

監修医師:
林 良典(医師)
目次 -INDEX-
高齢者てんかんの概要
てんかんとは
てんかんは、脳の神経細胞(ニューロン)の異常な電気的活動により繰り返し発作が生じることを特徴とする脳の慢性疾患で、年齢、性別、人種を問わず発症します。
てんかん発作の症状は、大脳の電気的な興奮が発生する場所によってさまざまですが、発作の症状は患者さんごとにほぼ一定で、同じ発作が繰り返し起こるのが特徴です。
高齢者てんかんとは
高齢者におけるてんかんは、過去に発症したてんかんが継続している場合と、65歳以降に新たにてんかんを発症した場合があり、後者を「高齢者てんかん」といいます。
高齢者てんかんの有病率は、1〜 2%と推定されています。発病率は、65〜70歳では年間10万人に90人、80歳以上では10万人当たり150人という英国の報告があります。しかし、日本における発病率は、大規模な調査が行われていないため明らかになってはいません。
てんかん発作の分類
大脳で起きる異常な電気刺激が、大脳の広い部分で始まるものを「全般発作」といい、大脳の一部分で起こるものを「焦点発作(部分発作)」といいます。
さらに、部分発作は、発作の間の意識の有無や発作の起こる部位により分類されます。
発作中の意識状態による分類
意識があるものは「焦点意識保持発作(単純部分発作)」といい、意識がないものを「焦点意識減損発作(複雑部分発作)」といいます。
部位による分類
頭葉てんかん、前頭葉てんかんなど
高齢者てんかんの特徴
高齢者てんかんは複雑部分発作がほとんどです。この症状は、意識が次第に遠のいていき、周囲の状況がわからなくなるような意識障害が見られ、急に動作を止めて顔とぼーっとさせたり、あたりをふらふらと歩き回る、口をもぐもぐさせるといった無意味な動作をくりかえすなどがみられ、けいれんで倒れることはほとんどありません。そのため、認知症と誤診されたり、的確に診断されないことがあります。
また、発作の起こる部位は、約7割が側頭葉てんかんで、1割程度が前頭葉てんかんであることが知られています。
高齢者てんかんの原因
高齢者てんかんは、症候性てんかんが約2/3、特発性てんかんが1/3といわれています。
症候性てんかんとは
原因がわかっているてんかんのことです。
てんかんを起こす原因には、次のようなものがあります。
- 脳血管障害:脳出血、くも膜下出血、脳梗塞など。症候性てんかんの30〜40%を占めます。
- 神経変性疾患:アルツハイマー型認知症など
- 頭部外傷
- 脳腫瘍
- 中枢神経の感染症
特発性てんかんとは
明らかな原因が不明のてんかんのことです。
CTやMRI検査などで大脳に明らかな異常がみられないにもかかわらず起こるてんかんの多くは、一度寛解したてんかんが再発したもので、全般てんかんの発作型を示すことが多いです。
高齢者てんかんの前兆や初期症状について
複雑部分発作は、一般的に前駆症状は少なく、ボーッとする、不注意、混乱、無反応、奇行などの症状が出た後に意識がもうろうとした状態が数時間~数日続くことがあります。
側頭葉てんかんの場合、幻嗅、上腹部不快感、発作中の意識障害のほか、一点凝視、口腔自動症、四肢ジストニアなどがみられます。
前頭葉てんかんの場合は、全身けいれんと間違えられるほど激しい動きや、左右差のある硬直した手足の姿勢などがみられます。
高齢者てんかんが疑われるときは、脳神経内科や脳神経外科を受診しましょう。また、精神症状が強い場合には精神科を受診しましょう。
てんかんの症状は患者さんごとに異なり、治療には生活習慣の問題や長期間の治療を要することから、医師にも経験と知識が求められます。そのため、てんかん専門医を受診することがすすめられます。てんかん専門医は、日本各地にある「てんかんセンター」で紹介してもらうことができます。
高齢者てんかんの検査・診断
てんかんは、問診と各種の検査の結果より診断を行います。
意識を喪失する発作がおきた場合は、心疾患、脳血管疾患との鑑別が必要で、原因を確定することが特に重要です。
問診
問診は、てんかんを正確に診断し、治療法を決めるうえで重要です。
