

監修医師:
勝木 将人(医師)
目次 -INDEX-
ギランバレー症候群の概要
ギランバレー症候群 (GBS)は、末梢神経に障害を引き起こす自己免疫疾患であり、末梢神経が自己免疫によって攻撃されることが原因です。主に末梢神経の髄鞘が損傷される脱髄型と、軸索そのものが損傷される軸索型の2種類があります。
脱髄型はacute inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy (AIDP)と呼ばれ、軸索型は運動神経の軸索が障害されるacute motor axonal neuropathy (AMAN)と、感覚神経の軸索も障害されるacute motor sensory axonal neuropathy (AMSAN)に分類されます。
ギランバレー症候群の発症前には、約60%の患者さんが風邪や下痢などの感染症状を経験しています。特にカンピロバクター(Campylobacter jejuni)やサイトメガロウイルス、エプスタイン・バールウイルス(EBウイルス)などが先行感染の主な原因です。感染後数週間以内に発症し、末梢神経の機能が急激に低下します。下肢の脱力やしびれから始まり、徐々に上肢や顔面に広がることが多く、重症例では呼吸筋の麻痺や自律神経障害を伴うことがあります。
この病気は年間10万人あたり1〜2人が発症するとされており、やや男性に多く見られます。
症状は4週間以内にピークに達し、その後は徐々に回復しますが、約20%の患者さんは発症から1年後にも何らかの障害が残ることがあります。再発率は2〜5%程度です。
治療には、免疫グロブリン療法や血漿交換療法が有効とされていますが、重症例では人工呼吸器の装着が必要となる場合もあります。
日本では、ギランバレー症候群は特定疾患に指定されており、診断と治療が公的に支援されています。早期診断と適切な治療により、多くの患者さんが元の生活に戻ることが期待されますが、重症化するリスクもあるため、医師の綿密な経過観察が求められます。感染症の予防と早期治療が重要です。
ギランバレー症候群の原因
ギランバレー症候群の原因は完全には解明されていませんが、多くのケースで感染症が引き金となることが知られています。この疾患は、ウイルスや細菌などの感染を契機に免疫系が過剰に反応し、自分自身の末梢神経を攻撃してしまう自己免疫疾患とされています。
感染症としては、カンピロバクター、サイトメガロウイルス、エプスタイン・バールウイルス(EBウイルス)がよく知られています。これらの病原体による感染が先行し、約1〜3週間後にギランバレー症候群が発症することが多いです。
また、インフルエンザやHIV、デング熱などの感染症も発症の原因となることがあります。これらの感染により、免疫系が活発になり、誤って自己の末梢神経を攻撃することで炎症が起こり、症状が現れると考えられています。
一部のケースでは、手術や外傷、免疫療法が発症の誘因となることもありますが、これらはまれです。
発症機構としては、感染による免疫反応が末梢神経の構成成分である糖脂質(ガングリオシド)に対する抗体を生成し、この抗体が末梢神経を攻撃することで神経障害が生じるとされています。
このように、ギランバレー症候群はさまざまな感染症や免疫反応が関与する複雑な自己免疫疾患であり、早期の診断と治療が重要です。
感染症予防や早期の適切な対処が、発症リスクの軽減に寄与します。
ギランバレー症候群の前兆や初期症状について
ギランバレー症候群は、初期に脱力感や感覚異常(ヒリヒリ感)が現れることが多いです。これらの症状は通常、下肢から始まり、その後上肢や顔面に広がります。
多くの患者さんにおいて、これらの初期症状は徐々に進行し、数日から数週間で悪化します。
重症の患者さんでは、顔面や中咽頭の筋力低下が見られ、これにより脱水や低栄養のリスクが高まります。
さらに、5〜10%の患者さんでは、呼吸筋の麻痺が進行し、気管挿管や機械的人工換気が必要になることもあります。
また、少数の患者さんにおいては、血圧変動、不整脈、消化管内容物の停滞、尿閉、瞳孔の変化などの重大な自律神経機能不全が生じることがあります。このような自律神経障害は生命を脅かす可能性があり、緊急の医療対応が必要です。
稀な亜型であるフィッシャー症候群では、眼筋麻痺、運動失調、反射消失のみが見られることがあります。この症状もギランバレー症候群の一部として認識され、適切な診断と治療が求められます。
ギランバレー症候群の初期症状は個々の患者さんによって異なりますが、典型的には脱力感と感覚異常が初発症状として現れ、これらが進行することで、より深刻な筋力低下や自律神経障害が発展します。
症状がみられた場合には神経内科を受診し、早期の診断と治療を受けることが重要です。
ギランバレー症候群の検査・診断
ギランバレー症候群が疑われる場合、医師は以下の検査を実施して診断を確定します。
【血液検査】
