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脳脊髄液減少症
勝木 将人

監修医師
勝木 将人(医師)

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2016年東北大学卒業 / 現在は諏訪日赤に脳外科医、頭痛外来で勤務。 / 専門は頭痛、データサイエンス、AI.

脳脊髄液減少症の概要

脳脊髄液減少症とは、脳や脊髄を保護する役割を持つ脳脊髄液が漏れ出す、あるいは減少する疾患です。

脳脊髄液は、頭部や脊髄の中でクッションの役割を果たしており、一定の圧力を保つことで脳や脊髄が正常に機能します。
しかし何らかの理由で脳脊髄液が減少すると、圧力が低下して頭痛や頚部痛、めまい、倦怠感、耳鳴りなどの症状を引き起こします。

脳脊髄液減少症は、発症原因が外傷性や医療性、突発性(非外傷性)に分けられますが、いずれの場合も、特徴的な症状が現れるため、早期の診断と治療が重要です。

脳脊髄液減少症

脳脊髄液減少症の原因

脳脊髄液減少症の要因として、外傷性、医療性、突発性の3つが挙げられます。

外傷性

外傷性の脳脊髄液減少症は交通事故やスポーツ外傷、転倒、暴力などによるものがあります。
強い外傷を受けた際に硬膜が破れ、脳脊髄液が減少してしまうことが原因で、特に頭や腰、背中に強い衝撃が生じた場合は注意が必要です。

医療性

医療性の脳脊髄液減少症は、脊髄手術や整体治療によるものがあります。
医療行為として行われる腰椎穿刺や硬膜外麻酔などで硬膜が穿刺された後に、脳脊髄液が漏れ出して発生する場合もあります。
体を起こした際に頭痛が増悪し、横になると症状が軽減するのが特徴です。

突発性(非外傷性)

突発性の脳脊髄液減少症は、要因が不明であるものや明らかなきっかけがないものを指します。
加齢や遺伝的要因などによって硬膜がもろくなっている場合、自然に硬膜が破れ、脳脊髄液減少症を発症する可能性もあります。

脳脊髄液減少症の前兆や初期症状について

脳脊髄液減少症の典型的な症状として、立ち上がった際の頭痛(起立性頭痛)や悪心、嘔吐、全身の倦怠感、めまい、ふらつき、耳鳴りなどが挙げられます。
慢性化してくると、頚部痛や肩こり、聴力や視力の低下、注意力や集中力、記憶力の低下を引き起こす可能性も高いです。

起立性頭痛

脳脊髄液減少症の特徴的な症状は、起き上がった時に悪化し、横になると軽減する起立性頭痛です。
脳脊髄液が減少して脳が浮力を失い、脳の重みが頭蓋内の神経や血管に負荷をかけることで発生します。
脳の浮力低下に伴い、吐き気や嘔吐、めまい、ふらつきが発生することもあります。

耳鳴りや聴覚異常

脳脊髄液減少症では、耳鳴りや聴覚異常を訴えるケースもあります。
脳脊髄液は内耳の機能にも影響し、圧力の変化によって内耳内の神経や感覚細胞が刺激されたり、内耳のリンパ液のバランスが崩れるからです。
耳の中で「ジー」という音が鳴る、あるいは音が遠く感じることが症状として挙げられます。

視覚障害

脳の圧力低下が視神経に影響を与えるため、視覚障害を訴える人もいます。
物がぼやけて見えたり二重に見えたりすることが多いです。

脳脊髄液減少症の検査・診断

検査と診断には造影頭部MRIや脊髄MRI、MRIミエログラフィー 、RI脳槽造影(RIシステルノグラフィー)、CTミエログラフィーが挙げられます。

造影頭部MRI

造影頭部MRIは、造影剤を使用して脳脊髄液の漏れや圧力低下の有無を確認するための画像検査です。
造影剤を血管内に注入してMRIを撮影することで、脳脊髄液がどこから漏れているかを特定します。
脳脊髄液の圧力低下による影響で脳が下に引っ張られる様子が見られることがあります。