発作が起こったときの症状や状況などの情報を、ありのままに時系列に沿って医師に伝えることが大切です。
携帯電話やスマートフォン、デジタルカメラなどで発作の様子を撮影し、診察時に持参することも診断の助けとなります。
発作を記録する時のポイント
- 「発作がいつ起こったのか」
- 「どういったことで発作に気付いたのか」
- 「けいれんがあったか」
- 「体のどこからけいれんが始まってかどのように広がっていったか」
- 「意識は保たれていたか」
- 「発作はどのくらい続いたか」 など
検査
①脳波測定
てんかんの診断では最も重要な検査です。脳波は脳の神経細胞が出すわずかな電流で、てんかん発作時には通常とは異なる波形(発作波)を示します。
高齢者てんかんでは、発作波を確認できる割合が30~70%とあまり高くないため、繰り返し脳波検査をすることが必要になる場合があります。
また、脳波異常は睡眠時にのみ見られる場合が多いので、睡眠脳波チェックが必要になります。場合によっては、長時間持続ビデオ脳波モニター検査をすることもあります。
②画像診断
大脳の中がどのような状態になっているかを調べる検査です。
CT(コンピュータ断層撮影)
X線を用いて脳の断面を画像化します。短時間で検査できます。
MRI(磁気共鳴画像法)
磁気を利用して脳の断面を画像化するため、CTよりもさらに小さな病変が検出可能で、てんかんが起こる場所や状態などを調べることができます。
PET(ポジトロン断層法)
脳のブドウ糖代謝など脳の機能的な異常を調べることができます。
SPECT(単一光子放射断層撮影)
放射性薬品を体内に投与して行う検査で、発作による脳血流量の変化を確認できます。
③その他
てんかんとよく似た病気を除外するために、血液検査や循環器の検査などを行う場合もあります。
高齢者てんかんの治療
薬物治療
てんかん発作の抑制を目的として、ラモトリギン、レベチラセタムなどの抗てんかん薬が投与されます。
高齢者てんかんは、初回発作後の再発率が高い(66~90%)ため、初回発作後から抗てんかん薬による治療を始めることがあります。
薬の投与量が少なくても効果があり、きちんと薬をのむことで約90%の患者さんで発作が抑制でき、長期間にわたって服用を継続しても治療効果が落ちることはほとんどないといわれています。
しかし、薬をやめるとすぐにてんかん発作が起きることが多いため、抗てんかん薬は中断しないほうがいいといわれています。
抗てんかん薬の作用は、脳全体の働きを抑えるため眠気やふらつきを生じやすいことが知られています。転倒により骨折しないように注意しましょう。
また、ほかの疾患の薬を服用している場合、てんかんの治療薬との相互作用が出やすくなるため、お薬手帳を活用して、医師や薬剤師に確認してもらうことが大切です。
抗てんかん薬の効果を十分発揮して、副作用をできるだけ少なくするように薬を調整していくために、何か異常を感じたり、様子に変化があれば、自己判断で服薬を中止しないですぐに主治医に相談しましょう。
外科手術治療
2~3種類以上の抗てんかん薬を服用し治療に有効とされる血中濃度が得られても、発作の回数が多く薬物治療でコントロールできない場合に手術が考慮されます。
高齢者てんかんになりやすい人・予防の方法
高齢者てんかんになりやすい人
①脳血管障害の既往歴がある
脳梗塞や脳出血を発症すると、将来てんかんを発症する確率は50~75%と高いといわれています。
②頭部外傷の既往歴がある
③アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患がある
④脳炎や髄膜炎などの感染症の既往歴がある
⑤特定の薬物が原因で発作を引き起こしたことがある
てんかん発作の予防
①医師の指示通り、規則正しい服薬を継続しましょう。
②十分な睡眠をとりましょう。ただし、過度な睡眠は避けてください。
③テレビの長時間視聴やゲームのやりすぎは避けましょう。
関連する病気
- 脳血管障害(脳梗塞・脳出血)
- アルツハイマー型認知症
- 頭部外傷
参考文献