目次 -INDEX-

脊髄腫瘍
木村 香菜

監修医師
木村 香菜(医師)

プロフィールをもっと見る
名古屋大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院や、がんセンターなどで放射線科一般・治療分野で勤務。その後、行政機関で、感染症対策等主査としても勤務。その際には、新型コロナウイルス感染症にも対応。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。また放射線治療医として、がん治療にも携わっている。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医。

脊髄腫瘍の概要

脊髄腫瘍は、脊髄や脊柱管内に発生する腫瘍を指します。脊髄は、太い神経のようなもので、硬膜(こうまく)に包まれています。脊髄腫瘍は、発生する場所によって、以下の3つに分類されます。

髄内腫瘍

脊髄そのものに発生する腫瘍です。例えば、神経膠腫(しんけいこうしゅ)や星細胞腫、上衣腫などの脊髄自体の内部の細胞から発生します。

硬膜内髄外腫瘍

硬膜の内側で、脊髄と硬膜の内側にできる腫瘍です。
髄膜腫や神経鞘腫という良性腫瘍の発生頻度が高いです。

硬膜外髄外腫瘍

脊髄の外側に発生する腫瘍で、ほかの部位にできたがんが転移した、転移性腫瘍が多くみられます。このタイプの腫瘍は、脊髄を圧迫し、脊髄の機能に影響を与える可能性があります。これにより、運動機能の低下や感覚異常が進行し、場合によっては完全な麻痺をきたすこともあります。脊髄の外側から脊柱を侵す腫瘍が大きくなると、急速に症状が悪化するケースもあります。

このように、脊髄腫瘍は部位や腫瘍の種類、症状や治療法が異なります。主に、腫瘍の圧迫による神経障害が大きな問題となります。
これらの硬膜内髄外腫瘍と脊髄髄内腫瘍を合わせた脊髄腫瘍の発生頻度は、人口10万人あたり約1.5人とされており、稀な腫瘍です。発生頻度は少ないものの、早期発見と治療が後遺症を防ぐために極めて重要です。

脊髄腫瘍の原因

脊髄腫瘍の原因は複雑で、明確に特定されたものは多くありませんが、以下のような要因が関連していると考えられています。

遺伝的要因

一部の脊髄腫瘍は遺伝的要因に関係していることがあります。
たとえば、神経線維腫症Ⅱ型(Neurofibromatosis)やフォン・ヒッペル・リンドウ病(Von Hippel-Lindau disease)などの遺伝性疾患は、脊髄腫瘍の発生リスクを高めることが知られています。
これらの遺伝性疾患は、特定の遺伝子変異によって腫瘍が形成されることが多いです。
神経線維腫症Ⅱ型では、聴覚に関連する神経に良性腫瘍が発生することが特徴です。この病気では、脊髄内神経膠腫も伴うことがあります。
フォン・ヒッペル・リンドウ病では、血管の豊富な腫瘍が体のいろいろな部位にできることが特徴です。脊髄にも、血管腫という腫瘍ができることがあります。

免疫系の異常

一部の腫瘍は、免疫系の異常や変化によって発生することがあります。免疫システムが正常に機能しない場合、体内で異常な細胞増殖が抑制されず、腫瘍の形成につながることがあります。

環境要因と外的要因

放射線被曝が脊髄腫瘍の発生リスクを高めることが知られています。特に、以前にがん治療で放射線療法を受けた患者さんや、高レベルの放射線にさらされた人々は、脊髄腫瘍を発症する可能性が高くなります。また、化学物質や発がん性物質への暴露もリスクを増加させる可能性があります。

原発性腫瘍と転移性腫瘍

脊髄腫瘍は、原発性腫瘍(脊髄や脊柱自体から発生する腫瘍)と転移性腫瘍(他の臓器から脊髄に転移した腫瘍)に分けられます。転移性腫瘍は、主に肺がん、乳がん、前立腺がんなどのがん細胞が血流を通じて脊髄に広がった場合に発生します。脊髄腫瘍の中には、こうしたほかの部位のがんが脊髄に転移してできるケースが多く含まれます

その他の要因

脊髄腫瘍の発生には年齢も関係があるとされており、中高年層に発症リスクが高いと考えられます。加えて、腫瘍の種類によっては特定の性別や年齢層に多く見られることもあります。
このように、脊髄腫瘍の原因はさまざまな要因が関与しているため、複合的に検討する必要があります。

