

監修医師:
眞鍋 憲正(医師)
過食症の概要
過食症は、食事の摂取に関連する行動に異常がみられる精神障害(摂食障害)のなかの1つの疾患です。大量の食べものを短時間で摂取し、食後に排出行動、絶食など食べ過ぎを埋め合わせる行為を行うという特徴があります。過食は衝動的に行われるため、患者さんが自分の意思でコントロールすることができません。食後の排出行動や絶食といった行動は、肥満への恐怖からくるものです。自分の意思で食事をコントロールできないため、食後の行動で埋め合わせをしようとしている状態です。
また大量の食べ物を短時間で摂取するという行動を過食症状としているため、排出行動がなくても過食症と診断されるケースも少なくありません。
過食症のほかに極端な食事制限と著しいやせを示す神経性食思不振(神経性やせ)症も摂食障害に含まれており、共通する行動も見られます。 またほかの精神疾患との合併も少なくないとされているほか、自殺率が高いという調査結果もあるため注意が必要です。
過食症の原因
過食症の原因としては以下の要因が相互に関連していると考えられます。
過食症をもたらす心理的要因として、恐怖や不安といった心理状態が深く関わっているといえるでしょう。とりわけ孤独感や拒絶感といった感情が空腹感と過食欲求の増加につながっているといわれています。肯定的な感情が弱く否定的な感情が強い日に、過食や嘔吐が起きやすい傾向にあるという研究結果があります。孤独感や拒絶感を引き起こすイメージタスクと空腹感と過食欲求の増加についても言及されていることから、心理的な要因が関連しているといえるでしょう。また、これらの心理的要因をもたらす原因として文化社会的要因が関連していることもあるため、要因同士が密接に関わっている点も特徴です。
生物学的な要因として、遺伝や脳機能の変化が考えられます。脳内の神経回路の異常、そのなかでも報酬回路という食行動などの本能的行動を快感として感じる神経の反応が低下していることや、抑制ネットワークという状況に応じて行動を抑制する神経の活動低下が関連しているといえます。つまり過食症の場合、食行動で報酬系を刺激するために大量に食べなければなりません。また抑制ネットワークの活動が低下することにより行動の抑制といったコントロールが容易ではない可能性も示唆されています。
また過食症を発症する特定の遺伝子は見つかっていないものの、特定の染色体での連鎖が認められることから、この領域の遺伝子が関連していると予測された研究が進められています。
過食症の前兆や初期症状について
過食症の症状として、過食という行為そのものが挙げられるほか、過食をしている間やその後に自制を失ったように感じることも特徴です。また過食という行動の後に自己嫌悪感が高まり、体重増加を防ぐ排出行為が見られることも少なくありません。
そのため患者さん自身で嘔吐を誘発する行動や、下剤や利尿剤の乱用、過食後の一定期間の絶食や過剰な運動などを伴う場合があります。気分障害や不安障害、アルコール依存症やパーソナリティー障害などの精神科的な併存症を併発する場合もあるため注意が必要です。
これらの症状が認められた場合には、精神科や心療内科の受診を検討することをおすすめします。
過食症の検査・診断
過食症は主に医師による評価、つまり問診を中心に行います。以下の症状が判断基準です。
- 3ヶ月以上にわたり週1回以上の頻度で過食をしている
- 過食をしている間やその後に自制を失ったように感じる
- 過食の後に排出行動や絶食、過度の運動により埋め合わせをしている
- 体重増加についての強い心配がある
- 患者さん自身のなりたいイメージの主な基準が体重や体型になっている
また下剤の過剰使用を示唆する下痢や腹部のけいれんなどが見られないかといった点や、頬の唾液腺の腫れ、指を使って嘔吐を誘発することによる指関節の傷痕は診断の裏付けとなりやすいです。ほかにも胃酸による歯のエナメル質の溶解や血液検査で見つかるカリウム値の低下も過食症の診断の手がかりになります。これらの状態から総合的に過食症を診断します。ほかの精神疾患を併発していないかの確認も重要です。
過食症の治療
過食症の患者さんは、外来で認知行動療法や対人関係療法、薬物療法といった方法で治療を進めていくことが一般的です。入院を伴って治療を進めることは少ない一方で、患者さんが自己判断で治療を中断してしまうケースや医療機関を転々とするケースも見られます。そのため、医師との信頼関係の構築が重要となります。
過食症は症状の改善と悪化を繰り返すことも特徴です。治療を受けなかったとしても症状が一時的に良くなることがある一方で、重症化や再発のリスクも伴います。また、精神疾患を併発している場合には難治化や慢性化のリスクが高いことから、継続した治療やフォローが大切です。
さまざまな治療法により過食などの症状が軽快した状態が続き、社会生活に影響が出ないようにすることが目標ともいえるでしょう。特に若年層の場合には、成長とともに軽快することもあるため、厳密に完治の状態を最終目標として設定しないケースも存在するといえます。
認知行動療法
個人またはグループ単位で精神療法の専門家と会いセッションを受ける方法です。4〜5ヶ月間にわたって週に1〜2回のペースで行うことが一般的です。具体的には、過食症という病気そのものを理解することや食生活のリズムを正常化し向き合っていくための内容を、セッションで伝えていきます。認知行動療法では、過食症の患者さんの約30〜50%で過食と排出行動がなくなるといわれています。ただし途中で治療をやめてしまう人や、効果が得られない人もいるため、セッションを通じて定期的なモニタリングを受けることが大切です。
対人関係療法
認知行動療法で効果を得られない場合は、対人関係療法を選択するケースが一般的です。過食症の原因になっている可能性のある対人関係の問題を変化させる方法を表します。病気の背後にある人間関係に目を向けて、家族など周囲の人間の認識をいっしょに変化させていくことで、患者さんの抱えている精神的な原因を軽減することで治療を進めていく方法です。この治療法は患者さんの行動を解釈するものではありません。また摂食障害に直接対処する治療法でもないことから、まずは認知行動療法から始めることが一般的といえるでしょう。
薬物療法
日本では摂食障害が適応疾患に含まれる薬剤はありません。ただし海外では神経性過食症に対する抗うつ剤に一定の効果が見られたことから、日本国内でも薬物療法を行うことがあります。抗うつ薬の一種である選択的セロトニン再取り込み阻害剤を用いて過食と嘔吐の頻度を減らすことができるとされていますが、長期的な有効性など不明とされている部分も多く、注意が必要です。また薬物療法を単独で行うケースは一般的ではなく、認知行動療法と併用していくことが考えられます。
過食症になりやすい人・予防の方法
過食症の患者さんは90%以上が女性です。また年代でみると20代が少なくないことから、大学生や就業者でも発症が考えられます。
患者さんの特徴として、自己評価が低いことや完璧主義の傾向がある方も多いことから、対人関係をはじめとした社会生活での課題を抱えているケースも少なくありません。
これらの性質や初期症状を理解しておくことが、予防につながるといえるでしょう。
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- うつ病
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