

監修医師:
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)
目次 -INDEX-
起立性調節障害の概要
起立性調節障害は思春期前後の小児に多くみられる病気で、立ち上がったときにめまい・頭痛・倦怠感などがおこります。自律神経の働きが乱れ、血圧や心拍の調整がうまくいかなくなって現れる症状です。
自律神経には交感神経と副交感神経があって、互いにバランスを取りながら働いて心拍数・呼吸数・胃腸の動きなどを自動的に調整しています。人間が立ち上がった場合、重力によって血液が上半身から下半身に移動しかけても、自律神経が正常なら下半身の血管を収縮させて血液の移動を抑制します。
ところが、自律神経に乱れがあると調整がうまくいかず、血圧が低下して立ちくらみや倦怠感などの症状がおこるのが起立性調節障害です。症状は朝起きると発生するため、身支度ができず遅刻・欠席につながります。家族から見ると怠けているように見えますが、本人にとってはつらい症状です。
この病気は学童期~思春期によく見られ、10代前半が発症のピークです。また、男児より女児が発症しやすい傾向があり、季節的には春から秋で特に新学年を迎える時期に多発するといわれます。
起立性調節障害の子どもは小学校高学年から増え始め、中学生では1割にもなるとされます。体調不良で遅刻や欠席が増え、不登校につながる事例もよく見うけられるケースです。不登校例の3~4割に起立性調節障害が見られるとのデータもあります。
起立性調節障害の原因
起立性調節障害の主な原因は、自律神経の乱れです。さらにその乱れをおこし症状を悪化させる原因には、以下のような事柄が考えられます。
- 体質の遺伝
- 思春期のホルモンバランスの変化
- 新学期・新学年・進学など環境の変化のストレス
- 活動量低下
起立性調節障害の子どもでは、親も同じ症状を経験している例が珍しくありません。患者さんのおよそ半数には、遺伝による可能性があると考えられています。
また思春期特有のホルモンバランスや、身体の成長に伴う自律神経の変化もバランスが乱れる一因です。
自律神経はストレスの影響を受けやすい傾向があります。子どもにとって大きなイベントである進級・新学期・進学などの環境の変化がストレスになり、発症につながります。さらに、つらい症状のなか通学しなければとの圧力も悪化を招く原因です。
また、だるさやめまいがあると身体活動量が低下します。そうすると筋肉量が減少し自律神経障害悪化→下半身への血液流量増加→脳血流減少→活動量低下との悪循環に陥ると、症状はさらに悪化します。
起立性調節障害の前兆や初期症状について
起立性障害の症状は多種多様です。さまざまな症状がありますが特有の症状ではないため、ほかの病気やなまけ癖などと誤解されることもよくあります。
起立性調節障害の前兆や初期症状
起立性調節障害に気付くきっかけとして、初期には以下のような症状が見られることがあります。
- 朝起きられない
- 気分が悪く朝食が欲しくない
- 着替えに時間がかかる
- 身体がだるい
- 朝と午後で反応が違う
これらの症状は常に一定ではありません。一日のうちでも、朝のうちは起きられない・頭がぼんやりする・元気がないなどの状態でも、午後になると回復します。夕方から夜にかけてはさらに活発になる場合もある程です。さらに、症状は日によって軽くなったり悪化したりというような変動があります。天候によっても変化があり、気圧が下がる曇天・雨天では症状が出やすい傾向です。また、春とか秋など季節の変わり目には症状が悪化するといわれます。朝の様子がおかしいと感じたら、早めに小児科を受診してください。高校生で初診なら循環器内科がいいでしょう。
起立性調節障害の一般的な症状
起立性調節障害で一般的に見られる症状は以下のようなものです。
- 立ちくらみ
- 朝起床困難
- 気分不良
- 失神
- 頭痛など
朝の朝礼中に子どもが倒れた場合、一時的な脳貧血と思いがちですが、実際は起立性調節障害による立ちくらみの可能性があります。起立性調節障害の症状は立位や座位の姿勢では強く現れ、寝た姿勢では楽になる傾向です。副交感神経の活性化が深夜にずれ込むため、夜になると元気になり、寝る時間になっても寝付けない場合もあります。その結果朝になっても起きられない症状が強くなる悪循環に陥りがちです。さらに悪化した場合、昼夜が逆転して不登校になる事例も見られます。朝が動きにくいため、登校への義務感とも相まってイライラ感を募らせる子どもも少なくありません。