脊髄腫瘍の前兆や初期症状について

脊髄腫瘍の初期症状は、腫瘍の位置や大きさによって異なります。 代表的な症状には、以下のようなものがあります。

  • 腕や足に感じるしびれや麻痺
  • 筋力の低下
  • 腰や首の痛み
  • 排尿・排便の制御障害
  • バランス感覚の喪失
  • 特に腕や脚の感覚喪失または筋力低下

これらの症状は、徐々に進行する場合もあれば、急に悪化する場合もあります。 特に、持続的な背中や首の痛み、感覚に異常が見られる場合は、早めに受診することが大切です。

どの診療科目を受診すればよいか

上記のような症状があり、脊髄腫瘍が疑われる場合、まずは整形外科や内科を受診するとよいでしょう。症状によっては、脳神経外科や神経外科での診察が推奨されることもあります。

脊髄腫瘍の検査・診断

脊髄腫瘍を診断するためには、いくつかの画像検査が行われます。代表的な検査としては、以下のようなものがあります。

MRI検査

脊髄の詳細な画像を得るために最も一般的な検査です。腫瘍の位置や大きさ、神経への圧迫具合を正確に確認できます。

CTスキャン

骨の異常を確認するために使用されることが多く、腫瘍が脊柱にどのように影響しているかを調べます。

脊髄造影

脊髄に造影剤を注入して、腫瘍による圧迫や神経の変形を確認する検査です。

生検

悪性か良性かを判断するために、組織の一部を採取して顕微鏡で分析します。

脊髄腫瘍の治療

脊髄腫瘍の治療は、腫瘍の大きさや位置、悪性度、患者さんの全体的な健康状態に応じて異なります。症状が軽く、進行が遅いときには、高齢者の場合には経過観察をするケースもあります。
主な治療法には以下のものがあります。

外科の手術

腫瘍をできる限り摘出することが目標です。 良性の腫瘍であれば、摘出によって完全に治癒する可能性がありますが、悪性の場合は、摘出後に放射線治療や化学療法など追加の治療が必要です。

放射線療法

手術が難しい場所にある腫瘍や、手術後の残存腫瘍について行われます。高エネルギーの放射線を照射することで腫瘍の縮小や成長スピードの鈍化を図ります。

化学療法

悪性の脊髄腫瘍や転移性腫瘍に対して行われることがあります。

ステロイド療法

腫瘍による神経の圧迫や炎症を軽減するために使用されますが、根本的な治療ではなく、症状を和らげることを目的とします。

脊髄腫瘍になりやすい人・予防の方法

脊髄腫瘍の発症リスクを高める原因として、以下が挙げられます。

遺伝的関与

一部の脊髄腫瘍は遺伝性の病気と関連しているため、家族に脊髄腫瘍や他の神経系の腫瘍がある場合、リスクが高くなる可能性があります。

放射線被曝

過去に放射線治療を受けたことがある場合、その部位に腫瘍が発生するリスクが高くなります。

予防方法

脊髄腫瘍の具体的な予防方法は確立されていませんが、以下の点に注意することでリスクを軽減できる可能性があります。

定期的な健康診断

腫瘍の早期発見が重要であり、特に脊髄に異常が見られた場合には、早急な診断と対応が必要となります。 特に、神経系の異常が見られた場合には、 MRI検査などの画像診断を受けることが推奨されます。

遺伝的リスクの管理歴

家族に脊髄腫瘍や遺伝性疾患がある場合、専門の遺伝カウンセリングを受け、リスクを確認することが大切です。これにより、リスクが高いと判断された場合には、初期のモニタリングを行うことができます。

生活習慣の改善

規則正しい生活習慣が健康の基本です。バランスの取れた食事や適度な運動を心がけ、免疫力を維持することが重要です。 特に、抗酸化のある食品(野菜や果物など)を積極的に摂取し、免疫系をサポートすることが、腫瘍の発生リスクを軽減させる可能性があります。また、適切な体重管理やストレスコントロールも全身の健康維持に役立ちます。

職場でのリスク管理

放射線にさらされるリスクがある職業の場合、職場での安全対策を徹底し、被曝量を考慮することが大切です。


関連する病気

  • 神経鞘腫(Neurofibroma)
  • 神経線維腫症(Neurofibromatosis)
  • 髄膜腫(Meningioma)
  • 悪性神経膠腫(Malignant Glioma)

この記事の監修医師