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勝木 将人

監修医師
勝木 将人(医師)

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2016年東北大学卒業 / 現在は諏訪日赤に脳外科医、頭痛外来で勤務。 / 専門は頭痛、データサイエンス、AI.

レビー小体型認知症の概要

レビー小体型認知症は、中枢神経系や自律神経系の神経細胞や神経突起にレビー小体が蓄積することで発症する神経変性疾患です。1976年に報告されています。
認知症疾患の10〜20%程とされており、神経変性による認知症では、アルツハイマー型認知症に次いで発症率が高いのが特徴です。
アルツハイマー型認知症の前兆や初期症状とは異なる点が少なくないため、鑑別がつきやすく早期診断の手がかりとなります。

レビー小体型認知症の原因

原因は、大脳皮質・扁桃体・迷走神経背側核などの中枢神経系・自律神経系にレビー小体と呼ばれる異常なたんぱく質が蓄積するためです。

レビー小体はαシヌクレインと呼ばれるたんぱく質からなっており、蓄積すると神経細胞の変性・脱落が起き、認知機能・運動機能などの障害が生じます。

レビー小体型認知症の前兆や初期症状について

初期には、転倒しやすいなどの運動症状・幻視・錯視・人物誤認・レム睡眠行動異常症・調子の変動・うつ状態・便秘などの症状がでます。うつ状態やレム睡眠行動異常症は、ほかの症状に比べて数年早く症状として現れます。レム睡眠行動異常症は、睡眠時の夢のなかでの行動が現実の行動となって現れる病気です。大声での寝言・殴る・蹴るなどの症状が現れます。

症状が強くでる方では、歩き回ったり窓から飛び出して怪我をしたりと危険が伴う場合があるため、注意が必要です。症状があった場合には、精神科・脳神経内科に相談しましょう。調子の変動は、注意や覚醒状態の変わりやすさを指します。矛盾した行動・話の辻褄の合いにくさ・散漫な注意力・一点を見つめるなど意識の変容を繰り返します。幻視は、目の前には存在しない人・物などが見えている状態です。

レビー小体型認知症の患者さんの80%に見られる症状で、具体的ではっきりしています。また、発症初期には目立ちにくいのが記憶障害です。記憶障害が発症するのは平均で74.9歳といわれています。便秘・嗅覚低下・うつ・レム睡眠行動異常症・起立性は記憶障害が生じる前から現れている症状です。

便秘は記憶障害の9.3年前から76%に生じ、嗅覚低下は8.7年前から44%に見られ、レム睡眠行動異常症は4.5年前から66%に認められます。記憶障害後に現れる症状には、失神・幻視・パーキンソニズムがあります。失神は1.4年後に17%に現れ、幻視・パーキンソニズムは1.5年後に80%以上の方で生じる症状です。症状があった場合には、精神科・脳神経内科を受診するようにしましょう。

レビー小体型認知症の検査・診断

レビー小体型認知症では、必須症状・中核的特徴・支持的特徴・バイオマーカー(指標的・支持的)の診断基準で判断します。

上記の診断基準をもとに、中核的特徴が2つ以上あるいは中核的特徴が1つと指標的バイオマーカーが1つ以上ある場合にはprobable DLB(ほぼ確実)と診断されます。DLBは、レビー小体型認知症のことで英語の頭文字をとった表記です。また、possible DLB(疑い)と診断がでる場合もあります。

possible DLBと診断されるのは、中核的特徴が1つのみで指標的バイオマーカーがない場合あるいは中核的特徴はないが指標的バイオマーカーが1つ以上ある場合です。

必須症状

日常生活に支障をきたす程の進行性の認知機能の低下があることが必須になります。レビー小体型認知症では、記憶機能に比べて視空間認知・注意・遂行機能が障害されているケースが少なくないため、深堀ができる検査が必要です。

中核的特徴

中核的特徴には次のようなものが挙げられます。

  • 注意力や覚醒状態の顕著な変化を伴う認知の変動
  • 繰り返し出現する具体的な幻視
  • 認知機能低下に先行する可能性もあるレム睡眠行動異常症
  • 特発性のパーキンソニズムのうち1つ以上

パーキンソニズムは、パーキンソン病以外の原因で起きるパーキンソン病の症状を指します。症状は寡動・動作緩慢・安静時振戦・筋強剛です。

支持的特徴

支持的特徴は、一般的に現れる症状ですが、診断では特異的かどうかが立証されていない特徴のことです。レビー小体型認知症では、抗精神病薬に対する重篤な過敏性・姿勢保持障害・繰り返す転倒・失神・便秘・尿失禁・過眠・嗅覚鈍麻・幻視以外の幻覚などです。

