

監修医師:
勝木 将人(医師)
目次 -INDEX-
脳腫瘍の概要
脳腫瘍には、脳の中や脳の周囲に形成される、正常とは異なる細胞で構成された脳のがん(=悪性腫瘍)と良性腫瘍とがあります。
脳腫瘍はさらに、発生場所により、原発性腫瘍(脳そのものから発生したもの)と転移性腫瘍(ほかの部位で発生した腫瘍が脳にまで広がったもの)に分類されます。原発性脳腫瘍には、膠芽腫、髄芽腫などの悪性のものや、星細胞腫、髄膜腫などの良性と分類されるのものがありますが、悪性度については連続性(スペクトルを有すると言う)があり、WHOの分類も
gradeI から gradeIV に分けられています。
一方、転移性脳腫瘍を形成するものとしては、肺癌、乳癌、腎臓癌、皮膚癌(特に悪性黒色腫)などがあります。
なお、脳腫瘍の中に下垂体から発生する腫瘍も入れる分類がありますが、近年では下垂体腫瘍は内分泌腫瘍の一つとして使われるようになってきています。また、血液の腫瘍であるリンパ腫が発生することもあります。
脳腫瘍の原因
脳腫瘍の多くの分類において、正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、以下の要因がリスクを高めると考えられています。
遺伝的要因
ある特定の遺伝性疾患や遺伝子変異が脳腫瘍のリスクを高めることが知られています。例えば、神経線維腫症1型と2型(NF1、NF2)、リンチ症候群、フォン・ヒッペル・リンドウ病、リー・フラウメニ症候群などがあります。これらの疾患は、細胞分裂やDNA修復に関わる遺伝子の異常によって発症するため、脳腫瘍以外を合併することもあります。
環境要因
放射線被曝は脳腫瘍のリスクを高める主要な環境要因です。また、ほかの疾患に対する治療目的として頭部に放射線照射を行った場合もリスクとなります。長期間にわたる有害化学物質(例:ビニルクロリド、農薬、合成化学物質)の曝露も一因と考えられています。
免疫系の異常
腫瘍の成長を抑制している免疫系が弱まることによっても脳腫瘍の発症リスクが高まります。代表的なものとして、免疫抑制による治療を受けている患者さんやHIV感染者さんが該当します。
脳腫瘍の前兆や初期症状について
脳腫瘍の症状は、腫瘍が発生した位置や大きさ、成長速度によって大きく異なります。そのため、腫瘍の場所によっては、良性の腫瘍でも命に関わることがあるため、注意が必要です。逆に、良性腫瘍でも悪性腫瘍でも、同じような症状が出ることもあります。以下に一般的な前兆や初期症状と場所による症状の違いを示します。
頭痛
頭痛は脳腫瘍の最も一般的な症状の一つです。特に、朝起きたときに悪化し、日中にかけて軽減する傾向があります。横になっているときには、脳内の圧力が高まるため、と言われています。
吐き気と嘔吐
頭痛と同時に吐き気や嘔吐が現れることが多い傾向です。これも脳圧の上昇によるものとされているため、特に朝方に多くみられます 。
視覚障害
腫瘍が視神経を圧迫することで、視力低下や視野が狭くなる、物が2重にみえる、などの視覚障害が発生することがあります。
痙攣や意識消失などの突然の発作
これらの発作は、脳腫瘍の初期症状としてよくみられます。これは、腫瘍が脳の電気信号を乱すため、と言われています。
認知機能の低下
記憶力の低下、判断力の欠如、性格の変化などが見られることがあります。特に前頭葉に腫瘍がある場合に認められることが多くなっています。
腫瘍の発生部位に関連した症状
前頭葉
行動や性格の変化、判断力の低下、計画力の低下などがみられます。注意力・集中力の欠如や衝動的な行動を引き起こすこともあります。
側頭葉
記憶障害が主であり、言語理解の困難や情動の変化、聴覚障害もみられることがあります。
頭頂葉
感覚障害、空間認識の障害がみられます。そのため、物を持つことや服を着るなどの動作が難しくなることがあります。
後頭葉
視覚障害が主な症状で、視野の一部が見えなくなることがあります。
小脳
体のバランスについて問題がみられ、手足を上手く動かせなくなったり、震えたり、歩行の不安定さがみられます。手足の動作がぎこちなくなることもあります。
