監修医師:
大坂 貴史(医師)
ジスキネジアの概要
ジスキネジアは、意図しない異常な不随意運動を引き起こす神経疾患の一種です。具体的には、体の一部が勝手に動いてしまう現象であり、無秩序な動きやねじれたような動きが特徴です。この運動障害は、特定の脳の領域や神経伝達に異常が生じた結果として発生します。ジスキネジアは、主に遅発性ジスキネジアとレボドパ誘発性ジスキネジアの2つのタイプに分類されます。
遅発性ジスキネジアは、長期間にわたる抗精神病薬やドーパミン拮抗薬の使用が原因で発症し、特に口や顔面の筋肉が影響を受けます。
レボドパ誘発性ジスキネジアは、パーキンソン病患者がレボドパという薬物治療を受ける際に副作用として現れることが多いです。このタイプのジスキネジアは、手や足、顔など、さまざまな部位に不随意運動を引き起こします。
ジスキネジアは一度発症すると、日常生活に支障をきたす場合があり、患者にとって精神的にも身体的にも負担となります。治療や管理は困難な場合もあり、原因に応じた適切な治療が重要です。
ジスキネジアの原因
ジスキネジアは、脳内の神経伝達物質の不均衡や薬物の使用によって引き起こされることが多いです。特にドーパミンという神経伝達物質の働きが影響を受けることが多く、その調整が乱れると異常な運動が生じることがあります。
長期的な薬物使用
抗精神病薬
遅発性ジスキネジアの主な原因は、抗精神病薬の長期使用です。これらの薬は、ドーパミン受容体を抑制する作用があるため、長期間服用すると脳内のドーパミン伝達が過剰に抑制され、結果として逆にドーパミンの過剰反応が引き起こされます。この状態が、不随意運動であるジスキネジアを引き起こします。特に、第一世代の抗精神病薬(典型抗精神病薬)は、遅発性ジスキネジアのリスクが高いとされています。
レボドパ
レボドパは、パーキンソン病の治療に使われる薬剤で、ドーパミンを補充する役割を果たします。しかし、長期にわたって使用すると、脳内でのドーパミンのレベルが変動し、異常な運動が発生することがあります。これをレボドパ誘発性ジスキネジアと呼び、パーキンソン病の患者に見られる副作用の一つです。
脳の損傷や変性
ジスキネジアは、脳の基底核や視床、黒質など、運動を制御する部分が損傷を受けることでも発生します。これらの領域は、運動の滑らかさや意図的な動きを調整する役割を持っているため、損傷を受けると不随意運動が生じます。
神経疾患
ジスキネジアは、パーキンソン病やハンチントン病など、神経変性疾患の一環として現れることもあります。これらの疾患では、神経細胞が徐々に死滅し、運動を制御する機能が低下するため、異常な運動が発生します。
ドーパミン受容体の感受性変化
ドーパミン受容体の感受性が変化することも、ジスキネジアの原因となることがあります。特に、薬物治療や長期にわたる神経伝達の異常が、ドーパミン受容体の反応性を変化させ、ジスキネジアを引き起こします。
ジスキネジアの前兆や初期症状について
ジスキネジアの初期症状は、しばしば軽度で見逃されがちですが、次第に進行することが多いです。症状は、体のさまざまな部位に現れ、動きに影響を与えます。
以下に、ジスキネジアの主な前兆や初期症状を挙げます。
- 顔や口の不随意運動
ジスキネジアは、まず顔面や口の周りの筋肉に現れることがよくあります。典型的な症状として、口をもぐもぐと動かす、舌を突き出す、唇を動かすなどの不随意運動が見られます。このような動きは、日常生活で目立ちやすく、会話や食事中に支障をきたすことがあります。 - 手足の異常な動き
初期の段階では、手や足が意図せずに勝手に動くことがあります。これには、手の震えや足の不規則なけいれんが含まれます。これらの動きは、特に静止時に現れることが多く、動作中には軽減することもあります。 - 体幹や首のねじれ
症状が進行すると、体幹や首の筋肉に異常な動きが現れることがあります。これには、体がねじれたり、首が異常な角度で動いたりする動きが含まれます。これにより、姿勢が不自然になり、体のバランスを保つことが困難になることがあります。 - 不規則なまばたき
まばたきの頻度が異常に増えたり、まばたきの動きが強調されたりすることがあります。これもジスキネジアの初期症状として現れることがあり、特に顔面の筋肉が影響を受けやすいです。 - 痙攣やけいれん
ジスキネジアの症状が進行すると、けいれんや痙攣のような動きが増加することがあります。これらの動きは、手足だけでなく、体全体に広がることがあり、無意識に発生するため、患者にとっては大きな負担となります。
