

監修医師:
林 良典(医師)
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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
消化器内科
呼吸器内科
皮膚科
整形外科
眼科
循環器内科
脳神経内科
眼科(角膜外来)
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腸管アメーバ症の概要
腸管アメーバ症は、赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)という原虫が大腸に感染し、炎症を引き起こす疾患です。 感染経路の中心は糞口感染であり、汚染された水や食物を介してシスト(嚢子)が体内に取り込まれることによって成立します。また、口腔・肛門接触を通じて感染する性感染症としての側面もあり、特に男性間性交渉(Men who have Sex with Men:MSM)を介した感染が国内でも増加しています。 従来は海外渡航歴のある方に多い輸入感染症として認識されていましたが、現在では国内感染の報告が年々増加しています。都市部を中心に、無症候性キャリアによる感染拡大が社会的な課題となっており、知らないうちに感染しているケースも少なくありません。多くの感染者さんは自覚症状がないまま生活しており、気付かないうちに周囲に感染を広げてしまうリスクがあります。 症状が現れると、軽度の下痢から、急激な腹痛と血性下痢を伴う劇症型アメーバ性腸炎まで、幅広い病態を示します。さらに、腸管外へ波及し、肝膿瘍や脳膿瘍といった重篤な合併症を引き起こすこともあるため、早期発見と的確な治療介入が重要です。腸管アメーバ症の原因
赤痢アメーバは、環境中で長く生存可能なシスト(嚢子)と、腸管内で活動的に増殖する栄養型の2つの形態を持っています。感染は主に、口から取り込まれたシストが小腸で栄養型に変化し、大腸へ移動して粘膜を侵襲することで発症します。侵襲が起こると、腸粘膜にびらんや潰瘍が形成され、炎症を引き起こすことになります。 発展途上国では、水や食物を介した経口感染が多くみられますが、日本などの先進国では性感染症としての性格が強く、特にMSMの方や性風俗業に従事されている方に感染が多く確認されています。さらに、HIV感染症など免疫抑制状態にある方では、通常よりも重症化しやすい傾向があります。腸管アメーバ症の前兆や初期症状について
腸管アメーバ症は、感染しても無症候性で経過する方が多く、自覚症状が乏しいまま長期間生活していることもあります。しかし、発症すると、まず下痢や粘血便といった消化器症状が現れます。また、腹痛やしぶり腹(テネスムス)を訴える方も多く、排便後も便意が残るような感覚が続くのが特徴です。 このような消化器症状に加え、発熱や全身倦怠感、食欲不振、体重減少といった全身症状を伴うこともあり、日常生活に支障をきたす場合もあります。これらの症状は、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患とよく似ているため、誤って診断されるリスクもあります。正確な診断のためには、内視鏡検査や便の顕微鏡検査、PCR検査などを組み合わせた総合的な評価が必要です。 症状が進行すると、劇症型アメーバ性腸炎となり、腸管穿孔や腹膜炎といった命に関わる合併症を引き起こすことがあります。さらに、血行性に広がって肝膿瘍や脳膿瘍などの腸管外病変を来すこともあり、放置すると急速に全身状態が悪化するおそれがあります。 このような症状がある場合には、自己判断を避け、できるだけ早く消化器内科または感染症内科を受診しましょう。腸管アメーバ症の検査・診断
腸管アメーバ症を調べるためには、まず便の検査が行われます。これは、便の中に赤痢アメーバと呼ばれる病原体がいるかを確認する方法です。便をそのまま顕微鏡で観察する方法や、病原体を集めて調べる検査(集卵検査)は、保険が使える基本的な検査です。 ただし、検査の精度は技術者の経験によって差が出るため、見逃しを防ぐには複数回検査を行うことが多いです。 より簡単で早く結果がわかるのが迅速抗原検査です。専用キットを使って、30分以内に判定できます。精度は高いですが、便の中に病原体が少ないと見逃すこともあるため、陰性でも完全には安心できません。もっと確実に調べる方法として、PCR検査という遺伝子検査があります。精度はとても高いですが、現在は保険が使えず、限られた施設でのみ受けられます。 また、腸の中を内視鏡(カメラ)で調べ、粘膜に傷や潰瘍がないか確認する方法もあります。必要に応じて腸の一部から小さな組織をとり、赤痢アメーバがいるかを顕微鏡で確認します。ただし、組織に病原体が含まれていないと検出できないこともあるため、ほかの検査とあわせて判断します。 腸管アメーバ症は、潰瘍性大腸炎やクローン病といった腸の病気と似た症状を示すことがあります。そのため、見た目や症状だけではなく、検査結果を総合的に判断することが大切です。 まれに肝臓に膿がたまるアメーバ性肝膿瘍という合併症が起こることもあります。これが疑われる場合は、超音波やCT、MRIといった画像検査を行い、必要があれば膿を採って詳しく調べます。血液検査も併せて行い、身体の炎症や肝臓の状態をチェックします。腸管アメーバ症の治療
腸管アメーバ症の治療は、抗アメーバ薬を用いた薬物療法が基本となります。活動性の感染が確認された場合には、メトロニダゾールを7〜10日間投与し、腸管内の栄養型アメーバを除去します。その後、シストの駆除を目的として、パロモマイシンといった腸管内作用型薬剤を10日間投与します。この2段階の治療によって、再発や保菌状態の残存を防ぐことができます。 重症例では入院管理のうえ、点滴による補液や電解質の補正、発熱や脱水への対処を行います。特に高齢者や免疫不全のある方では、全身状態の悪化に注意しながら慎重な治療が求められます。肝膿瘍を伴う場合には、抗アメーバ薬に加えて、膿瘍のドレナージが必要となることがあり、感染症科や消化器外科との連携が必要となります。 治療終了後も、再感染や残存感染の有無を確認するために、フォローアップとして便検査や腹部画像検査を数週間後に再実施することがあります。HIV感染症など免疫機能が低下している方においては、長期間の治療と再発防止の観点から、感染管理の継続が重要になります。治療後の生活管理にも注意を払う必要があります。腸管アメーバ症になりやすい人・予防の方法
腸管アメーバ症は、発展途上国への渡航歴がある方や、国内でも不特定多数との性的接触がある方でリスクが高まります。特に、MSM(男性間性交渉者)、性風俗に従事している方、またHIV陽性の方は、免疫機能の低下や接触機会の多さから発症の頻度が高いとされています。さらに、無症候性キャリアからの感染もあるため、知らないうちに感染しているケースもあります。 予防の基本は、赤痢アメーバのシストを体内に取り込まないことです。飲料水は浄化処理されたものを使用し、生野菜や果物はよく洗浄し、加熱処理された食品を選ぶなどの食事衛生に注意が必要です。旅行や滞在時には、現地の水道水や氷、生ものを避けることが効果的です。感染地域への渡航時には特に注意を払いましょう。 また、性感染症としての側面を踏まえた予防策も大切です。粘膜接触を伴う性行為の際にはコンドームを使用することが推奨されており、感染リスクが高いとされる行動を取る方は、定期的な検査と医療機関でのフォローアップを受けることが望ましいとされています。症状がない場合でも、感染を疑う状況がある場合は、早期の医療機関受診と検査によって、重症化のリスクを未然に防ぐことが可能です。 地域社会での感染拡大を防ぐためには、個人の衛生管理だけでなく、周囲への配慮や公衆衛生的な対策も重要であり、啓発活動や検査体制の整備が今後ますます求められます。感染症としての正しい理解と予防行動の実践が、発症の予防と流行の抑制につながります。関連する病気
- アメーバ赤痢
- 肝膿瘍
参考文献




