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胃内異物
高宮 新之介

監修医師
高宮 新之介(医師)

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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。

胃内異物の概要

胃内異物とは、本来食べ物ではない物が誤って胃の中に入ってしまった状態を指します。 硬貨やおもちゃの部品など、食べられない物を飲み込んでしまい、それが胃に留まっている状況です。医療では誤飲(ごいん)という言葉を使いますが、これは食道や胃など消化管に異物が入った場合を指し、気管や肺に異物が入る誤嚥(ごえん)とは区別されます。

異物を飲み込んだ対象は小児(特に乳幼児)に多く、高齢者にもよく見られます。幼児が小さなおもちゃやボタン電池、硬貨を飲み込んだり、認知症の高齢者が入れ歯や薬の包装シート(PTPシート)を飲み込んだりする例があります。通常、こうした異物は消化できないため、自然に排泄されるか、何らかの処置で除去しない限り体内に留まります。

胃内異物の原因

胃内異物の原因の大半は、誤って物を飲み込む事故です。主な状況を以下に挙げます。

乳幼児・小児の場合

子どもは発達段階で興味を持ったものを口に入れるため、親が見ていない隙に小さな物を飲み込んでしまいます。特に硬貨ボタン電池小さな玩具部品磁石水で膨らむビーズなどは注意が必要です。

高齢者の場合

大人でも不注意や偶発的に異物を飲み込むことがあります。特に高齢者では飲み込む力や感覚が衰え、入れ歯や義歯の一部を飲み込んだり、薬のPTPシートを誤飲する事故が起こりえます。 飲酒時や急いで食事をしているときに、魚や鶏の骨、爪楊枝などを誤って飲み込んでしまうこともあります(魚骨や鶏骨は特に日本では頻度の高い誤飲物です)。また、認知症や知的障害のある方では食べ物でない物を口に入れてしまうことがあります。

医療処置に伴うもの(まれ)

医療処置中にガーゼや器具などが誤って体内に残留する事故がまれに起きることがあります。

胃内異物の前兆や初期症状について

胃内異物の症状は、異物の場所や大きさによって異なります。

喉や食道に引っかかっている場合は、喉や胸の違和感、痛み、よだれが増える、飲み込みにくさ(嚥下困難)などが現れます。特にコインや骨が食道に引っかかった場合は痛みや詰まり感が強く、胸部の不快感として訴えることが多いです。 異物が胃に達した場合は、初期には症状がほとんどないことが多いです。しかし異物が大きかったり鋭利であったりすると、吐き気や腹痛が現れることがあります。乳幼児では泣く、ミルクを嫌がるなどの行動が症状のヒントになることもあります。 異物が消化管をふさいだり(腸閉塞)、壁に穴を開ける(穿孔)場合激しい腹痛、嘔吐、腹部膨満、吐血、黒色便などの症状が見られ、緊急対応が必要です。

どの診療科を受診すべきかは状況によりますが、基本的には早めに医療機関で相談することが望ましいです。誤飲が疑われる場合、消化器内科や小児科が専門ですが、時間帯や症状の程度によっては救急外来を受診する方がよいでしょう。

特にボタン電池や複数の磁石など危険な異物を飲み込んだ可能性があるときや、強い症状があるときは救急車の利用も含めて早急に受診してください。自己判断で無理に吐かせようとすると、異物によってはかえって危険な場合もあります(鋭い物で粘膜を傷つけたり、電池の液漏れで障害が悪化する恐れがあります)。 基本的には医師の判断を仰ぐまで安静にし、水や食べ物を無理に飲ませないようにしましょう。

胃内異物の検査・診断

医療機関では以下の方法で検査や診断が行われます。

問診・視診

何を、いつ飲み込んだかの情報を確認します。異物の材質、大きさ、飲み込んだ時刻などが重要です。お子さんの場合は保護者から、「〇〇が手元から消えて見当たらない」「誤飲防止用に置いていたボタン電池がなくなっている」などの情報が診断の手がかりになります。本人が異物を飲み込んだことを自覚している場合は、異物の大きさ・材質・形状をできるだけ詳しく伝えてください。

X線検査(レントゲン)