脳幹
呼吸や心機能の調節に影響を与えることがあります。また、顔面の筋肉の動きや話すこと、飲み込みがうまくできなくなることがあります。
脳腫瘍の検査・診断
脳腫瘍の診断のためには、以下のような検査が行われます。
神経学的検査
筋力、視力、聴力、平衡感覚、筋力などの神経機能を評価する検査です。これにより、腫瘍の影響を受けている可能性のある脳の部位を特定します。
画像検査
脳腫瘍の確認のためには、MRI(磁気共鳴画像)が最もよく用いられます。MRIにより腫瘍の位置や大きさが明らかになります。CT(コンピュータ断層撮影)スキャンなどの画像検査を用いることもあります。
組織学的検査(生検)
画像検査の結果に基づき、腫瘍の一部を採取して病理検査を行います。生検により、腫瘍が良性か悪性か、具体的な種類は何かを判断します。これに基づいてその後の治療がなされます。
脳腫瘍の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、脳神経外科です。脳腫瘍は脳内の腫瘍であり、脳神経外科での診断と治療が行われます。
脳腫瘍の治療
脳腫瘍の治療法は、腫瘍の種類、位置、大きさ、患者さんの健康状態などを含めて、患者さんを総合的に考えたうえで決定されるため、患者さんによって異なります。主要な治療法としては以下のものがあります。またそれ以外にも、近年ではアデノウイルスやヘルペスウイルスを使ったウイルス療法も開発されています。
手術
手術は脳腫瘍の治療において最も一般的で根治が望める方法です。腫瘍が手術で摘出可能な位置にある場合、脳外科医は腫瘍を完全に取り除くことを目指します。しかし、脳腫瘍は見た目では正常の組織との区別が難しいため、また、腫瘍の位置によっては意識や呼吸などの脳の重要な機能を持つ部分に近接している場合などでは、完全な摘出が困難なこともあります。
放射線療法
放射線療法では、画像によって腫瘍の位置を確認し、脳の外側から放射線を照射して腫瘍細胞を破壊します。腫瘍の位置や患者さんの状態などによって手術が難しい場合や手術を選択されない場合の治療法としても使用されます。手術の後に残った腫瘍細胞を破壊するために使用されることもあります。
化学療法
化学療法は、テモゾロミド(Temozolomide)などの抗がん剤を中心とする薬物を使用してがん細胞を攻撃する方法です。飲み薬や注射による薬剤の投与が行われます。ほかの治療法と組み合わせて使用されることもあります。
分子標的療法
分子標的療法は、遺伝子の変化などにより腫瘍で発現している特殊なタンパク質を標的とした新しい治療法です。これにより、腫瘍細胞を特異的に攻撃し、正常な細胞への影響を最小限に抑えます。新しい血管を阻害することにより、腫瘍の増殖を抑制するベバシズマブ(Bevacizumab)などの薬剤が使われます。
免疫療法
免疫療法は腫瘍に対する免疫システムを強化して、がん細胞への攻撃を高める治療法です。近年、脳腫瘍の治療においても免疫チェックポイント阻害剤などの研究が進められています。
脳腫瘍になりやすい人・予防の方法
脳腫瘍になりやすい人
- 遺伝的要因
- 年齢
- 放射線被曝
特定の遺伝子変異が脳腫瘍の発症に関与していることが知られています。そのため、脳腫瘍の家族歴がある場合、そのリスクは高まります。
脳腫瘍のリスクは年齢とともに増加しますが、一部のもの(例えば髄芽腫)は若年者にも発生します。
ほかの疾患で頭部に対する放射線療法を受けたことがある場合、脳腫瘍のリスクが増加します。特に小児期に放射線治療を受けた場合、成人になってからのリスクが高くなります。
予防方法
脳腫瘍を完全に予防する方法は現在のところありません。しかし、特にリスクが高い人では、定期的に健康診断を受けることで早期発見が可能となり、治療の成功率が高くなる可能性があります。
関連する病気
- グリオーマ
- 膠芽腫
- 星細胞腫
- オリゴデンドログリオーマ
- 髄芽腫
- 上衣腫
- 髄膜腫
- リンパ腫
- トキソプラズマ脳症
- 進行性多巣性白質脳症




