目次 -INDEX-

良性脳腫瘍
神宮 隆臣

監修医師
神宮 隆臣(医師)

プロフィールをもっと見る
熊本大学医学部卒業。熊本赤十字病院脳神経内科医員、熊本大学病院脳神経内科特任助教などを歴任後、2023年より済生会熊本病院脳神経内科医長。脳卒中診療を中心とした神経救急疾患をメインに診療。脳神経内科疾患の正しい理解を広げるべく活動中。診療科目は脳神経内科、整形外科、一般内科。日本内科学会認定内科医、日本神経学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳血管内治療学会専門医、臨床研修指導医の資格を有す

良性脳腫瘍の概要

良性脳腫瘍は、脳やその周囲の組織に発生する腫瘍で、一般的にはゆっくりと成長し、転移することがありません。早期に診断され適切な治療を受ければ、生活への影響も少ない場合もある疾患です。しかし、腫瘍が大きくなると脳をはじめ、周囲の神経を圧迫し、重要な機能に影響を与える可能性があります。良性脳腫瘍の多くは適切な治療により予後が良好ですが、発生部位や腫瘍の種類に応じて症状や治療法が異なります。ひとくくりに良性脳腫瘍と言ってもできる部位や種類に応じて異なる部分もあります。良性腫瘍の中には遠隔転移こそしないものの、いわゆるがんのように再発するタイプなどのものもあり、治療方針はこうしたさまざまなことを鑑みて決定されます。いずれも手術による切除を行うことがありますが、放射線治療を組み合わせる場合もあります。代表的な良性脳腫瘍には以下のようなものがあります。 髄膜腫 脳を覆う膜(髄膜)から発生する腫瘍で、良性脳腫瘍の中で最も一般的です。 神経鞘腫 神経を覆う組織から発生し、主に聴神経にできる場合が多いです(聴神経腫瘍や聴神経鞘腫とも呼ばれます)。 下垂体腺腫 脳下垂体にできる腫瘍で、ホルモン分泌に影響を与えることがあります。

良性脳腫瘍の原因

良性脳腫瘍の正確な原因は完全には解明されていませんが、以下のような要因が関与していると考えられています。 遺伝的要因 良性腫瘍の種類によっては、特定の遺伝子の異常が関わる場合もあります。 放射線被曝 過去に放射線治療を受けているといった、高いレベルの放射線被爆がリスク要因となる場合があります。 免疫系の異常 免疫機能の低下や特定の疾患が関係することがあります。 環境要因 特定の化学物質への曝露や生活習慣が影響する可能性も研究されていますが、明確な因果関係は示されていません。

良性脳腫瘍の前兆や初期症状について

良性脳腫瘍の症状は腫瘍の大きさや場所、種類によって異なりますが、主に以下のような症状が現れることがあります。 頭痛 腫瘍により頭蓋内の圧が上がることで生じます。特に朝起きたときに強く感じられることが特徴的です。吐き気など他の症状を伴うこともあります。 神経症状 体の片側に麻痺やしびれが生じることがあります。これは腫瘍が脳の運動や感覚を司る部分を圧迫したり、脳のむくみが生じたりした場合に起こります。言葉がうまく出てこなくなる失語症や、物が二重に見える複視が起こることもあります。特に聴神経腫瘍では耳鳴りや難聴が見られることがあります。 てんかん発作 腫瘍による圧迫などにより、脳の異常な興奮が原因で、突然のけいれんや意識を失う発作が現れる場合があります。 性格や認知機能の変化 例えば、気分が不安定になったり、物忘れがひどくなったりすることがあります。これは前頭葉などの脳の特定の部位が影響を受けるためです。 ホルモン異常 特に下垂体腺腫では下垂体ホルモンバランスの乱れがみられることがあります。 これらの症状が見られた場合でも、すべてが良性脳腫瘍に結びつくわけではありませんが、脳神経外科などの医師に相談することが大切です。