指標的バイオマーカー

指標的バイオマーカーでは次の3つが重要になります。

  • SPECTやPETでの基底核のドパミントランスポーターの取り込み低下
  • MIBG心筋シンチグラフィでの取り込み低下
  • 睡眠ポリグラフ検査で筋緊張低下を伴わないレム睡眠の確認

ドパミントランスポーターの取り込み低下では、DATスキャンと呼ばれる画像検査を行います。薬剤を静脈に注射して3時間後に頭部の撮影を30分程かけて行う検査です。黒質線条体にあるドパミン神経の変性・脱落を画像でとらえることができます。レビー小体型認知症では、線条体全体でドパミン神経の変性・脱落がわかりやすいのが特徴です。MIBG心筋シンチグラフィは、心臓にある交感神経の機能を調べる検査です。注射した薬剤の心臓への集積度合を評価します。レビー小体型認知症では、心臓の薬剤の集積が低下します。睡眠ポリグラフ検査は、睡眠時の脳波・筋電図・心電図・眼球運動などの睡眠状態が把握できる検査です。レビー小体型認知症では、筋緊張低下を伴わないレム睡眠の確認がされます。

支持的バイオマーカー

支持的バイオマ―カーは、CT・MRIで側頭葉内側部が保たれている・SPECTやPETで後頭葉の活動低下を伴う全般的な取り込み低下がある・脳波上で後頭部に著明な徐派活動があるの3つです。レビー小体型認知症では記憶障害が目立ちにくく、視覚間認知・注意・遂行機能が低下しているケースが少なくありません。そのため、HDS-R・MMSEなどの全般的な認知機能の検査ではカットオフ値を下回らない場合もあります。視覚間認知・注意・遂行機能を評価できる時計描画検査・重複した五角形の模写・Trail Making Test・Wisconsin Card Sorting Testなどの評価が有用です。

レビー小体型認知症の治療

根本的な治療法はなく、中核症状・パーキンソニズム・自律神経症状への薬物療法と非薬物療法での対症治療になります。

認知機能障害に対する薬物療法では、コリンエステラーゼ阻害薬を使います。認知症の進行抑制と幻視・注意などの改善が期待できる薬です。行動・心理症状にはドネペジル・抑肝散・メマンチンなどが使われます。抗精神病薬は適応外の使用になるため、十分なインフォームドコンセントが必要です。

コリンエステラーゼ阻害薬が使えないケースで行動症状のコントロールが必要な症状には、非定型抗精神病薬が使われます。抑肝散は副作用が少なく、非定型抗精神病薬よりもリスクが低い薬剤です。パーキンソニズムにはL-ドパを使いますが、せん妄や精神症状が悪化する可能性があるため、状態を見ながら少しずつ投与していきます。また、レビー小体型認知症の行動・心理症状にケアや環境整備などの非薬物的介入は重要と考えられますが、研究報告に乏しいのが実情です。

認知機能障害や幻視は、覚醒レベルや注意機能の低下で悪化します。環境整備を行い刺激が入力されやすい状況や他者と交流する機会を設けると覚醒レベルや注意機能の維持につながる可能性があります。転倒による骨折や誤嚥性肺炎の可能性も高いため、早期からリハビリテーションを行って運動機能の維持に努めるようにしてください。

レビー小体型認知症になりやすい人・予防の方法

レビー小体型認知症になりやすい人は、認知症の危険因子を複数もっている方やレム睡眠行動異常症・便秘・嗅覚低下がある方です。レビー小体型認知症などの神経変性疾患では、10〜20年以上も前からレビー小体の蓄積が始まっており、発症時には脳神経の変性が進んでいるケースも少なくないです。

近年の研究で、レビー小体が原因の神経変性疾患を発症する10〜20年程前からレム睡眠行動異常症・便秘・嗅覚低下が生じている可能性が示唆されています。気になる症状がある方は医療機関で相談してみてください。また、認知症は加齢や遺伝性のもので罹患する場合もあります。加齢・遺伝子を変えることは難しいですが、認知症の危険因子として考えられている高血圧・喫煙・飲酒・糖尿病・肥満・運動不足などを変えることは可能です。

危険因子を改善すると認知症のリスクを軽減できる可能性はあります。日常生活で取り入れられることから見直して認知症の予防に努めていきましょう。


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