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病原性大腸菌食中毒
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

病原性大腸菌食中毒の概要

病原性大腸菌食中毒は、大腸菌という細菌が原因で起こる食中毒です。大腸菌は、私たちや動物の腸の中にもたくさん存在しており、その多くは無害です。しかし、中には病気を引き起こす「病原性大腸菌」があり、これが食品に混ざって体に入ると、下痢や腹痛などの症状を起こします。

病原性大腸菌は下痢原性大腸菌感染症とも呼ばれ、5種類が知られています。特に腸管出血性大腸菌は強い毒素を作り、命に関わる重い症状を引き起こすこともあるため、注意が必要です。予防のためには食肉類を扱う際の衛生管理や旅行中の飲水に気をつけることが重要となります。

病原性大腸菌食中毒の原因

大腸菌は家畜や人の腸内にも存在する細菌ですが、人の腸内で腸炎や食中毒を引き起こすものとして以下の5種類が知られています。

  • 腸管出血性大腸菌 (EHEC)
  • 腸管病原性大腸菌 (EPEC)
  • 腸管組織侵入性大腸菌 (EIEC)
  • 腸管毒素原性大腸菌 (ETEC)
  • 腸管凝集性大腸菌 (EAggEC)

 

これらの大腸菌は一般的に牛などの家畜の腸管内に存在し、糞便中の菌が牛肉やその加工品、井戸水などから広がります。そして、加熱が不十分な食肉やこれらの大腸菌が付着した生野菜・水・不衛生な調理器具や手指を介して感染し、食中毒を引き起こします。中でも腸管毒素原性大腸菌 (ETEC) は特に強い病原性を持ち、少ない菌量で感染が成立するため二次感染も起こります。

病原性大腸菌食中毒の前兆や初期症状について

病原性大腸菌はそれぞれ異なる病原因子をもっており、引き起こす症状も大きく異なります。

  • 腸管出血性大腸菌 (ETEC)
    腸管出血性大腸菌はベロ毒素と呼ばれる毒素を産生し、出血性大腸炎を起こします。多くの場合は感染から3〜8日ほど経ってから、激しい腹痛と水のような下痢を生じます。下痢を繰り返すうちに次第に血便になることもあります。重症化すると腎臓の障害(溶血性尿毒症症候群)や脳症などを起こし、特に乳幼児や高齢者は命に関わることがあります。

  • 腸管病原性大腸菌 (EPEC)
    腸管病原性大腸菌による食中毒は急性の胃腸炎症状が特徴的です。12〜72時間ほどの潜伏期間の後に下痢、腹痛、発熱、吐き気などが生じます。

  • 毒素原性大腸菌 (ETEC)
    毒素原性大腸菌は小腸に感染し、エンテロトキシンと呼ばれる毒素を産生します。12〜72時間ほどの潜伏期間の後に水様性の下痢と腹痛を生じます。吐き気を伴うこともありますが、腹痛は軽く、熱もあまり出ません。

  • 腸管侵入性大腸菌 (EIEC)
    腸管侵入性大腸菌は大腸の細胞に侵入して感染します。12〜48時間ほどの潜伏期間の後に、赤痢に似た症状が生じます。血の混じった便やしぶり腹(便意はあるのに少しずつしか出ない)などがみられることもあります。

  • 腸管凝集接着性大腸菌 (EAggEC)
    熱帯や亜熱帯でよく見られます。2週間以上続く長引く下痢が特徴的です。粘液の混じった水っぽい下痢や腹痛があり、吐き気は少ないです。

病原性大腸菌食中毒の検査・診断

病原性大腸菌かどうかは、便を検査して菌を調べます。菌の種類(O157など)や性質を特定することで、原因や治療方針がはっきりします。また、食べた物が残っている場合はその食品に付着している菌を調べることもあります。

ただし、検査には時間がかかることもあり、症状や食べた物の記録から医師が食中毒を疑って治療を始めることもあります。

病原性大腸菌食中毒の治療

治療は対症療法と抗菌薬が基本となります。特に毒素原性大腸菌による食中毒は脱水症状が強く、水分と塩分が失われるため、水や経口補水液を少しずつこまめに飲むことが重要です。重症の場合は点滴が必要となります。

病原性大腸菌食中毒になりやすい人・予防の方法

腸管病原性大腸菌、腸管侵入性大腸菌、毒素原性大腸菌、腸管凝集性大腸菌はいずれも開発途上国に多く見られ、乳幼児の胃腸炎の主な原因菌となっています。ただし腸管病原性大腸菌は成人においても発生し、日本でも毎年5〜10件の食中毒が発生しています。また、腸管侵入性大腸菌と毒素原性大腸菌は日本では海外渡航者に見られる旅行者下痢症としてみられることが多いです。毒素原性大腸菌は日本における病原性大腸菌による食中毒事例で最も多い原因でもあります。腸管凝集性大腸菌は比較的新しく発見された菌で、散発事例は見られますが食中毒や集団発生事例の報告はあまりありません。

腸管出血性大腸菌だけは特殊で、開発途上国か先進国かに関わらず、夏季を中心に北米や豪州、欧州でも集団発生例が報告されています。日本では給食や仕出し弁当が原因となった集団感染事例や、十分加熱されていない牛肉を食べたことによる食中毒の事例があります。

病原性大腸菌に対して承認されたワクチンはありません。しかし、以下のような衛生管理に努めることで予防することが勧められます。

  • 一般的な衛生管理
    ・食肉類は最後に購入し、帰宅後に直ちに冷蔵庫・冷凍庫で保管する
    ・生肉が他の食材と接触しないように保管容器や調理器具を使い分ける
    ・調理前後は良く手を洗う
    ・調理器具は洗浄し、熱湯などで消毒する

  • 加熱の徹底
    ・十分に加熱する(中心温度75℃で1分以上)
    ・冷凍そうざい半製品は表示された調理方法で適切に加熱する

  • 生野菜や果物の洗浄
    ・流水でよく洗う
    ・必要に応じて次亜塩素酸ナトリウムで消毒する(100ppmで10分浸漬)

  • 旅行中の飲食
    ・現地の水場ではなく、殺菌したミネラルウォーターを飲む

また、病原性大腸菌は感染症や食中毒を引き起こすため法律によって報告が義務付けられています。感染症法では感染性胃腸炎として5類感染症と定められており、特定の機関は週ごとに保健所に届け出ることになっています。ただし、腸管出血性大腸菌だけは3類感染症と定められているため、診断がついた場合に医師は直ちに保健所に届け出ることになっています。

また、もし食中毒が疑われる場合は24時間以内に最寄りの保健所に届け出ることが食品衛生法によって定められています。

参考文献

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