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難治性下痢症
和田 蔵人

監修医師
和田 蔵人(わだ内科・胃と腸クリニック)

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佐賀大学医学部卒業。南海医療センター消化器内科部長、大分市医師会立アルメイダ病院内視鏡センター長兼消化器内科部長などを歴任後の2023年、大分県大分市に「わだ内科・胃と腸クリニック」開業。地域医療に従事しながら、医療関連の記事の執筆や監修などを行なっている。医学博士。日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本肝臓学会肝臓専門医、日本医師会認定産業医の資格を有する。

難治性下痢症の概要

難治性下痢症とは、通常の治療では改善しにくく長期間続く下痢のことです。 多くの下痢は数日から1週間ほどで治る急性下痢ですが、2〜4週間以上持続する場合は慢性下痢と呼ばれます。慢性下痢が見られるときは何らかの病気が背景にある可能性が高く、水分や電解質の損失による脱水症や栄養不良にも注意が必要です。特に、乳幼児や高齢者では脱水が急速に進みやすいため、下痢が長引く場合は早めの対処が重要です。難治性下痢症は、下痢の直接的な原因が特定できなかったり、特定できても複数の要因が絡んでいたりするケースがあるため、治療が難航することがあります。

難治性下痢症の原因

難治性下痢症を引き起こす原因は一つではなく、さまざまな要因が関与します。主な原因として、感染症や腸の病気、食事や体質、薬の副作用などが挙げられます。

感染症

細菌やウイルス、寄生虫による腸の感染が長引くと、下痢が慢性化することがあります。例として、ジアルジアなどの寄生虫感染や、抗菌薬の使用後に起こるクロストリジオイデス・ディフィシル腸炎が挙げられます。

腸の病気

腸そのものに問題がある場合も下痢の原因になります。代表的なのは、炎症性腸疾患(IBD)で、潰瘍性大腸炎やクローン病のように腸に慢性的な炎症が起こり下痢や血便を繰り返します。また、過敏性腸症候群(IBS)も原因の一つです。IBSはストレスなどで腸の働きが乱れる機能性疾患で、下痢と便秘を繰り返すなどの症状がみられます。その他、小腸で栄養をうまく吸収できない吸収不良でも長引く下痢が起こりえます。

食事や体質

特定の食品に対する不耐症やアレルギーが原因となることがあります。例えば、牛乳に含まれる乳糖を消化できない乳糖不耐症では乳製品摂取後に水っぽい下痢が生じます。また、食物アレルギーでは特定の食べ物に対する免疫反応で腸に炎症が起こり下痢が続くことがあります。

薬の副作用

薬剤によっては長期使用で下痢が続く場合があります。特に抗菌薬は腸内細菌のバランスを崩して下痢を起こしやすく、一部の糖尿病治療薬や制酸薬なども慢性的な下痢の原因となりえます。また、市販の下痢止め薬を自己判断で長期間使用することで、かえって症状を長引かせてしまうこともあります。特に感染性の下痢が背景にある場合は、下痢を止めることで体内の毒素が排出されず、悪化するリスクがあるため注意が必要です。市販薬を使っても改善しない場合は早めに医療機関を受診しましょう。 なお、検査を行っても原因が特定できない場合には、特発性難治性下痢症(原因不明の下痢)と診断されることもあります。その場合でも対症療法を続けながら経過を慎重に観察します。

難治性下痢症の前兆や初期症状について

初期には普通の下痢と区別が難しいですが、次のような症状に注意が必要です。

  • 下痢が長引く
  • 下痢便に血液や膿が混じる
  • 発熱・激しい腹痛
  • 脱水症状(強い口渇、めまい、尿量減少)

これらの症状があるときや下痢が続くときは、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。大人であればまず内科(消化器内科)に相談し、子どもの場合は小児科を受診してください。特に血便や発熱を伴う場合や、3日以上下痢が止まらない場合は早めの受診がよいでしょう。

難治性下痢症の検査・診断

難治性下痢症の原因を突き止めるため、医療機関では以下のような検査が行われます。

便検査

便を検査して細菌や寄生虫などの感染症の有無を確認します。また、便に血液や白血球が含まれていないか調べます。

血液検査

脱水による電解質異常の有無や炎症反応、貧血の有無などを確認します。必要に応じて甲状腺機能など全身的な項目も調べます。

内視鏡検査

大腸の中を観察する下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)や、胃や十二指腸を見る上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を行うことがあります。潰瘍性大腸炎やポリープなど、直接粘膜を観察して診断するために有用です。検査中に組織の一部を採取して詳しく調べる病理検査も併せて行います。

その他の検査

必要に応じて腹部の超音波検査やCT検査を行い、膵臓や腸の構造的な異常を調べます。乳糖不耐症が疑われる場合は呼気試験で診断することもあります。 これらの検査結果を総合して診断し、原因となる疾患を特定します。明らかな異常が見つからない場合は、機能性の下痢と判断されることもあります。

難治性下痢症の治療

治療の基本は、脱水を防ぐことと原因への対処です。まずは失われた水分や塩分を補うため、経口補水液などでこまめに水分補給を行います。吐き気が強い場合や重度の脱水時には点滴による補液が必要です。

次に、判明した原因疾患に応じた治療を行います。感染症が原因であれば原因菌や寄生虫に有効な薬(抗菌薬や駆虫薬)を用いて治療します。腸の炎症疾患の場合は、抗炎症薬や免疫抑制薬などで炎症を抑えます。食物不耐症やアレルギーが原因なら、問題となる食品の除去や食事療法を徹底します。薬の副作用が原因の場合は、医師が代替薬への変更や減薬を検討します。

症状に対する対症療法も組み合わせます。整腸剤や乳酸菌製剤で腸内環境を整えたり、必要に応じて一時的に下痢止め薬を使用することもあります。ただし、市販の下痢止めは感染症の初期には使用を控えるなど注意が必要です。特に、重い難治性下痢症では、入院して静脈点滴で栄養補給を行いつつ腸を休める治療が行われることもあります。

難治性下痢症になりやすい人・予防の方法

慢性的な下痢になりやすい方として、炎症性腸疾患や過敏性腸症候群など腸の持病がある方、乳糖不耐症など特定の食物を消化しにくい体質の方、そして免疫力が低下している方が挙げられます。こうした方は下痢が長引きやすいので一層の注意が必要です。

難治性下痢症を防ぐには、日頃から腸の健康管理と生活習慣の改善を心がけましょう。 感染予防のため手洗いを徹底し、不衛生な水や加熱不足の食品は避けます。食事面では暴飲暴食や過度のアルコールや脂肪分を控え、胃腸に優しいバランスのよい食生活を心がけます。人工甘味料の大量摂取や身体の冷えも下痢を誘発することがあるため注意しましょう。

また、ストレスは腸の働きを乱しますので、適度な休養と睡眠で自律神経を整えることも大切です。さらに、予防接種や適切な医療管理も有効です。乳幼児へのロタウイルスワクチン接種は重症のウイルス性下痢を予防し、持病のある方は定期受診や早めの治療介入で下痢の慢性化を防げます。

普段から腸に負担をかけない生活を送り、下痢が続くときは我慢せず早めに医師に相談することが、難治性下痢症の予防と早期対処につながります。

また、家庭や職場・学校などで下痢が流行している場合は、タオルやトイレの共用を避け、こまめに手指消毒を行うことが感染予防につながります。また、小児や高齢者など体力の低い方がいる家庭では、家庭内での嘔吐や下痢時には使い捨て手袋やマスクを使い、汚物処理に十分注意しましょう。

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