起立性調節障害の検査・診断
起立性調節障害と診断するための検査では、まず以下のような11個の典型的な症状のうちどれが該当するかを調べます。
- 立ちくらみ・めまい
- 起立時の気分不良や失神
- 入浴時や嫌なことで気分悪化
- 動悸や息切れ
- 朝の起床が困難で午前中調子が悪い
- 顔色が青白い
- 食欲不振
- 腹痛
- 倦怠感
- 頭痛
- 乗り物酔い
こうした症状に3つ以上当てはまれば、起立性調節障害が疑われる状況です。ただ、似た症状の病気の可能性を除外するために、問診・血液検査・内分泌学的検査・検尿・胸部X線検査・心電図などで心疾患・甲状腺疾患・てんかんなどの病気を探します。異常があればそちらの治療を始め、異常がなければより疑いを強め、次の新起立検査で病態を分類します。
新起立試験は血圧・脈拍と動作との関連性を細かく調べ、これにより下記の4つのサブタイプに分類する検査です。
- 起立直後性低血圧
- 体位性頻脈症候群
- 血管迷走性神経性失神
- 遷延性起立性低血圧
この2つの試験で、起立性調節障害の確定診断と重症度の判定ができます。次に心理社会的関与(ストレスなど)のチェックです。日本小児医学会が作成した、心身症としてのODチェックリストを使って調べ、こうした結果も踏まえて治療を進めます。
起立性調節障害の治療
起立性調節障害の治療は、検査で判定した重症度に心理社会的関与を加味して、適合する治療法を単独・または組み合わせて適用します。
疾病教育
すべての重症度に適用される疾病教育は、子どもと保護者に起立性調節障害は身体の病気であることを理解してもらう方法です。子ども・保護者ともなまけ癖など精神的なものととらえがちですが、身体の病気と理解できれば不安が解消して、症状の軽減が期待できます。
非薬物療法
非薬物療法も重症度に関わらず実施されます。塩分と水分の補給で血液量を増やし、また軽い運動で筋力低下を防ぐ治療法です。立ち上がり・歩き始めをゆっくり行い、日中は横にならず早寝早起きを習慣づけます。
学校への指導・連携
軽症でも心理社会的関与がある場合、学校への指導・連携が必要です。担任教諭や養護教諭に病気への理解を深めてもらい、子どもに無益ながんばりが強要されることを防ぎます。
薬物療法
薬物療法は中等症以上の場合と、非薬物治療だけでは効果が見られない場合に適用される治療法です。ただし、薬物単独では効果は見込めず、非薬物治療などとの連携が一般的です。
起立性調節障害になりやすい人・予防の方法
起立性調節障害は子どもに多発する自律神経の病気で、なりやすい人や予防の方法がわかっているため、あらかじめ対応が可能です。
この病気になりやすい人と、予防方法を解説します。
起立性調節障害になりやすい人
起立性調節障害になりやすい人は、真面目で周囲への気遣いができる人だといわれています。ストレスを抱え込みやすい性格ともいえ、そのストレスが自律神経の働きを妨げた結果としての起立性調節障害になります。また遺伝的な要因もあり、日本小児医学会によれば、患者さんの半数に遺伝要因が認められたとのことです。年代的には10~16歳で多く発症し、中学生の患者さんは小学生の倍で、女性の患者さんは男性の1.5~2倍にもなります。起立性調節障害になりやすい人をまとめると、以下のとおりです。
- 真面目で周囲に気配りする人
- 親が起立性調節障害だった人
- 10~16歳の女性
- 中学生
こういった人が発症しやすいので、普段とちがう様子が見られたら早めに受診してください。
起立性調節障害の予防法
起立性調節障害の予防法は、正確には症状の発現の予防法になります。発症を抑えるには、血圧の急激な変動を抑えることです。血流量維持には水分と塩分の補給が有効で、通常の生活に1日あたり水を1リットル・塩分を3g追加してください。また軽い運動の継続も有効なので、親と一緒に軽いジョギングなどを続けましょう。立ち上がる場合は30秒かけて立ち、歩き始めは頭部を前屈させると起立時の失神が予防できます。起立時にはときどき足ふみをしたり両脚を交叉させたりすると、立ちくらみ防止に有効です。




