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単純ヘルペス脳炎(こども)
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

単純ヘルペス脳炎(こども)の概要

単純ヘルペス脳炎は、単純ヘルペスウイルス (HSV) が脳に感染して引き起こされる重篤な疾患です。HSVには1型 (HSV-1) と2型 (HSV-2) があり、年長児から成人のヘルペス脳炎のほとんどはHSV-1によるものです。
ウイルスは初感染後、神経節に潜伏し、再活性化することで脳に炎症を引き起こします。主な症状としては、発熱、頭痛、意識障害、けいれん、言語障害、記憶障害などが挙げられます。これらの症状は急速に進行することが多く、早期の診断と治療が重要です。
診断には、脳脊髄液の検査画像診断 (MRIなど) が用いられます。治療には、抗ウイルス薬 (アシクロビルなど) の早期投与が効果的であり、適切な治療により致命率は低下しますが、それでもなお後遺症を残す可能性があります。
単純ヘルペス脳炎は迅速な対応が求められる疾患であり、疑わしい症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診することが大切です。

単純ヘルペス脳炎(こども)の原因

単純ヘルペス脳炎は、単純ヘルペスウイルス (HSV) の感染が原因となります。このウイルスには1型 (HSV-1) と2型 (HSV-2) の2種類がありますが、小児のケースでは特にHSV-1が関与することが多いです。単純ヘルペスウイルスは、皮膚や粘膜を通じて体内に侵入し、初感染後に神経節という場所に潜伏します。このウイルスは通常、潜伏した状態のまま問題を起こしませんが、初感染の際や何らかのきっかけで再活性化した際に脳へ広がり炎症を引き起こすことがあります。
単純ヘルペス脳炎になりやすい原因は明確にはわかっていませんが、いくつかの遺伝子の異常がなりやすさに関連している可能性があると言われています。 (参考文献1,2)

単純ヘルペス脳炎(こども)の前兆や初期症状について

単純ヘルペス脳炎の小児における主な症状は、年齢によって異なります。

新生児 (生後28日以内) の場合

初期症状としては発熱、哺乳力の低下、元気がないなどが見られ、進行すると発疹、けいれん、呼吸障害、出血しやすくなるなどが現れることがあります。皮膚の発疹以外は特徴的な症状がないものの、明らかな発疹がない場合も多いため注意が必要です。

小児 (新生児期を過ぎた子ども) の場合

初期症状としては発熱とけいれんがよく見られます。神経症状としては意識障害、けいれん、言語障害などがよく現れます。人格変化が見られることもあります。これらの症状はすべてが一度に現れるわけではなく軽い症状の場合もありますが、大人と比較して小児では急速に進行して重篤な意識障害になることも多いです。
(参考文献1,2)

単純ヘルペス脳炎(こども)の検査・診断

単純ヘルペス脳炎の診断には、いくつかの検査が行われます。この疾患は症状が急速に進行するため、早期に正確な診断を行うことが非常に重要です。

まず、疑わしい症状が見られた場合、髄液検査が行われます。この検査では、背中から少量の髄液を採取し、単純ヘルペスウイルスの有無を調べます。単純ヘルペスウイルスが原因の場合、髄液の中に赤血球や白血球、タンパク質の増加が見られることが多いです。また、特に信頼性が高い方法として、PCR法 (遺伝子検査) が使われます。この検査でウイルスのDNAが検出されると、単純ヘルペス脳炎を迅速に診断できます。一方、非常に疑わしい症状が見られるにも関わらず髄液検査では陰性だった場合は、24時間後に再検査することもあります。

また、診断を補助するために画像検査が行われることもあります。頭部MRIでは特に側頭葉に異常が見られることが多いという特徴があります。そして、精神疾患やてんかんではないことを確認するために脳波検査が行われることもあります。

これらの検査を組み合わせて、単純ヘルペス脳炎である可能性を評価し、迅速に治療を開始します。 (参考文献1,2)

単純ヘルペス脳炎(こども)の治療

単純ヘルペス脳炎は早期の治療が非常に重要な疾患で、主に抗ウイルス薬が用いられます。特にアシクロビルという薬が標準的な治療薬として使われています。この薬はウイルスの増殖を抑える働きがあり、早期に投与を開始することで症状の悪化を防ぎ、命に関わるリスクを減らします。

単純ヘルペス脳炎の確定診断には時間がかかるため、疑われた段階でアシクロビルによる点滴治療を開始します。そして髄液検査のPCR法が陰性でMRI検査などでも脳炎の可能性は低いと判断された場合、治療は中止されます。一方、単純ヘルペス脳炎であると確定した場合は治療開始後7日ごとにPCR検査を行い、2回陰性が確認された時点で治療を終了します。つまり、アシクロビルの投与期間は、通常2~3週間程度となります。 (参考文献2)

単純ヘルペス脳炎(こども)になりやすい人・予防の方法

HSV−1は2歳に感染することが多く、6歳くらいまでに多くの人が感染する病気です。その中で単純ヘルペス脳炎を発症してしまう子どもは日本において毎年80〜160例ほど見られます。新生児や乳児は始めてHSVに感染した際に発症することが多いですが、年長児以降は何らかのきっかけでHSVが再活性化することにより単純ヘルペス脳炎が生じてしまう場合が多いです。

日本の感染症法では、単純ヘルペス脳炎は「五類感染症」に分類されており、医師が患者を診断した場合には速やかに届け出を行うこととなっています。これにより発生状況が把握され、対策が講じられる仕組みになっています。 (参考文献1)

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  • 急性壊死性脳症
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