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伊藤 規絵

監修医師
伊藤 規絵(医師)

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旭川医科大学医学部卒業。その後、札幌医科大学附属病院、市立室蘭総合病院、市立釧路総合病院、市立芦別病院などで研鑽を積む。2007年札幌医科大学大学院医学研究科卒業。現在は札幌西円山病院神経内科総合医療センターに勤務。2023年Medica出版社から「ねころんで読める歩行障害」を上梓。2024年4月から、FMラジオ番組で「ドクター伊藤の健康百彩」のパーソナリティーを務める。またYou tube番組でも脳神経内科や医療・介護に関してわかりやすい発信を行っている。診療科目は神経内科(脳神経内科)、老年内科、皮膚科、一般内科。医学博士。日本神経学会認定専門医・指導医、日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医、日本老年医学会専門医・指導医・評議員、国際頭痛学会(Headache master)、A型ボツリヌス毒素製剤ユーザ、北海道難病指定医、身体障害者福祉法指定医。

胃拡張の概要

胃拡張は、胃が異常に拡大する状態で、食べ物が十二指腸に移動しないことによって生じます。 この状態は、単なる食べ過ぎとは異なり、深刻な健康問題を引き起こす可能性があります。上腹部の張り(胃拡張の典型的な症状で、上腹部が張る感覚を感じる)や腹痛呼吸困難(拡大した胃によって内臓が圧迫され、腹痛や呼吸困難を引き起こすことがある)、嘔吐と脱水症状(胃の内容物が体外に出ることで、頻繁かつ大量の嘔吐が発生し、脱水症状を引き起こすことがある)、外観的な膨満感(外から見て明らかに腹が膨らんでいることがある)などです。

原因は、主に2つに分けられます。器官的疾患(胃がんや胃潰瘍瘢痕など、胃自体の器官的な問題が原因となることがある)と機能的な疾患(副交感神経の異常や糖尿病性神経症など、胃の蠕動運動が低下することで胃拡張が生じることがある)です。 治療は、原因に応じて行われます。内容物の除去(内視鏡や鼻からチューブを挿入して胃内容物を吸引することがある)や点滴療法(脱水症状がある場合は、点滴で水分と電解質を補給する)、手術(胃破裂や腹膜炎の場合には緊急手術が必要になることがある)です。 胃拡張の際には、消化によい食事を心がけることが重要です。例えば、消化のよい食事(うどん、粥、豆腐、プリン、ゼリーなどを中心に摂取する)や脂っこいものや硬いものを避けるべきです。胃拡張は単なる食べ過ぎとは異なり、深刻な健康問題を引き起こす可能性があります。症状が続く場合は、早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが重要です。

胃拡張の原因

胃が異常に拡大する状態で、食べ物が十二指腸に移動しないことによって生じます。この状態の原因は、主に器官的疾患と機能的な疾患に分けられます。

器官的疾患

器官的疾患は、胃自体の物理的な問題が原因で、胃拡張を引き起こします。代表的なものには以下のようなものがあります。

胃がん

胃がんは胃の蠕動運動を妨げ、食べ物が十二指腸に移動しない状態を引き起こすことがあります。

胃潰瘍瘢痕

胃潰瘍が治癒した後に残る瘢痕が、胃の出口を狭めることがあります。これにより、食べ物が十二指腸に移動できず、胃拡張が生じます。

機能的な疾患

機能的な疾患は、胃の蠕動運動が低下することで胃拡張が生じます。主な原因には以下のようなものがあります。

副交感神経の異常

副交感神経が正常に機能しないと、胃の蠕動運動が低下し、食べ物が十二指腸に移動しなくなります。

ストレスや生活習慣の乱れ

ストレスや生活習慣の乱れが副交感神経に悪影響を与え、胃の蠕動運動を低下させることがあります。

その他の要因

胃拡張を引き起こすその他の要因には、胃の手術による神経損傷や、外傷による胃の炎症などがあります。これらは胃の蠕動運動を妨げ、胃拡張を引き起こす可能性があります。

胃拡張の前兆や初期症状について

胃拡張の前兆として、食欲不振(胃の蠕動運動が低下することで、食欲が減退することがある)やストレス、生活習慣の乱れ(メンタル的なストレスや生活習慣の乱れが副交感神経に悪影響を与え、胃の蠕動運動を低下させることがある)が挙げられます。また、初期症状には、上腹部の張り(胃が異常に拡大し、上腹部が張る感覚を感じる)や腹痛(拡大した胃によって内臓が圧迫され、腹痛を引き起こすことがある)、呼吸困難(胃が肺を圧迫することで呼吸が困難になることがある)、嘔吐(食べた分だけ頻繁かつ大量に嘔吐することがあり、嘔吐物には以前食べた物が含まれることがある)、脱水症状(繰り返し嘔吐することで体内の水分が奪われ、脱水症状を引き起こすことがある)などが認められます。

