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ノロウイルス性胃腸炎
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

ノロウイルス性胃腸炎の概要

ノロウイルスは、急性胃腸炎を起こす代表的なウイルスのひとつです。流行の季節は秋から春にかけてで、とくに冬場に多く見られるため「冬の胃腸炎」と呼ばれることもあります。食中毒の原因としてもしばしば問題となり、学校や施設、家庭などで集団感染が起こることもあります。主な症状は吐き気や嘔吐、下痢であり、高熱を生じることは少ないです。高齢者では誤嚥性肺炎を起こしたり、幼い子どもでは脱水になりやすいので注意が必要です。治療は下痢と嘔吐で失われた水分と電解質を補給することで、多くの場合は数日の経過で自然に回復します。

ノロウイルス性胃腸炎の原因

ノロウイルスに感染する主な経路は口からウイルスが体内に入ることによって発症する、経口感染です。感染の原因となるものは次のようなものです。

  • 感染者の便や吐物に含まれるウイルス
  • それらに直接または間接的に触れた物(ドアノブ、タオル、食器など)
  • 汚染された食品(とくにカキなどの二枚貝の生食や加熱不足のもの)
  • 感染者が調理した食品

 

また、嘔吐したときに飛び散った細かい粒や、ほこりに付着したウイルスを吸い込むことでも感染が広がることがあります。また、症状が治まった後でも便の中には数日間ウイルスが出続けます。そのため、この状態の感染者の便からも他の人にうつす可能性が残ります。

こうして侵入したノロウイルスは腸に入ると、小腸の細胞に感染します。そこで小腸の絨毛を破壊し、下痢を引き起こすと考えられていますが、詳しい仕組みはまだわかっていません。

ノロウイルス性胃腸炎の前兆や初期症状について

ノロウイルスに感染すると、1〜2日の潜伏期間を経て症状があらわれます。主な症状は吐き気、嘔吐、下痢、腹痛です。発熱が出ることもありますが、軽度のことが多いです。頭痛、筋肉痛、寒気、だるさが現れることもあります。

多くの場合は軽症で、特別な治療をしなくても2〜3日で回復します。しかし、乳幼児や高齢者、体力が落ちている人では嘔吐や下痢により脱水症状を起こす危険があり、注意が必要です。まれに、嘔吐したものをのどに詰まらせて窒息を起こしたり、誤嚥性肺炎になったりする例も報告されています。

ノロウイルス性胃腸炎の検査・診断

ノロウイルスの診断は、主に症状や流行状況から疑います。現在でも人工的に培養することができないため、便を電子顕微鏡で観察し直接ウイルスを確認する方法が行われています。ただし、たくさんのウイルスがいないと見つけにくい点が問題となつています。

最も高い精度でノロウイルスを検出する方法としては遺伝子検査(PCR法)がありますが、専用機器が必要となるためどの施設でも実施できる検査ではありません。

また、便の中のウイルスの目印をとらえて調べる抗原検出キットも開発されています。これにより特殊な機械を必要とせずに迅速で簡単にノロウイルスを検出することができるようになりましたが、ノロウイルスのすべての種類を検出できるわけではないという問題点もあります。

ノロウイルス性胃腸炎の治療

ノロウイルスに対する抗ウイルス薬はまだありません。そのため治療は症状を和らげるための対症療法が中心になります。

一番大切なことは、下痢や嘔吐による脱水を防ぐため水分や電解質を補うことです。安静にして休養することも大切です。症状に応じて吐き気止めや整腸剤を使うこともあります。

多くは数日で自然に回復しますが、重症化しやすい小さな子どもや高齢者では、入院して点滴を受けることもあります。

ノロウイルス性胃腸炎になりやすい人・予防の方法

日本では、ノロウイルスは毎年冬を中心に流行します。国の調査では、12月から3月が感染のピークとされ、多くの集団食中毒や家庭内感染が報告されています。

例えば2005年には、食中毒事件全体の約18%がノロウイルスによるもので、患者数では全体の3割以上を占めました。

ノロウイルスは少量でも感染する力が強く、胃酸や熱、消毒に対してもある程度の強さを持っています。そのため、以下の対策が重要です。

  • 手洗いの徹底 調理や食事の前、トイレの後は石けんで丁寧に手を洗う。

  • 食品の十分な加熱 カキなどの二枚貝は85℃以上で1分以上加熱する。

  • 吐物や便の適切な処理 使い捨て手袋やマスクを着け、ペーパータオルで拭き取り、次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤)で消毒する。

  • 調理器具の衛生管理 包丁やまな板をしっかり洗い、熱湯や漂白剤で消毒する。

  • 感染者の配慮 症状がある人は食品を扱わない。症状が治まった後もしばらくは注意する。

また、感染症法では、「感染性胃腸炎」として5類感染症に分類され、全国の特定施設から毎週患者数が報告されることになっています。また、食中毒が疑われる場合は、24時間以内に保健所に届け出るよう定められています。

参考文献

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