脳膿瘍
林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科を経て現職。診療科目は総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本老年医学会老年科専門医、禁煙サポーター。

脳膿瘍の概要

脳膿瘍とは、脳の中に膿(うみ)が溜まる病気です。膿は、病原体(細菌など)およびそれに伴う炎症反応で形成される物質の塊です。脳は頭蓋骨(ずがいこつ)の中に収まっています。脳は、髄膜(ずいまく)と呼ばれる膜で包まれています。脳の内部は大きく分けて、大脳、小脳、脳幹の3つに分かれており、それぞれ異なる役割を担っています。例えば、大脳は思考や記憶など、小脳は平衡感覚などを司る働きを持っています。脳膿瘍が発生すると、その部位によって異なる症状が現れます。脳膿瘍は稀な病気ですが、命に関わることもありますので、早期の発見と治療がとても大切です。

脳膿瘍の原因

通常、脳は無菌状態が保たれています。脳膿瘍が起こる原因は、主に体内に入った細菌などの病原体が脳に達し、そこで炎症を起こすことです。具体的な原因を以下に説明します。

血液を介した感染

心臓や肺など、脳とは別の部位で感染が起こった場合に、その病原菌が血流に乗って脳に到達することがあります。例えば、肺膿瘍(はいのうよう)心内膜炎(しんないまくえん)という病気になると、そこから血流に乗って病原菌が脳に到達し脳膿瘍を起こすことがあります。

隣接する部位からの感染

中耳炎(ちゅうじえん)副鼻腔炎(ふくびくうえん)といった、耳や鼻の奥などの脳に近いところで炎症が起こると、炎症が頭の内部に広がり、脳膿瘍の原因になることがあります。そのため、放置するのは危険です。

頭の外傷や手術後の感染

交通事故や転倒などによって頭をぶつけたり、頭蓋骨を開いて手術を受けた後に、細菌が脳内に侵入する場合があります。

免疫力の低下

糖尿病HIV感染症、または臓器移植後の免疫抑制剤を使用しているなど、体の免疫力が弱っている状態では病原菌に感染しやすくなります。

病原菌の種類

脳膿瘍の原因となる病原菌には、以下のようなものがあります。
細菌
黄色ブドウ球菌やレンサ球菌などがあります。
真菌(カビ)
免疫力が低い人で感染を起こすことがあります。

脳膿瘍の前兆や初期症状について

脳膿瘍が発生すると、体はさまざまな形で異常を知らせてきます。以下に、脳膿瘍で見られる前兆や症状を説明します。

頭痛

頭痛の患者さんの多くが感じる最初の症状です。鎮痛薬を飲んでも治らないことがあり、次第に悪化していきます。脳膿瘍の場所によっては、脈打つような痛みが出ることもあります。

発熱

感染が原因のため、発熱を伴うことがよくあります。なお、すべてのケースで熱が出るわけではないため、熱がなくても油断は禁物です。

吐き気や嘔吐

脳膿瘍によって頭蓋内圧(脳内の圧力)が上がると、吐き気や嘔吐が起こることがあります。これは、脳の圧力変化に体が反応しているサインです。

意識障害

ぼんやりして集中できなくなったり、急に眠気を感じたりします。意識障害が進行すると昏睡(こんすい)状態になることもあります。

痙攣(けいれん)

脳膿瘍が発生すると、脳の電気信号に異常が起きることがあるため、痙攣発作が現れることがあります。

麻痺や感覚の異常

脳膿瘍がどの部位にあるかによって、手足の動きが鈍くなったり、しびれたりすることがあります。

脳膿瘍は、ほかの疾患と類似した症状を示すため、発熱や消化器症状、頭痛からは診断が難しいことが多いです。意識障害や痙攣、麻痺や感覚の異常が現れた場合は、速やかに医療機関を受診する必要があります。脳膿瘍と診断がついた場合は、脳神経外科が診療を担う場合が多いです。

脳膿瘍の検査・診断

脳膿瘍を疑う場合には、以下の検査が行われることが多いです。

画像検査

CT検査
放射線を使って脳の様子を詳しく見る検査です。造影剤を使うと脳膿瘍がある場合、特有のリング状(周囲が明るく見える形状)に映ります。
MRI
磁気を使って脳の様子を詳しく見る検査です。脳梗塞など他疾患との鑑別診断のためにMRI検査を行う場合があります。膿の大きさや周囲の炎症をより正確に把握できます。

血液検査

白血球とCRP値
白血球の増加や炎症を示すCRP値の上昇が確認されます。
血液培養
血液から病原菌を特定するために血液培養が行われます。

膿の採取

針を用いた膿の採取
脳膿瘍と確定診断がされた場合に、治療方針を決定するために、脳膿瘍に針を刺して、膿を取り出し病原菌を調べる場合があります。

髄液の採取

腰椎穿刺
腰のあたりから針を刺して、髄液(脳と脊髄を保護する液)を採取して、炎症や感染症の有無を確認します。

脳波検査

脳波測定
痙攣が起こった場合に、脳波を測定することがあります。

脳膿瘍の治療

脳膿瘍の治療は、薬による治療と手術による治療に大別されます。

薬による治療

抗菌薬の使用
まず、広範囲の菌に効く抗菌薬を使い、病原菌が特定されたら、より効果的な薬に変更します。
ステロイドの使用
脳のむくみをとるためにステロイドを使用する場合があります。

手術による治療

膿瘍の摘出やドレナージ
手術によって膿瘍を摘出したり、膿をドレナージ(吸引することで外に排出する方法)する方法があります。
開頭手術
頭蓋骨をとって頭を大きく開ける手術が含まれます。
早期手術の考慮
薬による治療で膿瘍を小さくした後に手術を行うことが一般的ですが、膿瘍が大きく危機的状況にある場合は、早期に手術を行う場合があります。

脳膿瘍になりやすい人・予防の方法

脳膿瘍になりやすい人、またその予防方法を以下に述べます。
中耳炎や副鼻腔炎などの耳鼻科の治療を放置している人、虫歯など歯科の治療を放置している人がなりやすいと言われています。また、治療後や風邪の後になかなか頭痛が消えないなどの症状が続く場合は注意が必要です。
糖尿病やHIV感染症などにより、免疫力が低下している人は注意が必要です。定期的に医療機関を受診し、基礎疾患を管理することが重要です。
頭部外傷や頭部周辺の手術後に、傷口が不潔な状態にあると脳膿瘍のリスクが高まります。スポーツや作業中に頭を守るために正しいヘルメットを使用することは、頭部外傷を防ぐ有効な手段と言えます。また、傷口を清潔に保つことも重要です。
定期健康診断で脳の検査を行うことも、脳膿瘍の早期発見に有効な場合があります。
脳膿瘍は放置することで生命に関わる病気です。また、治療の開始時期が遅れることで、脳膿瘍の再発や麻痺、言語障害、てんかん発作などの後遺症が残る場合があります。そのため適切な治療を行うことが重要です。


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