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肛門部ボーエン病
長田 和義

監修医師
長田 和義(医師)

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2012年、長崎大学医学部卒業。消化器内科医として、複数の総合病院で胆膵疾患を中心に診療経験を積む。現在は、排泄障害、肛門疾患の診療にも従事。診療科目は消化器内科、肛門科。医学博士、日本内科学会認定内科医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。

肛門部ボーエン病の概要

ボーエン病(Bowen病)は、皮膚の表皮内にとどまる早期の皮膚がん(表皮内がん)の一種です。皮膚の有棘細胞という細胞から発生したがんであり、正常な皮膚との境界が明瞭な(はっきりしている)、不正形の扁平隆起性の局面を呈することが特徴といわれています。 紅色、常色、褐色、灰色などの多様な色調が入り混じることが多いとされています。

ボーエン病は全身の皮膚に生じる可能性があり、一般的には頭頚部に多く、体幹や上下肢にも発生します。肛門部に発生する頻度は0.2%程度とまれですが、発見と診断が遅れやすい可能性があります。年齢は、50歳以降の中高年者に多いとされています。

ボーエン病は、進行すると浸潤がん(ボーエンがん)へ移行する可能性があるため、早期の発見と治療が重要です。一般的には、皮膚の赤み、かゆみ、ただれなどが初期症状として現れることが多く、慢性的に続く皮膚の異常には注意が必要です。 この疾患が肛門周囲に発生した場合に、肛門部ボーエン病とよばれます。肛門部のボーエン病は、その他の部位と異なりHPV感染による可能性が高く、男性同性愛者やAIDS患者さんなどにおいて若年でも発生する可能性があります。

肛門部ボーエン病の原因

肛門部を含むボーエン病の原因は、完全には解明されていません。 ボーエン病の発生に、子宮頸がんなどの原因でもあるヒトパピローマウイルス(HPV)が関連していることが報告されています。HPVには複数の種類があり、特にHPV16型HPV18型など、高リスク型HPV感染が関係しているとされています。これらのHPVが肛門周囲の皮膚に感染すると、異常な細胞増殖を引き起こすことがあり、ボーエン病の原因になると考えられます。

肛門部や性器など陰部へのHPV感染は性感染症である可能性が高く、肛門部のボーエン病は男性同性愛者やAIDS患者さんに多いとされています。この場合、その他のボーエン病よりも若年で発症する可能性もあります。 露出部のボーエン病の場合は紫外線の関与が報告されていますが、肛門部についてはその影響は考えにくいです。

また、多発性のボーエン病ではヒ素摂取が原因である可能性があります。日本ではヒ素を含む殺虫剤や農薬は禁止されていますが、国によっては使用されている可能性がありますので、育った国や環境についての情報が重要です。

肛門部ボーエン病の前兆や初期症状について

初期症状

初期症状は軽度であるため、痔や皮膚炎と誤認されることが少なくありません。以下のような肛門周囲の症状が慢性的にみられる場合、注意が必要です。

  • 赤み・ざらつき・ただれ
  • 軽いかゆみ・違和感・痛み
  • 腫瘤(しこり)

進行した場合の症状

適切な診断と治療が遅れて放置された場合、病変が拡大して次のような症状が現れることがあります。

  • 患部の持続的なただれ・潰瘍
  • 出血や浸出液
  • 色の変化(紅色、常色、褐色、灰色など)

ボーエン病は浸潤がんに進行する可能性があるため、肛門部の皮膚に慢性的な異常を感じている場合、早めの受診が必要です。

受診すべき診療科目

一般的な内科や外科では、診断やその後の治療が難しい可能性があります。肛門科(肛門外科)、または皮膚科の受診をおすすめします。

肛門部ボーエン病の検査・診断

肛門部ボーエン病の検査、診断は以下の通りです。

診察

まずは病変の大きさ、色、形などの肉眼的な特徴を観察したり、触診で硬さなどの感触を確認します。ほかの肛門部、あるいは皮膚疾患との鑑別(区別)、およびその後の検査や治療について検討します。

皮膚生検

ボーエン病を含む皮膚疾患の疑わしい部位について、皮膚組織を採取します。通常は局所麻酔をした後、メスや皮膚を打ち抜くように生検する専用の器具で、組織を採取します。採取した組織を、顕微鏡で病理専門の医師が評価します。病理学的な評価により、ボーエン病の確定診断が得られます。 ボーエン病との鑑別を要する疾患として、慢性湿疹、乾癬(かんせん)、日光角化症、乳房外Paget病、表在型基底細胞がんなどが挙げられます。

HPV検査

肛門部ボーエン病はHPV感染との関連が報告されています。肛門部ボーエン病を認めた場合には、組織や細胞からHPVのDNAを検出する検査や、HPVのタイプを調べる検査(ジェノタイプ検査)を実施することがあります。

画像検査

皮膚の深部まで浸潤している可能性がある場合、造影CTやMRIで浸潤の有無やリンパ節転移の有無などを評価します。

肛門部ボーエン病の治療

肛門部ボーエン病の治療は以下となります。

外科的切除

第一に考えられる治療法は、病変部の外科的切除です。ボーエン病は表皮内がんの状態であり、病変を完全に取り除くことで完治が期待できます。

モーズ手術(Mohs手術)

病変の広がりが不明確な場合など、腫瘍を切除しながら、術中迅速病理診断で腫瘍の残存がないか確認するモーズ手術が行われることがあります。迅速診断で腫瘍の残存を認める場合は、追加で切除を行うということを繰り返します。しかし、この方法は複雑で時間と人手も要することから、日本では広く普及していないとされています。

その他の局所療法

ボーエン病に対する局所治療には、以下のものが挙げられます。ただし、病理学的に根治を得られたかどうかの評価ができないため、注意を要します。

  • 冷凍療法(液体窒素による凍結治療)
  • 光線力学療法(PDT)(特定の薬剤と光を用いた治療)
  • 外用薬(ブレオマイシン硫酸塩製剤、フルオウラシル軟膏)

肛門部ボーエン病になりやすい人・予防の方法

以下の条件にあてはまる方は、肛門部ボーエン病の発症リスクと考えられます。

  • 陰部へのHPV感染(特に高リスク型HPV)
  • 免疫抑制状態にある方(AIDS患者さん、免疫抑制剤使用者など)
  • 慢性的な肛門の炎症や刺激がある方

通常、肛門部ボーエン病を予防する動機で何か対策を取ることは考えにくいですが、陰部へのHPV感染を予防することは、その他のHPV関連疾患(子宮頸がん、陰茎がんなど)を予防する目的でも重要です。HPVワクチン接種や、性交渉の際に避妊具を装着することが推奨されます。

関連する病気

  • 肛門部皮膚癌
  • 扁平上皮癌
  • 白斑

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