尿ホルモン不適切分泌症候群による低ナトリウム血症の合併が起こりやすいとされます。結核性髄膜炎の50%が活動性、もしくは陳旧性の肺結核病変があるといわれ、10%に粟粒結核が認められることから、胸部X線やCTで肺結核や粟粒結核の有無を確認することも補助診断のための検査として重要です。頭部CTやMRIによる結核腫や水頭症,、脳梗塞など合併症の検索や、喀痰や胃液を用いたPCRも参考となります。

鑑別疾患としては、他の感染性髄膜炎、脳トキソプラズマ症、脳膿瘍、悪性リンパ腫を含む悪性腫瘍などが挙げられます。

結核性髄膜炎の治療

治療の遅れと不全治療が予後不良と強く関連するため、直ちに抗結核薬を投与することが重要です。リファンピシン、リファブチン、イソニアジド、ピラジナミドの4剤が第一選択薬の薬剤です。他、ストレプトマイシン、エタンブトールの2剤は併用で効果が期待されます。特に、リファンピシンとイソニアジドが結核治療におけるキードラックであり、多剤併用および長期治療が原則です。自然耐性菌が10%含まれていることから、単剤療法では耐性菌の増殖につながり、治療失敗による再発や死亡の恐れがあります。

薬剤耐性がなければイソニアジド、リファンピシン、ピラジナミド、エタンブトールの4剤を副腎皮質ステロイドを併用して治療を行います。4剤の併用を2ヶ月行い、イソニアジドとリファンピシンの投与を10ヶ月継続します。薬剤耐性結核菌の場合は、レボフロキサシンをはじめとしたフルオロキノロン系抗菌薬などの第二選択薬を併用した治療を行います。

イソニアジド投与によるビタミンB6欠乏性末梢神経障害が起こる可能性があり、イソニアジド投与例ではビタミンB6を補充します。ストレプトマイシンやカナマイシンでは聴力障害が起こりうるため、定期的な血中濃度の測定や聴力検査が望ましいです。エタンブトールでは視神経障害が起こりうるため視力検査を定期的に行います。肝機能障害や薬剤性肝炎発症時は薬剤変更を考慮します。合併率の高い水頭症に対しては、利尿薬の投与や脳室腹腔シャント、神経内視鏡的治療などが行われます。

結核性髄膜炎は高い確率で後遺症を残すため、速やかな治療開始が行われない場合は死亡率も高くなります。予後は治療開始時の神経所見と治療開始までの期間に比例するとされます。医療資源の整っている国でも致死率は14~28%、後遺症率は20~30%程度とされます。髄液細胞の増多、髄液単核球増多、発熱、水頭症が予後不良のリスク因子となっています。脳神経症状を有する場合は四肢の麻痺と感覚障害、頭蓋内圧亢進を伴いやすく臨床的予後が不良です。

結核性髄膜炎になりやすい人・予防の方法

結核性髄膜炎は先進国では比較的まれな疾患とされています。本邦では年間140~380名程度が発症していると推測されます。15%が小児となっており、2~4歳に最多とされます。平均発症年齢は32歳ですが、どの年齢にも発症しうる疾患です。独立危険因子として小児の初発感染、加齢や栄養失調に伴う免疫不全や、HIVや悪性腫瘍に伴う免疫不全がある人に発症しやすいとされます。他にも、アルコール依存症、糖尿病、コルチコステロイド使用、TNFα薬の使用が発症のリスク因子とされます。確率された予防策はありませんが、結核流行地域への訪問を避けることが重要です。

参考文献

  • 1.日本神経治療学会治療指針作成委員会:「標準的神経治療:結核性髄膜炎」. 2015
  • 2.日本神経学会, 日本神経治療学会, 日本神経感染症学会 監修, 「細菌性髄膜炎診療ガイドライン」作成委員会 編集:細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014. 南江道. 東京. 2014
  • 3.Navarro-Flores A, et al: Global morbidity and mortality of central nervous system tuberculosis: a systematic review and meta-analysis. J Neurol. 2022;269(7):3482. Epub 2022 Mar 15.
  • 4.Pehlivanoglu F, et al: Tuberculous meningitis in adults: a review of 160 cases. ScientificWorldJournal. 2012;2012:169028. Epub 2012 Apr 24.
  • 5. Up to date:Tuberculous meningitis: Clinical manifestations and diagnosis

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