

監修医師:
白井 沙良子(医師)
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小児科専門医(日本小児科学会)。「International Parenting & Health Insutitute Sleep Consultant(妊婦と子どもの睡眠コンサルタント)」保有者。慶應義塾大学医学部卒業。『はたらく細胞BABY』医療監修。2児の母。
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脳性麻痺の概要
脳性麻痺は、出生前から出生後4週までの間に脳が損傷されることによって起こる運動と姿勢にかかわる障害のことで、その症状は2歳までに発現し将来にわたって続きます。これらの症状は成長とともに変化することがあっても、脳の損傷自体が進行することはありません。脳性麻痺における麻痺とは、「自分で思った通りに手足を動かせない」状態のことで、全く動かせないわけではありません。
脳性麻痺の場合、脳の損傷は運動をつかさどる神経におきることが多いため、手足の麻痺、筋肉のこわばり、反り返りが強い、不随意運動などの症状がよくみられます。また、損傷を受けた脳の場所により症状は異なるため、運動障害以外にてんかん、視覚・聴覚障害、知的発達障害、呼吸器障害、消化器障害や摂食障害などが併わせて現れることもあります。
脳性麻痺は、全出生児の0.1~0.2%、つまり1,000人に1~2人の割合で起こるといわれています。また、早産児(37週未満の出産)では15%、出生時体重が1,000g未満の場合は正期産で出産した場合と比べて約30倍の確率で脳性麻痺が起こるとの報告があります。近年は、新生児特定集中治療室(NICU)による早産児の高度先進医療の充実によってハイリスク児、低出生体重児の救命率が増加したことにより、脳性麻痺の発症は増加傾向にあります。
重度の脳性麻痺と診断された場合、経済的負担を速やかに補償する「産科医療補償制度」が適応されることもあります。
脳性麻痺の原因
脳性麻痺の主な原因として、感染症、低酸素性虚血性脳症、核黄疸などが挙げられます。また、遺伝子や染色体の異常による脳の奇形が原因となることがありますが、原因がわからない場合も多くあります。脳の損傷に関与する危険因子には次のようなものがあります。
出生前
早産(37週未満)、低出生体重(2,500g未満)、子宮内感染症(風疹、トキソプラズマ症、サイトメガロウィルスなど)、多胎、胎盤機能不全(胎盤剥離など)周産期
新生児仮死、帝王切開、高・低血糖、脳室周囲白質軟化症、脳室内出血、脳出血出生後
感染(髄膜炎など)、けいれん、核黄疸脳性麻痺の前兆や初期症状について
出生後の成長段階において、運動機能の発達に遅れなどがみられる場合に脳性麻痺を疑います。1ヶ月検診・6ヶ月検診・1歳検診などの乳児検診の際に、月齢に沿った運動発達に遅れや異常が指摘されることがあります。生後2~3ヶ月頃
- 手足のこわばりが異常に強い
- 目を合わせない など
生後6ヶ月頃まで
- 身体の反り返りが異常に多い
- 首が座らない
- 寝返りをしない
- 母乳やミルクをうまく飲めない
- 手を握りしめたまま開かない など
生後6ヶ月以降
- 原始反射が残っている
- お座りやハイハイをしない
- 手足が突っ張ったようにこわばっている
- ものを飲み込みにくい など
脳性麻痺は症状によって、痙直型、アテトーゼ型、運動失調型、混合型の4種類に分類することができます。
痙直型
脳性麻痺児の70~80%を占めます。筋肉が常に緊張して身体が突っ張ったりこわばる症状がみられます。筋肉が硬くなってしまうことで筋力が低下が起こります。けいれん発作や嚥下障害、知的障害が併せてみられることがあります。アテトーゼ型
10~20%の患児にみられます。自分の意志とは関係なく手足や体幹の筋肉が勝手に動く不随意運動がおきるため、姿勢を保つことが困難になります。顔面に不随意運動が現れると口がうまく動かせなくなり構音障害がおこることがあります。知的障害はあまりみられません。
運動失調型
筋力低下や筋肉のふるえがみられ、身体のバランスが取りにくいタイプで、5~10%の患児でみられます。混合型
上記の2つ以上の型が混在するタイプで、特に痙直型とアテトーゼ型の混合が多くみられます。脳性麻痺の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、神経内科、リハビリテーション科です。脳性麻痺は神経系の疾患であり、神経内科やリハビリテーション科での診療が適しています。
脳性麻痺の検査・診断
検査
