

監修医師:
大坂 貴史(医師)
目次 -INDEX-
West症候群(ウェスト症候群)の概要
ウェスト症候群は、主に乳児期に発症するてんかんの一種で、けいれん発作や発達の遅れを引き起こす病気です。この症候群の特徴は、「点頭けいれん」と呼ばれる特有の発作で、赤ちゃんが突然首を前にうなずくような動きをするのが特徴です。けいれん発作は1回で終わることもありますが、5〜10秒ごとに繰り返されることが多いです。また、脳波検査では「ヒプスアリスミア」という特有のパターンが見られることも特徴です。発作や脳波異常の影響で、赤ちゃんの発達が遅れたり退行したりすることもあります。ウェスト症候群の原因はさまざまで、脳の損傷や遺伝的要因などが関与していることもありますが、原因不明の場合もあります。治療には薬物療法がおこなわれ、発作を抑えて発達の遅れを防止することを目指します。 (参考文献1)
West症候群(ウェスト症候群)の原因
ウェスト症候群の原因は一つではなく、さまざまな要因が関係しています。大きく分けると、発症前から脳画像検査などで異常がみられる症候性と、発症するまで検査では異常の見つからない特発性の2つに分類されます。
症候性のウェスト症候群は、脳が何らかのダメージを受けた場合に発生します。具体的には、以下のような例があります。
- 遺伝性疾患:染色体異常や遺伝子の変異が関与する場合。
- 脳の形成異常:先天奇形症候群など、胎児の脳が正常に発達しない場合。
- 低酸素性虚血性脳症:出産時に酸素が足りなくなることで脳がダメージを受ける場合。
- 脳の損傷:結節性硬化症や未熟児傍側脳室白質軟化症などの疾患による場合や、出血や脳血管障害などによる場合。
他にも、アイカルディ症候群という、女児に発症する脳と網膜に異常を伴った症候群もウェスト症候群の原因となると言われています。
特発性の場合、明らかな脳の損傷や遺伝的な問題が見つからないことが特徴です。この場合、赤ちゃんはもともと健康で、知的発達にも問題がないことが多いですが、突然発症します。 (参考文献1)
West症候群(ウェスト症候群)の前兆や初期症状について
ウェスト症候群の主な症状は、特徴的な発作と発達の遅れの3つです。この病気は乳児期に発症し、特に生後3〜11か月ごろに見られることが多いです。
ウェスト症候群の発作は手足が一瞬収縮するようなけいれんで、目が覚めた直後によく起きます。赤ちゃんが座っている時や立っている時に発作が起きると、突然うなずくように首を前に下げる動きが見られるため、「点頭けいれん」とも呼ばれます。この発作は1回で終わることもあれば、約5〜40秒おきに何度も繰り返されることもあります。
また、ウェスト症候群では、発作や脳波の異常が原因で、赤ちゃんの成長や発達が遅れることがあります。加えて、進行するとそれまでできていたことができなくなる場合もあります。 (参考文献2)
West症候群(ウェスト症候群)の検査・診断
ウェスト症候群の検査は、赤ちゃんの発作や脳の状態を詳しく調べることで、正確な診断と適切な治療方針を決定するために重要です。主な検査方法には脳波検査に加えて、MRIやCTなどの画像検査、遺伝子検査、染色体検査、代謝異常検査などがあります。
まず脳波検査では、脳の電気的な活動を記録し、ウェスト症候群に特徴的な「ヒプスアリスミア」と呼ばれる不規則な高振幅の波形が見られるかを確認します。この所見は、診断の重要な手がかりとなります。
次に画像検査(MRI・CT)では脳の構造を詳細に観察し、異常がないかを調べます。画像検査の結果は症候性ウェスト症候群の原因特定に役立ちます。
また、一部の症例では、特定の遺伝子の変異や染色体の異常が関与していることが判明しているため、遺伝子検査や染色体検査が原因特定のために行われることがあります。
これらの検査結果と発作症状を総合してウェスト症候群の診断が行われます。 (参考文献2, 3)
West症候群(ウェスト症候群)の治療
ウェスト症候群の治療は発作を抑えるための薬物療法がメインとなります。
薬物療法で最も有効とされているのは副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)で、ウェスト症候群発症後できるだけ早く治療を開始すべきであると言われています。特に特発性のウェスト症候群においては1か月以内に治療を開始することが推奨されています。
しかし、ACTH療法は重大な副作用がみられる場合があります。主な副作用として高血圧、肥満、感染しやすくなることなどがあります。また、副腎皮質機能不全という、強い倦怠感や意識障害を起こしうる状態に陥る可能性もあります。こうした副作用を避けるために、ACTH療法は可能な限り少量で短期間に行うことが推奨されます。
その他の治療法としてはビタミンB6大量療法やバルプロ酸の使用があり、ACTH療法の副作用を考慮してこれらがまず行われる場合もありますが、最もウェスト症候群に有効であると考えられているのは現在のところACTH療法となっています。(参考文献3)
West症候群(ウェスト症候群)になりやすい人・予防の方法
ウェスト症候群は、主に生後3〜11か月の赤ちゃんに発症する病気で、2歳以降に発症することはまれです。約80%は症候性ですが、約20%は特発性と言われています。ACTH療法を行うことで50〜80%の患者さんで発作を抑制することが可能といわれていますが、長期的には約50%の患者さんでてんかん発作が続きます。また、約80〜90%の患者さんでは様々な程度の発達の遅れがみられます。
ウェスト症候群は、脳の発育異常や遺伝的な問題、出生時のトラブルなど、避けるのが難しい要因が原因になることが多いため、完全に予防する方法はありません。ただし、もし赤ちゃんに発達の遅れや発作の兆候が見られた場合は、早めに医師に相談することで早期治療につなげることができるかもしれません。 (参考文献2)
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参考文献