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髄膜炎
田頭 秀悟

監修医師
田頭 秀悟(たがしゅうオンラインクリニック)

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鳥取大学医学部卒業。「たがしゅうオンラインクリニック」院長 。脳神経内科(認知症、パーキンソン病、ALSなどの神経難病)領域を専門としている。また、問診によって東洋医学的な病態を推察し、患者の状態に合わせた漢方薬をオンライン診療で選択する治療法も得意としている。日本神経学会神経内科専門医、日本東洋医学会専門医。

髄膜炎の概要

髄膜炎は、脳や脊髄の周囲を覆う髄膜に炎症が起きる疾患です。
髄膜は硬膜・くも膜・軟膜の3つの膜から構成されており、軟膜とくも膜のすき間は脳脊髄液で満たされています。髄膜や脳脊髄液がウイルスや細菌などの病原体に感染すると、髄膜が炎症を起こして髄膜炎を発症します。髄膜炎の主な原因は、細菌やウイルスによる感染症です。
髄膜炎は、細菌が原因の細菌性髄膜炎と、ウイルスなど細菌以外が原因の無菌性髄膜炎の大きく2種類に分けられます。無菌性髄膜炎は主にウイルス感染により発症しますが、悪性腫瘍・自己免疫疾患・薬剤が原因となるケースもあります。細菌性髄膜炎はウイルス感染による髄膜炎に比べて重症化しやすく、治療しても難聴・脳神経麻痺・発達障害・水頭症など重度の後遺症が残る場合があります。
診断や治療が遅れると命に関わることもあるため、注意が必要な病気です。

髄膜炎の原因

髄膜炎の主な原因は、体内に侵入した細菌やウイルスです。その他、真菌や結核なども原因として挙げられます。細菌性髄膜炎と無菌性髄膜炎の原因はそれぞれ多数確認されています。

細菌性髄膜炎の原因

細菌性髄膜炎は、以下のような細菌によって引き起こされます。

  • 肺炎球菌
  • インフルエンザ桿菌
  • 髄膜炎菌
  • 大腸菌
  • B群溶連菌
  • リステリア菌
  • 黄色ブドウ球菌

髄膜炎を引き起こす原因菌は、年齢によっても異なります。生後3ヵ月までの新生児・乳児はB型溶連菌や大腸菌などが原因の場合が多く、新生児は出産時に産道感染する可能性もあります。幼児・青年期は肺炎球菌やインフルエンザ桿菌、成人は肺炎球菌や髄膜炎菌が原因のケースが多いでしょう。細菌性髄膜炎は、のどや鼻の粘膜などに付着した細菌が血液内に入り込み、髄液まで到達して感染すると発症します。主な感染経路は飛沫感染ですが、のどや鼻の常在菌が何らかの原因で血液中に侵入し、細菌性髄膜炎を引き起こすケースもあります。

無菌性髄膜炎の原因

無菌性髄膜炎の主な原因はウイルス感染です。ウイルス感染のほかには、膠原病・悪性腫瘍などの疾患、解熱鎮痛薬・抗生物質などの薬剤が原因で発症するケースもあります。また無菌性髄膜炎のなかには含まれませんが、クリプトコッカス・カンジダなどの真菌や結核、寄生虫などの感染で一部、無菌性髄膜炎のような症状が現れる場合もあります。無菌性髄膜炎の原因となるウイルスは、以下のようなものです。

  • エンテロウイルス(手足口病やヘルパンギーナなどの原因)
  • ムンプスウイルス(おたふくかぜの原因)
  • 麻疹ウイルス(はしかの原因)
  • 風疹ウイルス
  • ヘルペスウイルス
  • 水痘・帯状疱疹ウイルス

ウイルス感染による髄膜炎のうち、約85%はエンテロウイルスが原因です。エンテロウイルスはいわゆる夏風邪の原因となるウイルスで、コクサッキーウイルスやエコーウイルスなどが含まれます。主な感染経路は、飛沫感染や経口感染などです。

髄膜炎の前兆や初期症状について

髄膜炎を発症すると、次のような症状が現れます。

  • 発熱
  • 頭痛
  • 吐き気・嘔吐
  • 全身の倦怠感
  • 食欲低下
  • 項部硬直(首の後ろが硬くなり曲げにくい)
  • 意識障害

主な症状は、発熱・頭痛・項部硬直です。
細菌感染の場合は意識障害、ウイルス感染による場合は吐き気・嘔吐もよく見られます。
ウイルス感染による髄膜炎では、のどの痛み・腹痛・下痢・発疹などがみられる場合もあります。
初期にみられる頭痛・発熱・嘔吐などは風邪に似た症状のため、診断が遅れるケースもあり注意が必要です。進行して脳にまで炎症が広がると、意識障害・けいれん・記憶障害・精神症状などが現れます。
症状があった場合には、神経内科を受診するようにしましょう。