血液検査では、ほかの末梢神経障害を引き起こす疾患を除外するために実施されます。
また、ギランバレー症候群の約60%の患者さんに見られる抗ガングリオシド抗体の有無を調べます。
抗ガングリオシド抗体は、末梢神経の構成成分に対する自己抗体であり、免疫系の異常反応を示します。
【髄液検査】
髄液検査(腰椎穿刺)は、脳脊髄液を採取して蛋白質や細胞数を測定します。
ギランバレー症候群では、脳脊髄液中の蛋白質が増加し、細胞数は正常という特徴が見られます。この変化は診断の根拠となり、髄液中の蛋白細胞解離と呼ばれます。
検査は患者さんが横向きに寝た状態で腰部に針を刺して行います。
【神経伝導検査】
神経伝導検査は、皮膚の上から末梢神経に電気刺激を与えて、神経が正常に機能しているかを判断するために行われます。
ギランバレー症候群では、電気刺激の伝達速度が遅くなるなどの異常が見られます。この検査により、脱髄型と軸索障害型の鑑別も行われます。
【細菌検査】
ギランバレー症候群の発症に先行する感染症を特定するために、細菌検査も実施されます。主に、カンピロバクター菌が多く検出され、これが先行感染の主要な原因の一つとされています。
糞便の培養によって病原体の有無を確認します。
これらの検査結果を総合的に評価し、ギランバレー症候群の診断が行われます。診断が確定した後は、適切な治療方針が立てられ、早期の治療が症状の進行を抑え、患者さんの回復を助けることが期待されます。
検査結果については、医師と十分に話し合い、適切な治療計画を立てることが重要です。
ギランバレー症候群の診断には、神経学的診察がまず行われ、神経内科医が患者さんの症状や病歴を詳しく評価します。
続いて、筋電図検査が実施され、末梢神経の伝導速度や機能異常が確認されます。この検査は脱髄型と軸索障害型の鑑別にも役立ちます。
血液検査では、初期に抗糖脂質抗体が検出されることがあり、ほかの末梢神経障害との鑑別に有用です。
また、髄液検査(腰椎穿刺検査)により、脳脊髄液の圧力や蛋白濃度などを調べます。発症後1週間以降では、細胞数の増加を伴わない蛋白の上昇が観察されることが多いです。
これらの診断手法を組み合わせることで、ギランバレー症候群の確定診断が行われます。
ギランバレー症候群の治療
ギランバレー症候群の治療には、まず厳重な監視が求められ、患者さんは通常入院が必要です。
呼吸や心拍数、血圧の管理を行い、必要に応じて人工呼吸器を使用します。不整脈や感染症、血栓などの合併症を防ぐための監視も重要です。
この疾患の治療法は主に免疫療法が中心です。
免疫グロブリン大量静注療法は、5日間連続で免疫グロブリンを点滴する方法で、免疫系を調整し症状の改善を図ります。
もう一つの治療法としては、免疫吸着療法があります。これは血液をフィルターで浄化し、自己抗体を除去する方法です。
また、血漿交換療法も使用されます。血漿交換療法では、抗体を含む血漿を取り除き、健康な血漿と交換することで免疫系をリセットします。
さらに、ステロイド薬も炎症を抑えるために用いられます。副腎皮質ステロイドを投与することで、炎症反応を抑制し、症状の悪化を防ぎます。免疫グロブリン大量静注療法とステロイド薬を併用すると、治療効果が向上するとされています。
ギランバレー症候群は自己免疫疾患の特性を持つため、これらの治療法は症状の出現後1〜2週間以内に開始することが推奨されます。急性期を乗り越えた後も筋力低下が続く場合、リハビリテーションが必要となります。作業療法や運動療法を通じて、筋力を回復し、日常生活の機能を取り戻す支援が行われます。
ギランバレー症候群の治療は多面的なアプローチが求められ、長期的なフォローアップが重要です。
ギランバレー症候群になりやすい人・予防の方法
ギランバレー症候群は、基本的に予防する方法が確立されていませんが、過度なストレスや疲労を避けること、バランスの取れた食事や十分な休息を心がけることが推奨されます。これにより、免疫力を高めることができます。なかでも一度発症した人は、再度の発症リスクを減らすためにインフルエンザなどの予防接種は避けるべきです。
予防のためには、免疫力を維持向上させる栄養素を含む食事が重要です。
例えば、ビタミンB1は神経伝達をサポートし、豆類や豚肉、玄米、うなぎ、かつおなどに多く含まれています。
ビタミンB12は神経細胞の健康を保つ役割があり、赤貝やシジミ、レバーに豊富です。
さらに、ポリフェノール類も有用で、カテキンはお茶に、アントシアニンは紫芋やブルーベリーに、イソフラボンは大豆製品に含まれています。
ギランバレー症候群は、成人男性に多く見られますが、すべての年齢層で発症する可能性があります。そのため、予防として日常生活での食事や生活習慣の改善が大切です。バランスの取れた食事を心がけ、免疫力を高めることで、発症リスクの低減が期待されます。
関連する病気
- フィッシャー症候群
- 慢性炎症性脱髄性多発神経炎
- POEMS症候群
参考文献




