監修医師:
勝木 将人(医師)
脳出血(脳内出血)の概要
脳内出血(Intracerebral Hemorrhage, ICH)は、脳内の血管が破れて出血が生じる状態をさします。脳出血とも呼ばれ、脳卒中(脳血管障害)の一つとして分類されます。脳内出血は急性に発症し、迅速な対応が必要な緊急疾患です。出血によって脳組織が直接損傷を受けると同時に、血液による圧迫や浮腫みによって二次的な損傷も引き起こされます。脳卒中全体のおよそ20%を占め、早期の診断と治療が予後に大きな影響を与えます。発症すると社会復帰が非常に困難な疾患であり、予防と早期治療が重要です。
脳内出血の部位と発症割合は、以下の通りです。
脳内出血は、出血する部位によって症状や治療方法が異なります。脳内出血の、主な発生部位とその割合は以下の通りです。
被殻出血
およそ40-50%
発症割合が最も多い部位で、片麻痺や感覚障害、意識障害が現れやすい傾向です。
視床出血
およそ20-30%
意識障害や感覚障害が目立ち、場合によっては目の動きの異常も見られます。
小脳出血
およそ10-20%
頭痛、嘔吐、めまい、運動失調が見られます。
脳幹出血
およそ5-10%
意識障害や呼吸困難、四肢麻痺などが急激に進行し、重篤なケースが多い傾向です。
皮質下出血
5-10%
局所的な神経症状(片麻痺、言語障害など)が現れます。
脳出血(脳内出血)の原因
脳内出血の主な原因は、以下の通りです。
高血圧
高血圧は脳内出血の最も一般的な原因です。高血圧により血管壁が脆くなり、出血のリスクが増加します。長期間の高血圧は、小動脈の硬化や血管壁の変性を引き起こし、脳内出血のリスクを高めます。
脳動脈瘤や血管奇形:動脈瘤や動静脈奇形(AVM)などの血管異常が破裂すると出血を引き起こします。これらの異常は遺伝的要因に関連しています。
頭部外傷
外傷による直接的な血管損傷が出血を引き起こすことがあります。特に高齢者では、軽微な外傷でも脳内出血を引き起こすことがあります。
血液疾患
凝固異常や血小板減少症などの血液疾患も出血のリスクを高めます。例として、白血病や再生不良性貧血などがあります。
抗凝固療法
ワルファリンなどの抗凝固薬の使用も出血のリスクを増大させます。特に、薬物の管理が不十分な場合にリスクが高まります。
脳腫瘍
一部の腫瘍が血管に侵入し、出血を引き起こすことがあります。脳腫瘍の中でも悪性度の高いものがリスクとなります。
脳出血(脳内出血)の前兆や初期症状について
脳内出血の前兆や初期症状は急激に現れ、多くの場合以下のような症状が見られます。
意識障害
意識が朦朧としたり、失神することがあります。緊急の治療介入が必要とされます。
神経学的症状
片側の手足の麻痺、言語障害、視覚障害、歩行困難などが生じます。これらの症状は出血の部位と量によって異なります。
吐き気や嘔吐
出血による脳圧の上昇が原因です。特に出血が大きい場合に多く見られます。
けいれん発作
出血による脳の電気活動の異常が原因となります。けいれんは出血の初期症状として現れることがあります。
頭痛
脳圧の亢進により頭痛が見られることがあります。
脳内の出血による疾患の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、脳神経内科、脳神経外科です。脳内の出血による疾患であり、脳神経内科や脳神経外科で診断と治療が行われています。
脳出血(脳内出血)の検査・診断
脳内出血が疑われる場合、以下の検査が行われることがあります。
頭部CT(コンピュータ断層撮影):最も迅速かつ効果的な方法で、出血の有無・位置・量を評価します。X線による被爆がともなう検査です。
MRI(磁気共鳴画像)
CTで明らかにならない微小な出血や、出血の原因となる血管奇形や腫瘍の評価に有用となります。
血管造影検査