髄膜炎の受診目安

高熱・吐き気・嘔吐を伴う頭痛があるときは、髄膜炎が疑われます。早めに医療機関を受診してください。髄膜炎は診断・治療が遅れると重度の後遺症が残る可能性があり、場合によっては命に関わるため、早期診断・治療が重要です。意識障害やけいれんがある場合は髄膜炎が進行している可能性があるため、早急に救急医療機関を受診してください。髄膜炎の進行の速さは、発症原因によって異なります。特に細菌性髄膜炎は急激に症状が進行する場合があり注意が必要です。また、乳児や高齢者は髄膜炎にかかっていても症状が乏しいケースがあります。乳幼児は、発熱以外に元気低下・不機嫌・食欲低下などの症状しか現れないことも少なくありません。高齢者の場合、微熱程度だったり眠たそうにしていたりしているだけで、髄膜炎と気付かないこともあります。乳児や高齢者の様子がいつもと違う、ぐったりしているなど気になる症状がある場合は、医療機関を受診しましょう。

髄膜炎の検査・診断

診察では、項部硬直・頭痛・意識障害など髄膜炎にみられる症状の有無を確認します。
診察により髄膜炎が疑われる場合や否定できない場合は、診断のために髄液検査や画像検査などを行います。

腰椎穿刺・髄液検査

腰の下に細い針を刺して髄液を採取し、髄液の外観や成分(糖、タンパク質濃度、白血球数など)を調べる検査です。炎症の有無を確認したり、髄膜炎の種類の判断に役立てたりします。髄液検査は、髄膜炎の診断と治療方針決定のために重要な検査です。細菌性の場合は髄液が濁っており、白血球の一種である顆粒球の増加や糖の数値の低下がみられます。ウイルス感染による場合は、髄液は透明でリンパ球が増加し、糖・タンパク質の値は正常な場合が多いでしょう。細菌性髄膜炎が疑われる場合は、グラム染色を行うとある程度原因菌が推定でき、抗菌薬を選定する際の参考になります。髄膜炎の確定診断には、髄液や血液中の細菌培養やウイルスDNA検査(PCR検査)が必要です。培養検査よりも迅速に診断可能な、ラテックス凝集法による抗原検査を行うこともあります。迅速な抗原検査は細菌性髄膜炎の早期診断に有用ですが、対象となる細菌は肺炎球菌、B群溶連菌、髄膜炎菌などに限られます。

画像検査・脳波検査

画像検査では頭部のMRIやCT撮影を行い、髄膜の炎症の確認やほかの疾患との鑑別をします。ヘルペスウイルスによる炎症が脳まで広がっている場合は、脳の側頭葉に異常所見がみられます。脳波検査は、炎症が脳にまで広がった場合にあらわれる意識障害の有無や程度を確認する検査です。ヘルペス脳炎を発症している場合は、特異な脳波の異常がみられます。

髄膜炎の治療

治療の中心は、原因に合わせた薬剤の投与と対症療法です。
細菌性髄膜炎やヘルペス脳炎、結核が原因で発症する結核性髄膜炎は、症状が急速に進行し治療の遅れが予後に大きく関わるため、早急な治療が必要です。

細菌性髄膜炎の治療

主な治療は原因に合わせた抗菌薬の投与です。培養検査で原因菌が確定するには日数がかかるため、確定前に治療を開始する必要があります。原因菌が判明するまでは初期治療として複数の抗菌薬を組み合わせて点滴投与し、原因菌が特定できれば適切な抗菌薬に変更して治療を行います。また、抗炎症薬を投与したり、脳障害を防ぐためステロイドホルモン剤を使用したりする場合もあるでしょう。治療期間は長期にわたるケースが少なくありません。

無菌性髄膜炎の治療

ヘルペスウイルス以外のウイルスが原因の場合は、対症療法が中心です。解熱鎮痛薬や制吐剤の使用、脱水に対する輸液療法など、症状に合わせた適切な対症療法をとれば数日~2週間程度で治癒します。細菌性髄膜炎ではないと確定するまでは、抗菌薬を使用する場合もあるでしょう。ヘルペスウイルスが原因の場合は有効な薬剤の点滴をすぐに開始し、けいれん発作があればけいれん止めの薬も使用します。真菌が原因であれば原因菌に応じた薬剤投与を行い、結核性髄膜炎はリファンピシン、リファブチンなどの抗結核薬を内服します。結核性の場合、1年以上治療が必要なケースもあるでしょう。

髄膜炎になりやすい人・予防の方法

髄膜炎の発症リスクが高いのは、以下のような方です。

  • 高齢者
  • 糖尿病・悪性腫瘍・血液疾患などで免疫抑制剤治療を行っている
  • 副鼻腔炎・中耳炎・肺炎などにかかっている
  • むし歯を放置している

また、エンテロウイルスやムンプスウイルスなどによるウイルス性髄膜炎は、幼児から小学生にかけてかかりやすいといわれています。髄膜炎の予防には、ワクチン接種・手洗い・うがいなどの感染対策も有効であると考えられています。
細菌性髄膜炎の原因の多くは、インフルエンザ桿菌と肺炎球菌とされています。この2種類の細菌に対するワクチンは2013年から定期接種となり、インフルエンザ桿菌と肺炎球菌による髄膜炎は大幅に減少しているというデータがあります。一方でワクチン接種では接種部位疼痛や微熱、脱力感などの副反応が不可避的に発生し、稀に高熱、意識障害、アナフィラキシーショックなど重篤な状態に至ることもあります。
ワクチン接種についてはメリットとデメリットを天秤にかけて検討することが大切です。また、細菌やウイルスの感染を予防するため普段から手洗い・うがいを徹底しましょう。


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