

監修医師:
前田 広太郎(医師)
細菌性髄膜炎の概要
細菌性髄膜炎は細菌感染により頭痛や発熱、意識障害などの症状が出現し、未治療では急速に重篤化する疾患です。免疫学的に未熟な状態の人や、乳幼児に多いとされます。起因菌は年齢層によって大きく異なります。腰椎穿刺による髄液検査で確定診断を行います。発症から治療までの時間が長引くと死亡率が上昇することから、診断のための検査が困難な場合は、早期治療を優先し副腎皮質ステロイドおよび抗菌薬の経験的治療を早急に開始します。ワクチン接種にて特定の細菌に対する予防が可能です。
細菌性髄膜炎の原因
細菌性髄膜炎は、細菌感染により髄腔内で細菌が急速に増殖し、炎症性サイトカインやケモカインなどが産生されることにより起こります。年齢によって原因菌が異なります。生後1ヶ月未満ではB群連鎖球菌と大腸菌が多く、母親からの垂直感染が主な原因となります。1~3ヶ月ではB群連鎖球菌が多いです。4ヶ月~5歳は、免疫学的に未熟な状態であり細菌性髄膜炎の発症率が最も高い時期で、インフルエンザ菌b型髄膜炎、肺炎球菌によるものが多かったですが、ワクチンの導入により減少しています。その他、リステリア菌、髄膜炎菌、連鎖球菌などがみられます。6~49歳では、免疫の成熟に伴い細菌性髄膜炎の発症はきわめてまれとなり、発症の約半数が様々な基礎疾患を有しています。約60~70%が肺炎球菌で、10%がインフルエンザ菌とされています。50歳以上では肺炎球菌が最多ですが、インフルエンザ菌に加え、B群連鎖球菌や腸内細菌、緑膿菌もみられます。
細菌性髄膜炎の前兆や初期症状について
成人の場合、数時間のうちに急速に進行する急性劇症型と、数日かけ進行性に悪化する場合があります。しばしば上気道感染が髄膜炎症状に先行しています。典型的な症状としては、頭痛(85.9~87%)、項部硬直( 82~84.3%)、発熱(77~97%)、意識障害(66~95.3%)が多いとされます。これらのうち2つが出現する典型例は約50%であり、1つしか症状も認めない例や1つも症状がない例も存在します。神経学的症状として、5~17%の患者で痙攣がみられ、巣症状(失語、片麻痺、四肢麻痺、など)が9.9~33%にみられます。他にも聴覚障害や皮疹が出現する場合もあります。
小児では年齢が低いほど症状が軽微でわかりにくく、非特異的症状(発熱、不活発、易刺激性)が前兆となるパターンや、1日程度で特異的症状が出現するパターン、発症後急激に状態が悪化するパターンがあります。発熱が最多で85~99%に認められ、意識障害の変化がみられたり、10~30%で痙攣をきたします。
細菌性髄膜炎の検査・診断
細菌性髄膜炎の確定診断は腰椎穿刺による髄液検査のみで可能です。頭部CTは全例で行う必要はありませんが、意識障害、神経巣症状、けいれん発作、視神経乳頭浮腫、免疫不全患者、60歳以上の患者ではCTで異常所見が検出される可能性が高くなり、撮影することが推奨されます。頭部CTや臨床所見より、脳ヘルニアが疑われず、髄液検査の禁忌(脳ヘルニア兆候:視神経乳頭浮腫、瞳孔固定または散大、除脳・除皮質肢位、チェーン・ストークス呼吸、固定した眼球偏位)でない限りは腰椎穿刺による髄液検査を速やかに行います。ただし、検査を行うことで治療開始が1時間以上遅れる場合には腰椎穿刺よりも治療開始を優先します。髄液検査では、髄液初圧の上昇、多形核球優位の細胞増加、髄液糖低下(髄液糖/血清比≦0.4)、蛋白濃度増加が典型的な所見ですが、新生児では非典型的な所見を呈することもあります。また、血液培養検査や髄液培養検査を行います。尿中肺炎球菌抗原検査や、細菌PCR、細菌抗原検査などを行います。血液検査ではCRPの上昇、プロカルシトニンの上昇といった所見が認められることがあります。
鑑別診断として、ウイルス性髄膜炎、結核性髄膜炎、真菌性髄膜炎、単純ヘルペス脳症、急性脳炎・脳症、頸椎疾患、自己免疫性疾患の中枢神経病変、小児では熱性痙攣などがあり、鑑別には全身的検索と詳細な血液検査を要する場合があります。
細菌性髄膜炎の治療
基本は抗菌薬の全身投与になります。可能な限り早期に適切な抗菌薬を静脈内投与します。病院到着から抗菌薬投与までの時間は平均で4時間といわれ、6時間以上となると有意に死亡率が高くなると言われています。迅速に神経放射線学的検査が施行できない場合はまず抗菌薬の治療を開始します。抗菌薬の種類は、年齢と、免疫不全・慢性消耗性疾患・頭部外傷・脳神経外科処置・シャント留置などの有無により抗菌薬の種類が変わります。使用される主な薬剤はカルバペネム系抗菌薬、バンコマイシン、セフェム系抗菌薬、アンピシリン、など髄液移行性のある適切な抗菌薬を併用して行います。いずれの場合でも、起因菌が判明すればさらに適切な抗菌薬へと変更します。また、成人や乳児期移行の小児では、副腎皮質ステロイドの投与を抗菌薬投与直前または同時に投与することが推奨されています。
細菌性髄膜炎になりやすい人・予防の方法
本邦の細菌性髄膜炎は年間1500人に発症していると推定され、小児が約70%であり、成人例は400~500人程度とされます。Hibワクチン接種や肺炎球菌ワクチンにより細菌性髄膜炎の発症が低減することがわかっています。ワクチン導入後では小児のインフルエンザ菌b型髄膜炎は約90%、肺炎球菌髄膜炎は約70%減少したとされます。いずれも、乳児早期(2ヶ月)からの接種開始と、生後1歳での追加接種が必要であり、定期接種の対象となっています。細菌性髄膜炎になる人の約半数は、慢性副鼻腔炎、中耳炎、肺疾患・心疾患、慢性尿路感染症、慢性消耗性疾患(アルコール依存症、糖尿病、血液疾患、悪性腫瘍)、免疫抑制状態、外傷、髄液漏といった因子をもつといわれており、このような病態を治療することも予防に重要です。また、妊婦がB群連鎖球菌陽性の場合、分娩時に新生児に垂直感染し敗血症や髄膜炎を発症する可能性があることから、抗菌薬投与を分娩時に行うことによりB群連鎖球菌関連の感染症を予防することが可能です。
参考文献
- 1.日本神経学会, 日本神経治療学会, 日本神経感染症学会 監修, 「細菌性髄膜炎診療ガイドライン」作成委員会 編集:細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014. 南江道. 東京. 2014
- 2.齋藤昭彦: 細菌性髄膜炎診療ガイドライン─小児領域. 臨床検査 62:40-43, 2018
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