ジスキネジアの検査・診断
ジスキネジアの診断は、患者の症状や過去の治療歴、特に薬物使用に関する情報をもとに行われます。
具体的には、以下のような検査や診断手順が取られます。
問診と身体検査
医師は、まず患者の症状について詳しく聞き取ります。どの部位に不随意運動が発生しているのか、症状の進行具合や、薬物の使用歴があるかどうかを確認します。特に、抗精神病薬やレボドパなどの薬物使用があれば、その期間や量も重要な情報です。次に、身体検査を通じて、どの筋肉が異常な動きをしているのかを確認し、症状の重さや範囲を評価します。
画像診断
脳の異常を評価するために、CTやMRIが行われることがあります。これにより、基底核や黒質などの運動を制御する脳の領域に異常がないかを確認します。特に、脳の構造的な損傷や変性が原因でジスキネジアが発生している場合、この検査が役立ちます。
血液検査
血液検査では、特定の神経伝達物質やホルモンのバランスを評価することができます。ジスキネジアの原因が薬物の副作用や代謝異常に関連している場合、血液検査がその診断をサポートします。
神経学的検査
神経学的検査は、筋肉の反射や動きを詳細に評価するために行われます。医師は、患者の反射や感覚機能、運動機能をテストし、異常な運動がどの程度神経系に影響を与えているかを確認します。
ジスキネジアの治療
ジスキネジアの治療法は、原因や症状の重さによって異なります。治療の目標は、不随意運動を軽減し、日常生活の質を向上させることです。
以下に、一般的な治療法を示します。
薬物調整
最も一般的な治療法は、症状を引き起こしている薬物の調整です。特に抗精神病薬やレボドパが原因の場合、これらの薬の量を減らしたり、別の薬に変更することで症状が軽減されることがあります。
ドーパミン拮抗薬
ドーパミンの過剰反応を抑えるために、ドーパミン拮抗薬が処方されることがあります。これにより、ジスキネジアの症状をコントロールすることができます。
グルタミン酸受容体拮抗薬
パーキンソン病患者において、レボドパ誘発性ジスキネジアを治療するためにグルタミン酸受容体拮抗薬が使用されることがあります。これにより、脳内の興奮性神経伝達物質の働きを調整し、不随意運動を軽減します。
物理療法
ジスキネジアの症状を和らげるために、物理療法が行われることがあります。特に、筋力や柔軟性を向上させるためのリハビリテーションが役立ちます。これにより、運動機能が改善され、不随意運動が日常生活に与える影響を軽減できます。
神経刺激療法
重症のジスキネジアには、神経刺激療法(例えば、深部脳刺激法)が用いられることがあります。この治療法では、脳の特定の領域に電極を埋め込み、異常な運動を引き起こす神経活動を調整します。特に、レボドパ誘発性ジスキネジアに対して効果的であるとされています。
外科手術
場合によっては、脳の特定の領域に外科的処置を行うことで、ジスキネジアの症状を軽減することができます。これには、脳の一部を破壊する手術や、神経伝達を調整するための手術が含まれます。ただし、この治療法は最終的な手段として使用されることが多く、慎重な判断が必要です。
ジスキネジアになりやすい人・予防の方法
ジスキネジアになりやすい人
ジスキネジアは、特定の要因を持つ人に発症しやすいです。
以下は、ジスキネジアのリスクが高い人々です。
- 抗精神病薬やレボドパを長期使用している人:
これらの薬物は、長期使用によりジスキネジアを引き起こすリスクが高まります。 - パーキンソン病患者:
パーキンソン病の治療に使用されるレボドパや他の薬剤が原因で、ジスキネジアが発生することがあります。 - 高齢者:
年齢とともに神経伝達物質のバランスが崩れやすくなるため、高齢者はジスキネジアのリスクが高まります。
予防の方法
ジスキネジアを予防するためには、以下のような対策が有効です。
- 薬物の使用管理
ジスキネジアの主な原因は薬物の長期使用です。そのため、抗精神病薬やレボドパなどを使用している場合、医師と相談しながら、適切な用量や治療期間を管理することが重要です。必要に応じて、薬の種類や量を調整し、症状が現れた場合には早めに対処することが大切です。 - 定期的な診察
特に長期的に薬物治療を受けている人は、定期的な診察を受け、ジスキネジアの兆候がないかをチェックすることが推奨されます。早期発見が重要であり、症状が軽いうちに対処することで、重症化を防ぐことができます
関連する病気
- 遅発性ジスキネジア
参考文献