

監修医師:
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)
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大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。また、後進の育成事業として、専門医の知見が、医療を変えるヒントになると信じており、総合内科専門医(内科専門医含む)としては1200名、日本最大の専門医コミュニティを運営。各サブスぺ専門医、マイナー科専門医育成のコミュニティも仲間と運営しており、総勢2000名以上在籍。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。
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レット症候群の概要
レット症候群とは、乳幼児期に症状が現れる神経系の発達障害であり、ほとんどの場合で女児に見られます。発症の割合は1万人当たり0.9人とされており、希少な疾患として国によって難病指定されています。1966年にウィーンの小児神経科医であるAndreas Rettによって初めて報告された病気で、発見者のレットの名前が病名となっています。症状や病気の程度は個人によって差がありますが、全体の80%ほどに見られる典型例として、生後半年くらいまでは目立った症状が見られません。しかし、その後発達が止まり、歩行や四つん這いなどの運動能力の遅れ、身体がぐにゃぐにゃと柔らかい、外からの刺激に対する反応の鈍さなどの症状が見られるようになります。現在において根本的な治療法は見つかっておらず、各症状に合わせた対症療法が中心となります。レット症候群の原因
レット症候群は、特定の遺伝子の変異が原因で起こります。具体的には、典型例の患者さんのおよそ9割において、X染色体のXq28と呼ばれる位置に存在する「MECP2」という遺伝子の変異が確認されています。この遺伝子は、脳細胞に多く存在する特定のタンパク質の調整をつかさどっており、ここが変異を起こしていることで、脳細胞が正しく機能することができなくなると考えられています。人間の性染色体にはX染色体とY染色体の2本が存在し、性染色体の組み合わせで性別が決まります。XYの組み合わせだと男性となり、XXの組み合わせで女性として生まれます。上述のMECP2遺伝子はX染色体に存在するため、レット症候群の原因となる変異が起こった場合、X染色体が1本のみの男性は正常に発達できず、したがってほとんどが生まれることなく流産となります。 一方、女性においては1本のX染色体に異常があっても、もう1本のX染色体がその働きを補完するため、死産とはならずレット症候群として生まれてきます。これがレット症候群の患者さんのほとんどが女性である理由とされています。このように遺伝子の異常によって起こる病気であり、遺伝子の変異を母親から受け継ぐか、または新たに変異が起きてレット症候群となります。この病気はほとんどの場合において、両親に遺伝子の変異はなく、その子どもで新たに変異が起こっての発症となります。その他、非典型例としてそれ以外の遺伝子変異によって起こるパターンも存在しますが、原因となる遺伝子によってはレット症候群と区別される場合もあります。レット症候群の前兆や初期症状について
レット症候群の特徴が現れるのが生後半年を過ぎたあたりで、運動の遅れ、身体が柔らかい、外界への反応に乏しい、視線が合いにくい、といった自閉症状が見られるようになります。その後、1歳6ヶ月から3歳までに、手の運動に特徴が現れ、手を合わせる手もみ、一方の手で胸を叩くような動作といった特有の繰り返し運動が出現します。また、この時期に四つん這い、歩行などの運動機能にも支障が出始め、ほか、それまで出ていた言葉が出なくなったりする退行現象が認められます。その他、現れる頻度の高い症状として、重度の知的障害、てんかん発作、後天的な小頭症、歩行時の異常、ふらつき、夜間に覚醒して騒ぐ、睡眠障害、歯ぎしり、過呼吸と無呼吸を交互に繰り返す呼吸障害、および小さく冷たい手足、頑固な便秘などの自律神経症状、脊柱の側彎などが挙げられます。年齢によってさまざまな症状が現れるのが特徴で、日本での典型例に対する調査によると、以下のような経過をたどることが知られています。第1期
発達停滞期(生後6〜18ヶ月) 四つん這い、歩行などの運動の遅れが起き、喃語や意味のある言葉が出た後、言語の発達がみられなくなります。第2期
退行期(1~4歳から) 運動や言語において、急激な退行がみられるようになります。手で物を持てなくなり、目的に沿った運動ができなくなり、手もみなど手の繰り返し運動が出ます。それまで歩行できていた子どもでも歩行障害が出現し、周囲とのコミュニケーションが取れなくなります。第3期
仮性安定期(2歳〜10歳に始まり、数年から数十年続く) 急激な退行の後に、症状が安定する時期です。視線はよく合うようになります。手の繰り返し運動や呼吸の異常、歯ぎしりなどが出るようになります。てんかんはこの時期に多く生じ、身体のこわばり(筋緊張)が次第に進むようになります。第4期
晩期機能低下期(10歳〜) 動きが減り、足や手を使わないために筋肉が衰え、自力での歩行が困難となります。筋緊張は更に進み、ジストニアと呼ばれる不随意運動が顕著になり、脊柱の側弯も見られ、運動機能全般が低下します。レット症候群の疑いで病院を受診する際は、小児神経科が専門となります。
レット症候群の検査・診断
レット症候群の診断にあたっては、発育段階において前項で述べた症状が見られるかどうかの観察といった臨床的な診察が主で、診断の確定のために遺伝子検査を用います。レット症候群の診断には基準があり、手の運動機能、言語の機能、歩行の異常、手の繰り返し運動のそれぞれが基準を満たし、かつ、レット症候群以外の脳の障害や損傷、他の発達障害ではないと確認された場合、診断が確定されます。レット症候群の治療
現時点でこの病気に対する根本的な治療方法は存在せず、したがって各症状に応じた対症療法が行われます。運動の部分に関しては理学療法や作業療法が主な対処となり、言語に対しては言語療法が行われます。長時間続くけいれんの症状に対しては、抗けいれん薬を調整し、便秘の症状には対応する薬を使用することもあります。また、食べ物を飲み込むのに時間がかかるので、食事の際の工夫も必要となり、その際は誤嚥性肺炎にも注意が必要です。傾向として骨折がやや多いことが報告されているので、定期的に骨密度などを測定し、活性型ビタミンDやカルシウムを処方する場合もあります。 その他の症状として、不整脈が出たり、側弯の進行に対してはそれぞれ循環器科や整形外科と連携し、必要な対処を取ります。歯ぎしりをする患者さんも多く、歯がすり減るといった症状が起きやすいため、歯科での定期的な検診も必要です。ほか、運動面や精神面への作用を考え、水泳や音楽療法などが試みられています。現在においては新規の治療薬の開発や遺伝子治療の治験が始まっており、今後の成果が待たれるところです。レット症候群になりやすい人・予防の方法
レット症候群は遺伝子の異常によって起こるため、これといった予防の手立てはありません。原因の項でも述べた通り、X染色体の変異に起因するため、病気を持って生まれてくるのはほぼ女性となります。人種による差は見られず、また特定の地域に偏りも見られず、世界中すべての国で発生すると考えられています。ほとんどの場合において、家族性ではなくその子供で起きた変異がもとで発症しますが、レット症候群の患者さんが子どもを持った場合、母親から娘に遺伝する確率は50%です。関連する病気
- てんかん(Epilepsy)
- 呼吸障害(Respiratory Disorders)




