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伊藤 喜介

監修医師
伊藤 喜介(医師)

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名古屋卒業後、総合病院、大学病院で経験を積む。現在は外科医をしながら、地域医療に従事もしている。診療科目は消化器外科、消化器内科。日本外科学会専門医、日本消化器外科学会専門医・消化器がん外科治療認定医、日本消化器病学会専門医、日本腹部救急医学会認定医、がん治療認定医。

消化管平滑筋腫の概要

食道や胃、腸などの消化管の壁には食べ物を運ぶ蠕動運動を行うための筋肉(平滑筋)が存在します。消化管平滑筋腫は消化管の平滑筋からできるまれな良性の腫瘤です。 腫瘤の大きさは最大でも3~5cm程度と小さいことから、症状を呈することなく、健診の胃カメラや上部消化管造影検査、CT検査などで偶然発見されることも少なくありません。

平滑筋腫の発生部位としては、食道、胃、小腸、大腸(結腸)など、消化管のどこにでも発生することがわかっています。腫瘤は消化管の粘膜の下側に存在し、見た目上は粘膜が盛り上がったようにみえます。悪性の腫瘍である平滑筋肉腫や消化管間質腫瘍(GIST)も似たような見た目を示します。そのため、これら悪性の粘膜下腫瘍との鑑別が重要となります。

平滑筋腫自体は悪性化することはない良性の腫瘤ではありますが、適切な診断や治療を要します。ここでは消化管平滑筋腫の原因や症状、治療について順に説明していきます。

消化管平滑筋腫の原因

さきほども説明したとおり、消化管平滑筋腫は消化管に存在する筋肉が増殖して腫瘤となることで発生します。しかし、平滑筋腫の発生する原因は明らかになっていません。ごく一部の平滑筋腫では遺伝性や、ホルモンの異常といった可能性があると考えられています。

消化管平滑筋腫の前兆や初期症状について

消化管平滑筋腫は、健診やほかの目的での画像検査で偶然発見されることが多く、基本的に症状は見られません。 しかし、腫瘤が大きくなった場合などでは発生部位に応じた症状を呈する場合があります。見られる可能性のある症状を部位別に以下に示します。

  • 食道:胸やけ、胸痛、飲み込み時の引っかかり感
  • 胃:胃(心窩)部の不快感、嘔気、嘔吐
  • 小腸:腹部の不快感、腹痛、まれではあるが血便
  • 大腸:下痢、便秘、粘液便、血便

いずれの症状も消化管平滑筋腫だけに特徴的なものではなく、ほかの病気やがんなどの可能性も十分に考えられます。症状が見られた場合や症状が続いて改善しない場合には、かかりつけ医や消化器内科を受診いただくことがすすめられます。

消化管平滑筋腫の検査・診断

健診などで指摘があった場合や、症状が見られた場合には次のような検査を行います。がんとは違い、表面に病変が露出していないため、確定診断をつけることが難しく、検査の結果疑いの状態のまま治療へと進むことも多くみられます。

上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)

食道や胃に発生した場合には上部消化管内視鏡検査で粘膜の隆起として観察することができます。腫瘤の存在は確認できますが、ほかの粘膜下腫瘍との鑑別は難しい場合があります。 先端にエコー検査のプローブが付いた内視鏡を使用して内視鏡下に超音波検査(EUS)を行い、より正確に診断をつけることもあります。さらに確定診断をつけるため、内視鏡検査の超音波越しに針を刺して組織を採取する針生検(EUS-FNA)を行うこともあります。

下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)

大腸に発生した場合には下部消化管内視鏡検査を行い腫瘤の形状などを観察します。ポリープ状に隆起している場合には、大腸ポリープ切除と同じような方法で内視鏡下に切除してしまう場合もあります。胃と異なる部分としては、大腸は壁が薄いため針を刺して組織を取ることは難しくなります。

上部・下部消化管造影検査

造影剤を飲む、あるいは注入することで腸の形状を観察することができます。確定診断をつけることは難しいものの腫瘤の場所をある程度正確に把握することができるため、手術の準備として行われることがあります。

腹部CT検査

腹部CT検査では腫瘍の形状や大きさが明らかになります。小腸に発生した場合では、CTで偶然発見されることも少なくありません。また、肺や肝臓などに転移した腫瘍が見つかることもあります。その際は平滑筋腫ではなく、悪性腫瘍(平滑筋肉腫、GISTなど)を疑うこととなります。

消化管平滑筋腫の治療

消化管平滑筋腫では以下のような治療を行っていきます。

経過観察

消化管平滑筋種は先ほども示したように、良性の腫瘍であり、がん化することはありません。そのため、腫瘍の大きさが小さく、経時的な増大が見られない場合や、腫瘍に伴う症状がない場合では定期的な外来での画像検査を行い腫瘍の経過を観察していきます。

内視鏡的切除術

胃カメラや大腸カメラを行った際にポリープと診断されて、内視鏡的に切除が行われることがあります。切除したものを顕微鏡で観察した結果、平滑筋腫と診断されることがあります。

外科的切除術

発見された腫瘍が大きい場合や、経時的な経過観察中に増大傾向が見られる場合、腫瘤に伴う症状(出血、疼痛、腸閉塞など)を認める場合には手術による切除によって治療していきます。 手術の術式は腫瘤の場所や大きさによって異なります。手術のアプローチ方法として、開腹手術、腹腔鏡(胸腔鏡)手術のいずれも選択されます。特に腫瘤が小さい場合には腹腔鏡(胸腔鏡)手術のよい適応となります。手術では腸管(の一部)とともに腫瘤を切除します。腫瘤による欠損部は縫合あるいは吻合を行います。

診断がついていない病変に対しての治療方針について

診断がついていない消化管平滑筋腫疑いの消化管粘膜下腫瘍に対しては、悪性(GISTなど)を考慮しながら治療を選択する必要があります。治療方針決定についてはガイドラインにおいて以下のように規定されています。

  • 症状がある場合や5cm以上の場合:手術による切除術
  • 症状がなく、2~5cmだが、悪性を疑う所見がある場合:手術による切除術
  • 症状がなく、2~5cmで悪性を疑う所見がない場合:可能であれば針生検(EUS-FNA)だが難しい場合は経過観察あるいは手術による切除術
  • 症状がなく、2cm以下だが、悪性を疑う所見がある場合:手術を検討
  • 症状がなく、2cm以下で悪性を疑う所見がない場合:経過観察

詳細な治療の内容については先に示したものと同様となります。

消化管平滑筋腫になりやすい人・予防の方法

先ほども説明したとおり、消化管平滑筋腫の原因は明らかになっていません。また、一度消化管平滑筋腫の診断があり、手術にて切除を行った方が再発することもほとんどありません。したがって、消化管平滑筋腫の発症を予測したり、予防したりする方法はありません。 一方で、消化管平滑筋腫のような消化管粘膜下腫瘍の一部には悪性のものも存在しますし、消化管平滑筋腫の一部で見られるような症状はがんなどのほかの消化器疾患でも起きうる症状となります。定期的な健診を受け、指摘された場合には早期の病院受診と精査が望まれます。

関連する病気

  • 消化管間質腫瘍(GIST)
  • 平滑筋肉腫
  • 消化管ポリープ

参考文献

  • 医学書院 専門医のための消化器病学 第3版
  • GIST診療ガイドライン』2022 年4 月改訂第4 版

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