頭部MRIや頸頭部CTによる画像診断は、脳内の損傷部位や程度を確認するために実施されます。また、感染症や代謝異常などを調べるために、血液検査や尿検査を行います。乳児検診などで運動発達に遅滞があるかの確認を行います。
診断
脳性麻痺の診断は、次の3項目を総合して行われます。- 脳の画像検査
- 出生時の調査
- 診察所見
脳性麻痺の治療
脳の損傷した場所を治療することはできないため、根治的な治療法はありません。しかし、日常生活動作を改善するために、リハビリテーションや薬物療法などがとり入れられます。
リハビリテーション
理学療法(PT) 運動や姿勢の障害を改善させるための運動療法が目的です。作業療法(OT) 日常生活で行う衣服の着脱やトイレに行く動きなど、生活に必要な動きの訓練が目的です。
言語療法(ST) 口の周りの筋肉や呼吸にかかわる筋肉の動きを改善して、食べ物をうまく咀嚼し飲み込む機能の強化を図ることが目的です。
薬物療法
経口薬物療法 用いられる薬剤には中枢神経に作用するものと筋肉に直接作用するものがあります。中枢神経に作用するものには、有効とされるジアゼパム、チザニジンがよく使われます。また、経口バクロフェンが用いられることもあります。眠気やよだれなどの副作用に注意が必要です。ダントロレンは筋肉に直接作用する薬剤で、肝障害の副作用に注意が必要です。A型ボツリヌス毒素療法 薬剤を筋肉に直接注入することで、筋肉内にある運動神経の末端の働きを麻痺させて筋緊張を緩和します。重篤な副作用はほとんど報告されておらず、安全な治療法といえます。しかし、数ヶ月で効果が減弱するため、定期的に注射を継続する必要があります。
バクロフェン髄腔内投与法 薬液の入ったポンプを体内に埋め込みカテーテルを通じて脊髄周囲に薬液を送り、筋緊張を軽減させます。体全体に筋緊張があり、激しい運動の少ない、身長100cm以上の小児が適応となります。
脊髄後根切断術
ボツリヌス療法で下肢の筋緊張の改善が不十分な場合に行われます。一度手術すれば、永続的に効果が持続します。切断する神経は筋肉の収縮を伝える感覚神経なので、運動麻痺は起こりません。脳性麻痺になりやすい人・予防の方法
脳性麻痺は、その原因を特定することが難しいため、完全に予防することができません。しかし、発症の危険要因を回避することが予防につながると考えられます。例えば、風疹など一部の感染症を予防するためにワクチンを接種したり、トキソプラズマ症やサイトメガロウィルなどの感染症にかからないように注意を払うことや、早産とならないように妊娠中の生活習慣に気を配ることなどです。
しかし、感染症にかかってしまった、あるいは早産になってしまったからといって、必ず脳性麻痺を発症するということではありません。
ビリルビン値が高く核黄疸の可能性がある時は、光線療法や交換輸血が行われます。
海外の文献では、低酸素性虚血脳症に対して低体温(全身または頭部だけの)冷却療法を行うことや、人工呼吸器から離脱(抜管)する際にメチルキサンチン(カフェイン)を投与することは、脳性麻痺の予防に有効であるという報告があります。しかし、ステロイドの投与には注意が必要で、生後8日未満の児に対して慢性肺疾患の予防のためにコルチコステロイドを投与すると脳性麻痺を発症する可能性が高いという報告があります。
参考文献
- 脳性麻痺リハビリテーションガイドライン(第2版)
- https://www.childneuro.jp/modules/general/index.php?content_id=18
- https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/cerebral_palsy/#
- https://www.cochrane.org/ja/CD012409/NEONATAL_noy-xing-ma-bei-yu-fang-notamenosheng-hou-1keyue-wei-man-nochi-tiyanhenojie-ru-kokuranxi-tong-de
- 脳性麻痺症候群 - MSDマニュアル プロフェッショナル版
- https://kcmc.kanagawa-pho.jp/diseases/nou.html
- 脳性麻痺 | NCNP病院 国立精神・神経医療研究センター
- 脳性麻痺予防のための生後1ヶ月未満の赤ちゃんへの介入:コクラン系統的レビューのオーバービューレビュー | Cochrane
- 脳性麻痺 / Cerebral Palsy - Christopher & Dana Reeve Foundation (christopherreeve.org)




