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カンジダ性食道炎
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

カンジダ性食道炎の概要

カンジダ性食道炎は、カンジダ属という真菌が食道で異常に増殖することによって起こる感染症です。カンジダはもともと人の体内に常在する真菌ですが、免疫力が低下した状態では病原性を示しやすくなります。特にHIV感染症やがんの化学療法、ステロイド治療中の人などに発症しやすく、HIVに関連するAIDS指標疾患の一つとしても知られています。主な症状には嚥下時の痛みや飲み込みにくさがあり、口腔内に白苔が見られることもあります。診断には内視鏡による観察が有効で、白いプラーク状の病変が確認されれば、病理検査により確定診断がなされます。治療の中心は抗真菌薬で、第一選択はフルコナゾールです。予防としては基礎疾患のコントロールや、特にHIV感染患者では治療の継続が重要です。自覚症状が軽微であっても、早めの医療機関受診が推奨されます。

カンジダ性食道炎の原因

カンジダ性食道炎は、真菌の一種であるカンジダ属によって引き起こされる食道の感染症です。カンジダは健康な人の皮膚や消化管にも常在していますが、免疫力が低下した際に病原性を発揮することがあり、食道で異常にカンジダが増殖して悪さをするようになった状態がカンジダ性食道炎です。

免疫力低下のほかには抗菌薬の長期使用もカンジダ食道炎の原因になります。抗菌薬が体内の細菌のバランスを崩してしまうことによって、通常は他の菌によって抑制されていたカンジダが異常に増殖しやすくなります。

カンジダ性食道炎の前兆や初期症状について

嚥下時の痛みや飲み込みにくさが主な初期症状です (参考文献 1, 2) 。痛みは胸骨の裏側あたりに感じることが多いです。 加えて、口腔内に白苔 (白い苔状の付着物) が見られる「口腔カンジダ症」を併発していることもあります (参考文献 1) 。また、症状が特にないにもかかわらず、内視鏡をはじめとした検査所見からカンジダ性食道炎と診断されるケースもあります (参考文献 1) 。

後述するようにカンジダ性食道炎の一番のリスクはHIV感染です。HIVが免疫機能を低下させることによって引き起こされる病気を AIDS (エイズ) とよびますが、カンジダ性食道炎はAIDS指標疾患の一つです。HIV感染とAIDS指標疾患の発症をもって AIDS と診断されますが、 指標疾患の発症がわかって初めてHIV感染に気づかれることもあります。

後述するようなリスク因子が該当しない人でも、気づかない間に免疫抑制状態に陥っていることもあります。飲み込みづらさの症状はカンジダ性食道炎以外の疾患でも出てくる症状です。逆流性食道炎や食道がんの初期症状とも重なりますし、AIDS 指標疾患のなかではサイトメガロウイルスでも似たような症状が出ます (参考文献 1) 。 症状を放置せずに内視鏡検査 (胃カメラ) ができる近くの医療機関を受診してください。

カンジダ性食道炎の検査・診断

診断の第一歩は臨床症状と既往歴の把握です。免疫抑制状態にある患者で嚥下痛や嚥下困難があれば、本疾患が強く疑われます。診断を確定するためには、上部消化管内視鏡による直接観察が有効です。内視鏡では白色のプラーク状病変が食道粘膜に付着しているのが特徴的です。病変部から採取した生検組織を顕微鏡で確認することにより、真菌の存在を確認できます。

免疫不全患者に対しては、抗真菌薬に対する治療反応をもとに診断的治療を試みることがあります (参考文献 1, 2) 。カンジダ症であれば数日以内に症状が改善しますが、症状が改善しない場合は他の原因により症状が出ていることを疑います。

カンジダ性食道炎の治療

治療の基本は抗真菌薬の投与です。第一選択薬はフルコナゾールで、経口投与が可能な患者であれば内服で、内服が難しければ点滴で抗真菌薬を投与します (参考文献 1) 。 フルコナゾールに対して耐性のあるカンジダ性食道炎があることが知られています。その場合にはフルコナゾールの投与量を増やすか、投与する抗真菌薬の種類を変えることで対応します (参考文献 1) 。

妊娠中の患者にはフルコナゾールが使えないため、アムホテリシンBが第一選択になります (参考文献 1) 。

カンジダ性食道炎になりやすい人・予防の方法

発症しやすいのは免疫機能が低下している人、特にHIV感染症で免疫機能が高度に低下している患者です (参考文献 1) 。HIVのほかにも白血病やリンパ腫をはじめとする「血液のがん」、造血幹細胞移植後の患者、がん化学療法中の患者、様々な疾患の治療のために免疫抑制療法を受けている患者に発症リスクがあります (参考文献 1, 2) 。

HIV感染症の免疫機能の指標のひとつに「CD4陽性リンパ球数」がありますが、この値が100/ μL を下回ってくると特に発症リスクが高くなります (参考文献 1) 。 HIVに対しては治療法が発展してきており、多剤併用両方により免疫機能を保つことができるようになってきています。したがってHIVの治療薬を忘れずに医師の処方通りに飲み続けることが、最も重要かつ有効なカンジダ性食道炎の予防策になります。

参考文献

  • 1. Kauffman CA et al. Esophageal candidiasis in adults. UpToDate. Feb 23, 2024.
  • 2. Campbell JR et al. Candida infections in children. UpToDate. May 01, 2025.

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