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先天性腸管閉鎖
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

先天性腸管閉鎖の概要

先天性腸管閉鎖は、生まれつき小腸(十二指腸、空腸、回腸)の一部が途切れている状態を指します。 胃液やミルクが小腸を通過せず閉塞部の手前にたまることで、出生直後からさまざまな症状が現れます。

先天性腸管閉鎖の原因は現時点では完全に解明されていませんが、低出生体重児(未熟児)に多く見られ、胎児期の腸管の発育異常が関与していると考えられています。 また、ダウン症や消化管奇形、心大血管奇形、鎖肛などを合併することもあります。

先天性腸管閉鎖を発症している新生児にみられる具体的な症状としては、出生直後から繰り返す嘔吐や腹部膨満、出生後24時間以内に胎便(たいべん)が出ないなどの症状が挙げられます。

診断には臨床症状の確認に加え、腹部レントゲンや超音波などの画像検査が用いられます。 腸の閉鎖部位やガスのたまり方などを総合的に評価して確定診断をおこないます。 近年では、出生前診断で兆候を捉えることもできるようになっています。

治療は外科的手術が基本で、閉鎖部を切除し腸をつなぐ吻合術(ふんごうじゅつ)が行われます。 手術の成功により根治を期待できますが、予後は合併症の有無や程度によって左右されます。 先天性腸管閉鎖は、発見が遅れると腸穿孔などを引き起こし、新生児の生命予後に重大な影響を与える可能性があります。そのため、早期発見と早期治療が重要となる疾患です。

先天性腸管閉鎖の原因

先天性腸管閉鎖の主な原因は、現時点では完全には解明されていません。

十二指腸が閉鎖している場合は、腹側膵芽(ふくそくすいが:膵臓のもとになる部分)が正常につながらなかったり、本来通り道となるはずの十二指腸の管の中にある細胞がきれいに消えず、ふさがったままになってしまったりすることが原因と考えられています。

胎児期に腸が捻転(ねんてん)したり、腸同士が重なり合うことで血流が遮断され、腸が壊死することがあります。 その部分の腸が壊死したり腹膜炎を起こした結果、小腸が閉鎖してしまう可能性も指摘されています。

先天性腸管閉鎖は、低出生体重児(未熟児)に多くみられる傾向があり、ダウン症などの染色体の異常や、心大血管奇形などを伴うケースがあることも知られています。

先天性腸管閉鎖の前兆や初期症状について

先天性腸管閉鎖は、多くの場合出生前診断で前兆を捉えることもできるようになっていますが、必ずしも出生前に判明するわけではなく、出生後の初期症状で気づかれることもあります。

先天性腸管閉鎖を発症している新生児は、出生直後から嘔吐を繰り返すことがあります。 嘔吐は小腸の閉鎖部位が肛門側であればあるほど、遅れて現れます。

母乳やミルクを飲んだ後すぐに嘔吐したり、腹部が異常に膨らんだりして気づかれることがあります。 腹部の膨らみ方は、閉塞部位によって程度と形が異なります。

通常であれば生まれて24時間以内にみられる胎便が遅れたり、出なかったりするのも、先天性腸管閉鎖の大きな特徴です。

症状が進むと、嘔吐によって体の水分が失われることで脱水になり、血液の流れが悪くなってしまうこともあります。 さらに、黄疸(おうだん)と呼ばれる肌や目が黄色くなる症状が見られることもあります。

適切な治療が遅れると、腸穿孔(ちょうせんこう:腸の一部が破けてしまう状態)のリスクが高まり生命予後に関わります。先天性腸管閉鎖では先天性腸管閉鎖早期発見と早期治療が重要です。

先天性腸管閉鎖の検査・診断

先天性腸管閉鎖は、出生後の症状と画像検査によって診断されます。 臨床所見から先天性腸管閉鎖を疑う場合は、腹部レントゲン検査をおこない、腸管の閉鎖部位やガスのたまり方を確認します。 小腸に閉鎖がみられる場合は、腸管内の水と空気が混ざって「鏡面像」と呼ばれる特徴的な画像が見られます。

画像検査の結果から、先天性腸管閉鎖の確定診断がおこなわれます。

また、出生前の妊婦健診の胎児超音波検査で、出生前に病気が見つかることもあります。

先天性腸管閉鎖の治療

先天性腸管閉鎖の治療は、外科的手術によりおこなわれます。

手術前には、手術に向けて全身状態を整える必要があります。 新生児である患者さんは、繰り返しの嘔吐などで脱水や電解質のバランスが乱れていることが多いため、点滴治療で水分や電解質を補正します。 また、腸穿孔を防ぐために、鼻から細いチューブを通して胃の内容物を吸引する処置もおこなわれます。 全身状態が安定したところで、手術をおこないます。

閉鎖している部分を切除し、正常な腸同士をつなぎ合わせる「吻合術」という手術がおこなわれます。 手術は出生後できるだけ早い段階でおこなうことが推奨されており、早期治療が術後の回復や成長に大きく影響すると考えられています。 先天性腸管閉鎖は適切な手術を受けることで、ほとんどの場合、根治を期待できます。 術後は、新生児集中治療室(NICU)に入院して、慎重に経過を観察します。

小腸の閉鎖部がいくつもあったり、小腸の残る長さが短かったりする場合には、小腸をすべてつなぎ合わせたとしても残っている小腸が短くなることもあり、消化や栄養の吸収に支障が出ることがあります。 その場合、術後も長期間にわたって高カロリー輸液で栄養を補う治療が必要となることもあります。

先天性腸管閉鎖になりやすい人・予防の方法

先天性腸管閉鎖は、低出生体重児に多くみられると言われています。 また、ダウン症などの染色体異常や、他の消化管奇形、心大血管奇形と合併して見つかるケースがあります。

現時点では、明確な予防方法は確立されていません。 ただし、妊婦健診を定期的に受けることで、赤ちゃんの異常を出生前に発見できる可能性があります。

また、妊娠中の一般的な健康管理として、「強いストレスや疲労に注意する」「過度の飲酒や喫煙を避ける」「健全な食生活や生活習慣に気を配る」などを守って生活することは、妊娠・出産時に生じるさまざまなリスクから母体や胎児を守ることにもつながります。 妊娠中の検査において胎児に異常がみられるような場合には場、出生後すぐに治療ができるように、出産施設の選択も慎重に検討されるべきです。 高リスクと判断された場合には、新生児集中治療室(NICU)のある総合病院や大学病院など、専門的な医療体制が整った施設での出産を検討することが推奨されます。

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