腕や足の付け根から動脈を穿刺して、カテーテルを用いてX線透視下で行われる検査であり、血管の詳細な画像を取得することで動脈瘤やAVMなどの血管異常を確認できます。
血液検査
凝固機能や血小板数の異常を確認するために有用です。特に抗凝固療法を受けている患者さんでは重要な場合があります。
脳出血(脳内出血)の治療
治療の目的は、出血の拡大を防ぎ、脳圧を管理し、患者さんの生命と機能を最大限に維持することです。治療方法には内科的治療(保存的治療)と外科的治療があります。
内科的治療(保存的治療)
出血量が少ない場合には保存加療による経過観察となるため、以下の薬を投与します。
降圧薬
血圧管理のために使用されます。急激な血圧の変動を避けるため、適切な管理となります。
浸透圧利尿薬
脳内出血が起こると、その周囲の脳が浮腫むため、浮腫みを軽減し脳圧を下げるために使用されることがあります。
外科的治療
外科的治療の必要性を判断する際には、「出血部位」「意識レベル」「脳ヘルニアのリスク」が重要となります。脳ヘルニアのリスクが高い場合には、血腫を除去する手術が必要となります。ただし、手術の目的は生命維持や意識の改善などであり、麻痺などを治すためではありません。
※脳ヘルニア:脳は頭蓋骨によって守られているため、出血や脳の浮腫みにより、正常な脳が圧迫されます。さらに、脳の浮腫みが増し圧迫が進むと、脳の一部が本来の位置から押し出されます。この状態を脳ヘルニアといいます。脳ヘルニアが起こると、呼吸や意識などを司る脳幹の障害が不可逆的となり、生命維持に影響します。
開頭血腫除去術
頭を大きく開き、頭蓋骨を外し、血腫(出血の塊)を吸引することで除去します。血腫を除去することで、脳の圧迫を軽減します。出血点を見つけ止血できたら、頭蓋骨を戻し縫合します。特に大きな血腫や脳圧亢進症状がある場合に行われます。なお、脳の浮腫みが強い場合には、しばらくの間頭蓋骨を外した状態にし、脳の浮腫みが引いた時点で頭蓋骨を戻す場合があります。これを開頭外減圧術といいます。
内視鏡的血腫除去術
頭蓋骨に500円玉ほどの穴を開け、そこにシースと呼ばれる筒を挿入します。筒の中に内視鏡と吸引管を挿入し、血腫を除去します。開頭血腫除去術とは比較すると、開頭範囲が小さく手術時間が短いため、低侵襲といえます。
しかし、術野が狭く、術中の激しい出血がある場合には出血点が見つけられず止血困難となる場合があります。その場合は、術式を開頭血腫除去術に切り替える場合があります。そのため出血量や出血部位などを考慮し、安全な術式を選択する必要があります。
脳出血(脳内出血)になりやすい人・予防の方法
脳内出血のリスクが高い人・予防の方法には、以下があげられます。
高血圧
高血圧は脳内出血の主要なリスク因子です。慢性的な高血圧により血管が脆弱になります。そのため日常的な血圧管理が重要です。定期的に血圧を測定し、生活習慣の改善や薬による血圧管理を行う必要があります。
脂質異常症
血管が脆弱になる原因の一つです。食生活の改善や薬による管理を行う必要があります。
高血糖
血管が脆弱になる原因の一つです。生活習慣の改善や薬による管理を行う必要があります。
喫煙
喫煙は血管を損傷し、出血リスクを高めます。禁煙は重要な予防策です。医療機関の支援(禁煙外来)を利用することも有益です。
飲酒
過度の飲酒は血圧を上昇させ、出血リスクを増大させます。過度な飲酒は控え、健康的な範囲で楽しむことが重要です。
高齢者
加齢により血管が脆弱になり、出血リスクが増大します。定期的な健康チェックが重要です。
既往歴のある人
過去に脳出血を経験したことがある場合、再発リスクが高まります。予防的な治療や生活習慣の見直しが必要です。
運動習慣
運動不足により血流が悪くなります。適度な運動は血圧を安定させ、健康を保つために重要です。特に有酸素運動が推奨されます。