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正常圧水頭症
近藤 類

監修医師
近藤 類(医師)

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2007年秋田大学医学部卒業。日本脳神経外科学会専門医・指導医。

所属
平鹿総合病院
科長

正常圧水頭症の概要

正常圧水頭症とは、何らかの原因で頭蓋(ずがい)内に脳脊髄液(のうせきずいえき)が溜まり、脳が圧迫され症状が出る疾患です。脳脊髄液が溜まり頭の中の圧は高まるものの、正常範囲内から軽度上昇にとどまるため「正常圧水頭症」と呼ばれています。主な症状は、歩行障害や認知機能の低下、尿失禁です。

脳はとても軟らかく、身体にとって重要な神経が詰まっています。脳が障害を受けると再生は難しいため、頭蓋骨(ずがいこつ)や硬膜(こうまく)、くも膜、軟膜(なんまく)といった組織により守られています。

くも膜と軟膜の間は脳脊髄液で満たされており、周りの組織へ栄養分を運ぶほか、脳を守るクッションとしても機能しています。脳が衝撃を受けたとき、脳脊髄液が衝撃を吸収し脳を守る仕組みになっています。

正常圧水頭症は、特発性正常圧水頭症と続発性正常圧水頭症の2つに大別されます。

特発性正常圧水頭症は主に高齢者に発症し、原因ははっきりとしていません。

一方、続発性正常圧水頭症は、頭部外傷やくも膜下出血など、何らかの疾患により二次的に発症するものを指します。正常圧水頭症は、適切な検査や治療によって改善につながりやすい疾患です。

症状を感じたら放置せず、早めに医療機関を受診しましょう。

正常圧水頭症

正常圧水頭症の原因

正常圧水頭症は、原因がはっきり分からない「特発性正常圧水頭症」と、原因が判明している「続発性正常圧水頭症」に分類されます。

特発性正常圧水頭症は60歳以上の人に多いとされていますが、明確な原因は解明されていません。

続発性正常圧水頭症は、くも膜下出血や頭部外傷、髄膜炎など別の疾患が原因となって発症する水頭症です。

特発性正常圧水頭症と続発性正常圧水頭症では、発生のメカニズムは異なりますが、どちらも脳脊髄液の産生や循環、吸収のバランスが崩れることで症状が現れます。

正常圧水頭症の前兆や初期症状について

正常圧水頭症の3大症状は、発生頻度が多い順に歩行障害、認知機能の低下、尿失禁です。

歩行障害

歩行障害は正常圧水頭症のうち、約90%の人に出る症状で、歩行の様子は小刻み、すり足、がに股のような特徴があります。方向転換するときはくり返し足踏みします。

認知機能低下

認知機能の低下は正常圧水頭症のうち約80%の人に起こります。物忘れや判断力の低下など、認知症の症状とよく似ているため、判別が難しいこともあります。

尿失禁

尿失禁は約60%の人に出現する症状です。尿意切迫感という突然強い尿意を感じることや、尿が我慢できずに漏らしてしまうなどの症状が出ます。

これらの症状は時間をかけて進行していくケースが多いため、はじめのうちは気がつきにくいかもしれません。日常生活の中で少しでも異変を感じたら、医師へ相談することをおすすめします。

正常圧水頭症の検査・診断

正常圧水頭症では、医師の問診にくわえてタップテストや画像検査などの検査結果を総合的に判断し、診断を行います。

タップテスト

タップテストとは、 腰椎穿刺(ようついせんし)によって脳脊髄液を少量排除し、その後に症状の変化をみる検査です。腰椎穿刺とは、腰椎の間から針を刺して脳脊髄液を取り除いたり、薬剤を注入したりする医療手技です。

検査で取る脳脊髄液量は約30mlで、同時に圧力の測定と取った脳脊髄液の検査もおこないます。症状が改善した場合、正常圧水頭症の可能性が高いと判断します。

脳脊髄液を排除したあとの症状の変化は数日以内に起こり、3大症状のうちまずは歩行障害の改善がみられるケースが多いです。

タップテストで症状の改善が見られた場合、シャント術という手術に適応する可能性が高いと判断されます。

画像検査

CT検査やMRI検査などにより、異常の有無を確認します。

正常圧水頭症の画像所見では、脳室(のうしつ)が拡大していることがほとんどです。脳室とは、脳の中にある部屋のようなもので、左右一対の側脳室と第3脳室、第4脳室があります。

脳室にも脳脊髄液は存在しているため、正常圧水頭症の場合、脳室が大きくなっている所見が確認できます。

正常圧水頭症の治療

正常圧水頭症の主な治療方法は手術です。

正常圧水頭症では体内にシャントを作り、頭の中に溜まった脳脊髄液を逃し、圧迫を取り除かなければなりません。脳脊髄液は出せば出すほどよいというわけではありません。そのため、溜まっている脳脊髄液の量を調節できる、専用のバルブを体内に埋め込みます。

以下の3つは、正常圧水頭症でおこなわれる手術の種類です。

  • 脳室腹腔シャント(V-Pシャント)
  • 脳室心房シャント(V-Aシャント)
  • 腰部腹腔シャント(L-Pシャント)

脳室腹腔シャントは脳室と腹腔内(おなかの中)を、脳室心房シャントは脳室と心臓を、腰部腹腔シャントは脊髄くも膜下腔と腹腔内をつなぎます。

各手術の方式には特徴や適用条件があるため、患者の状態に合わせて選択します。

これらの治療をおこなうことで、正常圧水頭症の症状が改善されるケースは多いです。

正常圧水頭症になりやすい人・予防の方法

以下の項目は、正常圧水頭症になりやすい人です。

  • 60歳以上である
  • くも膜下出や髄膜炎、頭部外傷の既往がある

60歳以上の方は、若年の方よりも発症する可能性が高いです。歩行障害や認知機能の低下、尿失禁など正常圧水頭症の症状が出現したら、見過ごさないようにしましょう。

くも膜下出血や髄膜炎、頭部外傷の既往がある人も正常圧水頭症になるリスクがあります。

これらの疾患を患ったあとは、続発性正常圧水頭症になる可能性があるため、疾患そのものの治療や経過観察をきちんとおこない、症状の出現に気を付けましょう。

正常圧水頭症の明確な予防法は確立されていないため、日々の生活の中で少しでも症状を感じたら 早めに医療機関へ行くことが重要です。


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