良性脳腫瘍の検査・診断

良性脳腫瘍の診断は、画像検査が中心となります。以下に主な検査方法を示します。

CT検査

造影MRIの方がより詳しく検査ができる場合が多いですが、骨や腫瘍の石灰化、出血の合併が疑われる場合に役立ちます。ほかにも手術前の骨や血管の位置関係を確認したり、MRIが使用できない場合にも行われます。この場合もMRIと同様に造影剤を使うことが望ましいことが多いです。

頭部MRI(磁気共鳴画像診断)

正確な診断のためにガドリニウム造影剤と呼ばれる薬剤を使用することで、腫瘍の大きさや場所、数、正常な神経との位置関係を詳しく調べます。細かな構造まで確認できるため、良性脳腫瘍の診断には最も有効な検査とされています。検査の際は30分程度やや狭いスペースで横になる必要があり、機械から大きな音がします。

血液検査

血球数や肝臓や腎臓といった重要な臓器の機能などを確認し、薬物療法や手術が安全に行えるかの検討に用います。下垂体腫瘍ではホルモンの値もチェックすることがあります。

組織診断

生検術という病変の一部を採取する方法や、手術を行う場合にも、摘出した腫瘍を顕微鏡で詳しく調べます。顕微鏡から腫瘍の特徴や悪性度を推測し、追加の治療の必要の有無などを判断することが可能な場合があります。良性腫瘍と術前診断しても、組織診断で診断が変わることもあります。また、髄膜種では、悪性に近いタイプのものもあるため重要な検査といえます。

こうした多数の検査には複数回の通院が必要な場合もありますが、適切な治療を行うために重要な役割を担っています。スケジュールなど主治医の先生とも相談の上で相談していくとよいでしょう。

良性脳腫瘍の治療

良性脳腫瘍の治療は、病変の広がりや種類患者さんの体力など全身の状態に応じて選択されます。以下に代表的な治療法を記します。実際にはいくつかの選択肢がある場合もあります。個々人の治療の身体的、精神的な負担なども考慮して行います。

経過観察

脳ドックなどで偶然に良性腫瘍が疑われ、症状が軽い場合はまずは定期的な画像検査で腫瘍の大きさの変化を見ていくことが多いです。特に髄膜腫では経過観察でも問題ないケースが多いとされています。

外科治療

手術で腫瘍を直接取り除きます。病変が取りやすい部位や大きさであるかどうかや周囲の重要な神経との位置関係も重要です。最近では、ナビゲーション技術を用いて安全性を高めた手術が可能になっています。下垂体の腫瘍は鼻の奥のちょうど両眼の間付近にあることから、鼻から器具を挿入して行う経鼻下垂体手術と呼ばれる方法が用いられる場合もあります。

放射線治療

腫瘍の場所に応じて、定位放射線治療(ピンポイントで照射する方法)やIMRT(強度変調放射線治療)と呼ばれる高精度で高い技術を必要とする治療方法が選択されます。特にこれまでは定位照射を多く行ってきましたが、近年はIMRTをできる機器が増えてきており、より大きく複雑な病変でも治療ができる場合もあります。脳への負担にも配慮した治療を行えるようになってきています。また、手術後に組み合わせて用いられる場合もあります。

薬物療法

下垂体腺腫のようにホルモン異常がある場合には、ホルモンを調整する薬が使用されます。

良性脳腫瘍になりやすい人・予防の方法

良性脳腫瘍になりやすいのは家族歴がある方や、過去に脳に放射線治療を受けたことがある方とされていますが、予防する方法は確立されていません。 ただし、病気によっては発症後早期に適切な治療を受けることが重要なため、運動や感覚に異常を感じた場合などは早期に受診することが重要です。 ほかにも一般的な健康づくり、体力づくりにより、その他の病気になりにくくなったり、病気になっても体力を落としにくくできることが知られています。具体的には以下のポイントが挙げられます。 定期検診を受ける 病気を早期に発見し、適切に治療を行うことが可能です。 生活習慣の改善 禁煙や適度な運動、バランスの取れた食生活を心がけることで、体力を強化することが期待されます。

関連する病気

この記事の監修医師