硬貨やボタン電池など金属製の物はX線で確認できます。異物の位置を大まかに把握するために使われます。

CT検査

CT検査では異物の詳細な位置や、消化管の損傷状況をより精密に評価できます。重篤な合併症が疑われる場合に有効です。

内視鏡検査(胃カメラ)

胃内を直接観察でき、検査と治療(異物摘出)を同時に行えます。小児の場合は全身麻酔が必要になることがあります。

胃内異物の治療

異物の種類や大きさ、位置により治療法が異なります。

経過観察(自然排出を待つ)

多くの異物は自然に便とともに排出されます。鋭利でなく小さい異物であれば数日で自然に出ることが多く、排泄を確認しながら経過を見ます。

内視鏡による異物除去

自然排出が難しい物は内視鏡で早期に摘出します。例えば長さ5cm以上の細長い物(ヘアピン、ペンチップなど)や縫い針・画鋲など鋭利な異物は、放置すると腸閉塞や穿孔の危険が高いため積極的に内視鏡摘出が検討されます。また、ボタン電池や2個以上の磁石、さらにはPTP薬剤シートや吸水性樹脂(ビーズ)などを飲み込んだ場合は、たとえ胃の中に留まっている段階でもできるだけ早く内視鏡での回収が推奨されます。

ボタン電池は短時間で周囲の組織を傷め潰瘍や穿孔を起こすため胃内にあっても基本的に緊急対応です。磁石は複数個が体内で互いに引き合うと消化管壁を挟み込んで穿孔する危険があるため、複数磁石を飲んだ場合も緊急摘出が必要です。 内視鏡による処置は、口から器具を入れて摘出するため身体への負担が小さく、多くの場合は短時間の処置で済みます。ただし、小児では全身麻酔下での処置になることが多いため、入院が必要になるケースもあります。

外科手術(開腹・腹腔鏡)

内視鏡では取り出せない場合や重篤な合併症が生じた場合に実施しますが、全体の1%以下のまれなケースです。

胃内異物になりやすい人・予防の方法

胃内異物になりやすいのは幼児、高齢者、認知症の方です。予防方法として以下のようなことが重要です。

幼児・小児

胃内異物は圧倒的に1~3歳頃までの幼児に多く発生します。この年代は手に取ったものを何でも口に入れがちなため、周囲の大人が十分に注意しましょう。

予防策として、飲み込みそうな小さな物は子どもの手の届く範囲に置かないことが基本です。ボタン電池や磁石の付いた玩具、ビーズ状の物などは特に危険ですので、保管場所や玩具の対象年齢に気を配ってください。また、子どもが遊んでいる間は目を離さず誤飲しそうな行動をしないか見守ることも重要です。兄弟姉妹がいる場合は、年上の子のおもちゃ(例えばレゴブロックのような小片)を乳幼児が誤飲しないよう工夫しましょう。食事中であれば、魚や肉の小骨はあらかじめ取り除いてあげるといった配慮も有効です。

高齢者

高齢者では義歯の誤飲や薬の包装の誤飲が起こりやすくなります。義歯は外れにくい調整を歯科でしてもらい、就寝前には外す習慣を徹底しましょう。また、食事の際には入れ歯がずれていないか注意し、硬いものを噛むときは気をつけてください。

薬のPTPシートについては、服薬介助をする家族がいる場合はシートから錠剤を出してから渡すようにし、本人が自分で服用される場合でも明るい場所で確実にシートから外すよう促します。視力が低下している方には、大きめの文字で薬名を書いたケースに入れる、ピルケースを利用するなどして誤って包みごと飲み込まない工夫が必要です。万一PTPシートを飲み込むと消化管を鋭く傷つけて穿孔の危険があるため、発覚したらすぐ医療機関を受診します。

認知症や発達障害のある方

認知症の高齢者や知的発達障害のある子ども・成人では、周囲の人が思いもよらない物を口に入れてしまうことがあります。安全ピンやコイン、果ては土や植物などさまざまです。こうした方のケアでは、環境中に危険な異物を放置しないこと、日用品でも誤飲の恐れがあるもの(乾電池、画鋲、洗剤の小袋など)は視界に入れないことが大切です。

認知症の方では食事とそれ以外の区別がつかなくなる場合もあるため、食卓やベッド周りに食べ物以外の物を置かない工夫も予防につながります。

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