脊髄MRI

脊髄MRIは、脳脊髄液が漏れている場所を特定するために必要です。
脊椎のMRI画像を撮影することで、硬膜の損傷箇所を発見し、脳脊髄液減少症の診断に役立ちます。
脊椎の一部に液体がたまっている様子が確認されれば、脳脊髄液が漏れている箇所が見つかる可能性が高まります。

MRIミエログラフィー

MRIミエログラフィーは、脳脊髄液の漏れをより詳細に確認するための検査です。
造影剤を直接脊髄に注入してMRI撮影を行うと、脳脊髄液の流れがわかるためどこで漏れが発生しているか確認できます。
造影MRIよりも詳細な情報を得られるため、漏出箇所の正確な特定に役立ちます。

RI脳槽造影(RIシステルノグラフィー)

RI脳槽造影は、アイソトープ(放射線を放出する特性を持つ物質)を用いて脳脊髄液の動きを観察する方法です。
放射性物質を脳脊髄液内に注入し、流れを追跡することで、脳脊髄液の漏出箇所や漏出量を測定します。
漏れが確認できなかった場合や、漏出箇所を特定する場合の補助的な役割を果たします。
検査には短い半減期を持つ放射性物質が用いられ、体内に放射性物質が長く残らず、検査後は比較的短時間で排出されるため安全です。

CTミエログラフィー

CTミエログラフィーは、脳脊髄液の流れや漏れを確認するための検査です。
造影剤を脊髄内に注入し、脳脊髄液の漏れをCT画像で確認します。
骨の構造や硬膜の細部を確認するのに優れているため、手術や治療方針を決定する際に適しています。

脳脊髄液減少症の治療

脳脊髄液減少症の治療は保存療法やブラッドバッチ療法や外科的治療が挙げられます。
治療法の成功率は高いものの、すべての患者が完全に治るわけではなく、症状が長引くケースや、再発が見られるケースも存在します。

治療法の選択は、症状の重症度や急性期、慢性期で異なり、急性期の場合は保存療法を取ることが多く、臥床安静と十分な水分摂取などを行います。
慢性期の場合や保存療法で改善しない場合は、ブラッドバッチ療法や外科的治療が選択されます。

ブラッドパッチ療法

ブラッドパッチ療法は、患者自身の血液を硬膜外腔に注入し、漏れを塞ぐ治療法です。
特に外傷性脳脊髄液減少症に対して効果が高いとされています。

外科的治療

ブラッドパッチ療法が効果を示さない場合や、脳脊髄液の漏れが特に激しい場合には、外科手術が行われることがあります。
手術では、硬膜の破れた箇所を縫合するか他の組織を使用して補修を行い、脳脊髄液の漏出を防ぎます。
硬膜の損傷が広い場合、患者自身の組織(筋膜や脂肪など)や人工材料を用いて破れた部分を覆うパッチグラフト手術が行われます。

脳脊髄液減少症になりやすい人・予防の方法

脳脊髄液減少症は頭部や頚部へのスポーツ外傷や交通事故などの大きな外傷的要因によって引き起こされます。
そのため、体がぶつかり合うような激しいスポーツを行う人や、大きな事故にあったことがある人は脳脊髄液減少症になりやすいです。

硬膜が脆くなっており、転倒しやすい高齢者も脳脊髄液減少症を発症しやすいため注意してください。
腰椎穿刺などの検査を行った人も、自分の体調変化に気を付けましょう。

予防法は外傷をさけ、頭部や頸部に大きな衝撃を与えないようにすることが大切です。
激しいスポーツの際、必要であれば頭部や頸部のプロテクターを使用しましょう。

突発性の場合、具体的な予防方法は難しいですが、発症した場合は無理な動作や姿勢を避けて頭部や頸部の負担を軽減するように努めてください。


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