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脳ヘルニア
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

脳ヘルニアの概要

脳ヘルニアとは、頭の中の圧力が高まり、脳の一部が本来の位置からずれてしまう、非常に危険な状態のことです。脳は頭蓋骨の中で守られた空間に存在し、通常は一定範囲に圧力が保たれていますが、脳出血や脳腫瘍、頭のケガなどが原因でこの圧力が異常に高くなると、脳が圧迫され、生命に関わるような重大な障害を引き起こすことがあります。症状としては、頭痛や吐き気、意識の変化に加え、麻痺や呼吸の異常がみられることがあります。脳ヘルニアが疑われる場合には、CT検査などで頭の状態を確認し、必要に応じて頭の中の圧力を測定することが行われます。治療では、呼吸や血圧などの生命機能を守りつつ、脳の腫れを抑える処置が必要になります。早期の発見・治療が命を救う鍵となるため、気になる症状があれば速やかに医療機関を受診することが大切です。

脳ヘルニアの原因

脳ヘルニアの原因は頭蓋内の圧力が上がってしまうことです。

脳は普段、頭蓋骨の中で脳脊髄液という液体のなかにプカプカ浮かんでいるような状態です。脳脊髄液が通るための通路はありますが、頭蓋内は基本的に外部から隔絶された環境であり、何らかの原因で内部の圧力が上がっても圧力を逃がす場所がありません。

頭蓋内はいくつかの仕切りで分かれているのですが、頭蓋内の圧力が上がると脳が圧迫されます。これにより脳の一部が隣接する空間に押し出されることがあり、これを脳ヘルニアとよびます。

頭蓋内圧が高まる状態・疾患が脳ヘルニアの原因になるわけですが、代表的なものとして脳出血、脳梗塞後の脳浮腫、脳腫瘍、頭部外傷があります。どの場所がヘルニアを起こしても速やかに治療しなければいけませんが、呼吸機能をはじめとする生命維持に必須の機能を司る脳幹が圧迫されるような場合には、特に命が危ない状態になります。

脳ヘルニアの前兆や初期症状について

脳ヘルニアの兆候は、まず頭蓋内圧の亢進に伴う症状として現れます。主な症状は、頭痛、嘔吐、意識レベルの低下などであり、これらは脳ヘルニアを起こす前の症状として重要です (参考文献 1) 。

脳ヘルニアにはいくつかのタイプがありますが、特に危険なものとして脳幹を圧迫するようなものがあります。このような状態になると、一般の方がわかる症状として麻痺や姿勢の異常、呼吸がおかしくなるといった症状が出てきます (参考文献 2) 。放置すると呼吸が停止するような、緊急性の高い状態です。

脳ヘルニアは生命にかかわる重大な疾患です。脳ヘルニアになるリスクが高い方は、既に他の中枢神経系疾患で入院中の場合も多いですが、脳出血や脳腫瘍を背景に脳ヘルニアを発症する場合には家庭で発症する場合もあるでしょう。先述のような症状があれば、家にいれば救急車をよび、入院中であれば速やかに周りにいる医療スタッフを呼んでください。

脳ヘルニアの検査・診断

脳ヘルニアが疑われる場合、画像検査による迅速な評価が必要です。頭部CTは初期評価において有効な手段であり、脳実質内の出血や梗塞、偏移のほかに、脳室の圧迫所見、腫瘍の存在などを確かめることができます(参考文献 1) 。

また、脳室内にチューブを入れることで、直接頭蓋内圧をモニタリングすることもあります (参考文献 1, 2) 。リアルタイムで脳圧の推移を把握することができるようになり、治療方針の策定に役立ちます。

脳ヘルニアの治療

脳ヘルニアでは血圧や呼吸など、生命維持に必須の機能が障害されるため、まずはこれらの機能をサポートするための処置を行います。人工呼吸器を用いた呼吸管理をしたり、カテーテルを体に入れて血圧を保つための薬剤投与を行います。
いったん状態を安定させた後は、頭蓋内圧亢進の原因となった病態に対する治療を行います。原疾患によって対応が異なるのでここでは割愛します。
そのほかには、頭蓋内圧のコントロールのために水分管理や体温管理を行います (参考文献 1, 2) 。薬剤を用いて患者を鎮静状態にすることで頭蓋内圧の変動を抑えたり、痙攣 (けいれん) の管理など並行して行うため、集中治療室での対応が必要になります (参考文献 1) 。
頭蓋内圧を下げるためにマンニトールや高張食塩水を投与したり、脳腫瘍や脳膿瘍が原因の場合にはステロイドを用いることもあります (参考文献 1, 2) 。

直接頭蓋内圧を下げるために脳室ドレナージや頭蓋骨を開けて内部圧力を下げる選択肢もありますが、必要性に関しては専門家が議論して判断します (参考文献 1, 2) 。

脳ヘルニアになりやすい人・予防の方法

脳腫瘍がある人、直近で脳卒中を起こしたり、強く頭を打った人は脳ヘルニアのハイリスクと言えるでしょう。脳腫瘍により脳脊髄液の通り道が邪魔されたり、脳卒中やケガによって脳が腫れたり、頭の中で血液がたまると、脳が押されて本来の位置からずれてしまう危険があります。

重症化予防のために一番大切なのは、先述のような前兆や初期症状があればすぐに病院を受診したり、周りの医療スタッフへ異常を知らせることです。たとえば「急に強い頭痛がする」「吐き気が続く」「意識がもうろうとしている」「片方の手足が動かしにくい」「瞳の大きさがおかしい」などの症状があれば、すぐに医療機関を受診してください。



参考文献

  • 1. Stieg PE et al. Evaluation and management of elevated intracranial pressure in adults. UpToDate. Nov 13, 2024.
  • 2. Simon DW et al. Elevated intracranial pressure (ICP) in children: Management. UpToDate. Nov 04, 2024.

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