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佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

乳児痔瘻の概要

乳児痔瘻とは、肛門の周囲にできる瘻管(ろうかん)というトンネル状の通路が、直腸や肛門内と皮膚をつなぐ状態を指します。乳児期の男児に多く、肛門周囲膿瘍(のうよう)と呼ばれる化膿性の炎症を伴うことが一般的です。発症率はおおよそ0.5〜4.3%とされており、極めて一般的な疾患ですが、成人とは異なり自然に軽快するケースも多くあります。

この疾患は、乳児とそれ以外の年齢層では発症機序や治療方針が大きく異なります。特に乳児では、外科的処置を行わず経過観察によって自然治癒することが多く、適切な対応が重要です。一方で、まれに炎症性腸疾患や免疫不全など重篤な基礎疾患が関与することもあるため、慎重な診断が求められます。

乳児痔瘻の原因

乳児痔瘻の原因は完全には解明されていませんが、いくつかの仮説が提唱されています。主に、肛門直腸部に存在するモルガニー腺(肛門陰窩)の先天的な異常が原因であると考えられています。これらの腺が異常に深く形成されると、分泌物の排出が妨げられ、膿瘍が生じやすくなります。膿瘍が皮膚表面に自然排膿すると、持続的な通路(瘻管)が形成されて痔瘻となります。

一方で、痔瘻が先に存在し、それに伴う感染により膿瘍が形成されるという説もあります。実際、2歳未満の乳児において瘻管内に上皮組織が観察されることがあり、先天的に瘻管が存在する可能性も示唆されています。また、ホルモン(アンドロゲン)の影響や感染した裂肛の関与も報告されていますが、いずれも確証を得たものではありません。

乳児痔瘻の前兆や初期症状について

初期には肛門の周囲に赤みや腫れが見られ、軽い痛みや不機嫌、微熱などの症状を呈します。膿瘍が形成されると、皮膚の一部が膨らみ、触れるとやわらかく、圧痛や発赤を伴います。自然に破れて膿が排出されることもあります。

その後、皮膚に小さな開口部が残り、そこから周期的に膿が出るようになると、痔瘻と診断されます。このような慢性的な状態は数週間から数ヶ月続くことがあり、患児の保護者が排膿の繰り返しに気づくことで発見されることが多いです。

乳児痔瘻の検査・診断

診断は主に視診と触診によって行われます。赤み、腫れ、排膿口の有無、しこりの触知などが診断の根拠になります。通常、超音波やMRIなどの画像検査は必要ありませんが、重症例や複雑な経過をたどる場合には用いられることがあります。

また、他の疾患との鑑別も重要です。特に炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)、ヒルシュスプルング病術後の合併症、免疫不全疾患(白血病、HIVなど)などは、鑑別診断として念頭に置く必要があります。

乳児痔瘻の治療

乳児における痔瘻は、ほとんどの場合で自然軽快するため、まずは保存的治療が第一選択とされています。保存的治療には、座浴(温浴)や清潔保持、必要に応じた抗菌薬の内服などが含まれます。近年では、成長因子スプレーや漢方薬(人参養栄湯など)の使用も報告されています。

一方で、再発を繰り返す場合や瘻管が複雑で自然閉鎖が見込めない場合には、外科的治療が選択されます。外科的治療には瘻管を切開して開放する瘻管切開術(フィスチュロトミー)や、瘻管を完全に切除する瘻管切除術(フィステレクトミー)、場合によってはセトン(医療用糸)を使用した治療が行われます。

特に乳児では、瘻管切開術の再発率が比較的高い一方で合併症は少ないという報告があり、瘻管切除術は複雑な痔瘻や再発例に限定して行うべきとされています。

乳児痔瘻になりやすい人・予防の方法

乳児痔瘻は圧倒的に男児に多く、全体の90%以上を占めます。年齢としては、生後数ヶ月から1歳までの間に多く見られます。再発性や難治性の場合には、免疫機能の異常や消化管の基礎疾患がないか確認が必要です。

予防方法は確立されていませんが、日頃から肛門周囲を清潔に保つことが基本です。おむつの交換をこまめに行い、排便後はしっかり洗浄・乾燥させることが推奨されます。炎症の兆候が見られた場合は早期に小児科または小児外科を受診し、適切な対応を受けることが重症化を防ぐ鍵となります。

参考文献

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