胃拡張の病院探し

消化器内科や一般内科の診療科がある病院やクリニックを受診していただきます。

胃拡張の検査・診断

画像検査、血液検査、内視鏡検査を組み合わせた多角的アプローチが用いられます。 

画像検査

X線検査

立位での腹部単純X線が第一選択です。特徴的な胃泡の水平ニボーや胃壁の拡張状態を確認し、胃拡張指数(椎体中心から左横隔膜角までの距離と胃泡最大幅の比)を算出します。この指数が51%以上の場合、治療介入が必要と判断されます。

超音波検査

非侵襲的に胃壁の厚さや蠕動運動の低下を評価します。特に緊急性が高い症例で迅速な評価に有用です。

CT検査

胃の3次元的な拡張度合いや隣接臓器への圧迫を詳細に評価します。胃壊死や穿孔の有無を確認する際に必須です。

血液検査

炎症反応(CRPや白血球数で感染・炎症の程度を測定)や脱水指標(ヘマトクリット値やBUN/Cr比から脱水重症度を判断)、電解質異常(低カリウム血症や代謝性アルカローシスを検出)などを確認します。

内視鏡検査

直接的な胃内観察により内容物の性状や排出障害の原因(腫瘍・潰瘍瘢痕)を特定します。ただし検査時に空気を送り込むため、拡張を悪化させるリスクがあり、吸引チューブを併用した慎重な操作が必要です。 検査を組み合わせることで、単なる機能性拡張と器質的疾患を鑑別し、適切な治療方針を決定します。特に術後患者さんでは胃拡張指数が治療介入の有用な指標となります。

胃拡張の治療

基礎疾患の特定と緊急度の評価に基づき、保存的治療から外科的介入まで段階的に進められます。胃拡張指数(椎体中心から左横隔膜角までの距離/胃泡最大幅)が51%を超える場合、積極的な介入が必要とされます。画像所見で門脈ガス血症や腸管気腫症を認めても、腹膜炎兆候がなければ保存的治療が優先されます。

保存的治療

経鼻胃管(NGT)吸引が第一選択です。胃内圧の解除により症状緩解率は89%に達し2)、特に機能性拡張や術後イレウスに有効です。脱水や電解質異常には輸液療法を併用し、低カリウム血症や代謝性アルカローシスの補正が必須です。再発予防のため、食後の体位調整(左側臥位)や生活習慣改善(早食い・過食の禁止)が指導されます。

外科的介入

胃が急激に拡大し、内圧が上昇する場合、特に胃壊死や穿孔のリスクがある場合に緊急手術が必要です。手術では胃内容物の吸引や胃瘻の造設が行われることがあります。また、胃の出口が狭窄している場合、内視鏡的バルーン拡張術や外科的手術が適応されます。胃拡張がほかの疾患(例:食道癌)と関連している場合、その疾患の治療の一環として手術が行われることがあります。

胃拡張になりやすい人・予防の方法

発症リスクは、解剖学的要因生活習慣に大別されます。リスク要因としては、体型的特徴(胸郭が深く腹部が狭い体型では、胃の可動域が大きくなり拡張リスクが上昇します。これは胃の固定性が低下するため)があります。また、加齢に伴う胃支持靭帯の弛緩が胃の不安定性を増大させます。 予防には、まず食事管理が挙げられます。分割して摂取する、つまり1日4回以上の少量食で胃容量負荷を軽減することです。また、早食いを防止したり、専用食器で摂取時間を15分以上に延長したりなども挙げられます。 生活習慣の改善も有効です。食後2時間は激しい運動を回避(胃内圧上昇防止)したり、ストレス管理で副交感神経機能を維持するなども大切です。

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