

監修医師:
高宮 新之介(医師)
プロフィールをもっと見る
昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。
目次 -INDEX-
消化管異物の概要
消化管異物とは、食道や胃など消化管内に飲み込まれた異物が留まった状態を指します。小児の誤飲から成人・高齢者の誤嚥、異物摂取癖のある方まで幅広い年齢でみられます。 多くの異物は自然に体外へ排出されますが、一部は食道や腸管に引っかかり、消化管閉塞や粘膜傷害など合併症を引き起こすことがあります。実際、胃まで到達した異物の 80~90% は自然排出され、10~20% が内視鏡などによる摘出治療を要し、外科手術が必要となるのは 1%以下 と報告されています。消化管異物の原因
消化管異物の原因は年齢層によって異なります。小児では好奇心や誤飲によるものが大半です。乳幼児は嚥下機能が未熟なため、食べ物でもブドウやピーナッツ、飴玉など小さく丸いものを誤って飲み込みやすく、喉や食道に詰まらせることがあります。また、小児は硬貨、ボタン電池、おもちゃの部品など食物ではない物も興味から口に入れて飲み込んでしまうことが多く、その一部は食道に引っかかります。特に食道に停滞したボタン電池は短時間で周囲組織を化学的に腐食させ、深い潰瘍や穿孔、気管との瘻孔形成(気管食道瘻)など重篤な障害を引き起こすため注意が必要です。 成人では、誤って飲み込んでしまうケースが主な原因です。義歯を装着している方や高齢者、酩酊状態の方では、食べ物を十分に咀嚼しないまま嚥下してしまい、大きな塊のままの食物や骨(特に魚骨)が食道に引っかかることがあります。高齢者で薬のPTPシート(薬剤の押し出し包装)を誤飲する事故が顕著で、異物の種類としてPTPシートが最も多く報告されています。PTP誤飲は視力や認知機能の低下した高齢者に起こりやすく、日本でも注意喚起がなされています。その他、入れ歯や義歯そのものが外れて飲み込まれる事故や、爪楊枝など日用品の誤飲も成人・高齢者でみられます。 一方で特殊なケースとして、精神疾患のある患者さんや受刑者が意図的に異物を反復して飲み込む例も報告されています。これは異物摂取癖とも言われ、金属片や複数の異物を故意に嚥下するため、消化管内に多数の異物が停滞・散在し深刻な合併症を起こす場合があります。 また、密輸目的で違法薬物を詰めた袋や風船を飲み込むボディパッキングと呼ばれるケースでは、腸閉塞や袋の破裂による薬物中毒など命に関わる事態を招くことがあります。消化管異物の前兆や初期症状について
食道に異物が留まっている場合、典型的なのは急激に物が飲み込みにくくなる症状(嚥下困難)です。特に食道を完全に塞ぐような異物があると唾液を飲み込めず、口から絶えず涎(よだれ)が垂れるようになります。その他、胸骨の後ろが何か詰まったように張った感じがする、飲み込むと強い痛みが走る、唾に血が混じる、吐き気や嘔吐、喉に引っかかった感じ、息苦しさなどが初期症状としてみられることがあります。 乳幼児や認知症の方では「飲み込んだ」という訴えができないため、食事を急に拒否したり激しくむせる、よだれが増える、繰り返し嘔吐するといった様子で気付く場合もあります。一方、異物が胃や腸まで進んだ場合は、すぐには症状が出ないことが多いです。消化管内を異物が順調に移動している限り無症状のこともあります。 腸のどこかに引っかかったり、消化管壁に突き刺さったりすると腹痛や吐き気が現れ、腸閉塞になれば腹部の膨満や嘔吐、穿孔すれば激しい腹痛と腹膜炎症状(お腹の板ばり硬さ、反跳痛など)を引き起こします。 消化管異物が疑われる状況では、早めに医療機関を受診することが大切です。小児であれば小児科や救急科、成人であれば消化器内科や救急外来など、速やかに診察・処置のできる病院を受診してください。喉や上部食道に引っかかった異物は耳鼻咽喉科で対処される場合もありますが、多くは内視鏡設備のある消化器科や救急科で対応します。消化管異物の検査・診断
診察では、まず異物を飲み込んだ経緯や物の種類について詳しく問診します。 画像検査としては、まずレントゲン検査(X線検査)が有用です。異物が金属や硬貨、電池などX線で写る素材の場合、その存在と位置、大きさや個数を確認できます。X線撮影は正面と側面など 2方向から撮影することが望ましく、異物そのものだけでなく縦隔や腹腔内のフリーエア(空気の漏れ)など穿孔のサインも評価します。ただし、魚の骨や薄いプラスチック、木片などはX線に写らないこともあるため、疑わしい場合にはほかの検査が必要です。 CTでは異物の描出はもちろん、縦隔気腫(縦隔内の空気)や消化管壁の穿孔、周囲臓器の炎症など重篤な所見も高い精度で評価できます。 内視鏡検査(胃カメラ)は診断と治療を兼ねた手段で、食道・胃・十二指腸までの上部消化管内に異物があれば直接確認して摘出できます。消化管異物の治療
基本的には内視鏡的治療が第一選択であり、可能な限り内視鏡で異物を取り除きます。内視鏡では鉗子(かんし)や網かご(バスケット)、スネア(輪紐)などの専用器具を使って異物をつかみ、口から安全に引き抜きます。食道や咽頭部の異物では耳鼻咽喉科による鉗子摘出や、全身麻酔下での硬性内視鏡による摘出が行われることもあります。 ボタン電池や鋭利な異物が食道にある場合や、異物で食道が完全閉塞して飲み物も通らないような場合は、できる限り2時間以内(遅くとも6時間以内)に緊急内視鏡で摘出することが推奨されています。ボタン電池が短時間で食道粘膜を損傷し穿孔しえること、針や画鋲など尖った物は時間経過とともに穿孔リスクが高まるためです。 一方、それ以外の食道内異物(例:鋭利でないコインや玩具片など)でも放置はできませんが、重篤な症状がなければ 24時間以内を目安に早期摘出がすすめられます。 胃や腸に達した異物については、異物の性質で対応が分かれます。消化管を傷つける恐れが少ない滑らかな小さい異物(直径2.5cm以下程度)で患者さんに症状がない場合、しばらく経過観察として自然排出を待つことがあります。ただし途中で異物が長時間停滞したり症状が出てきた場合は、やはり摘出が必要です。 ガイドラインでは以下の場合、内視鏡による摘出が推奨されています。- 消化管損傷の兆候(激しい痛みや出血など)を生じている電池
- ボタン電池や円筒電池が胃内に48時間以上とどまっている場合
- 先の尖った異物が胃内にある場合
- 直径2.5cm超の大きな異物が胃内にある場合
- 胃内に3~4週間とどまっている異物(形状に関わらず)
- 磁石(マグネット)を誤飲した場合で、内視鏡の届く範囲に存在するもの
消化管異物になりやすい人・予防の方法
消化管異物になりやすい方
大きく以下のようなカテゴリがあります。乳幼児・小児
好奇心旺盛で周囲の物を口に入れやすく、誤飲事故が多い年齢層です。特に1~3歳頃は誤飲の頻度が高く、硬貨、電池、ボタン、ネジ、玩具の部品などさまざまな物を飲み込んでしまう可能性があります。高齢者
誤嚥や誤飲が増える傾向にあります。義歯の使用や嚥下機能の低下、視力低下による確認ミス、認知症による判断力低下などが重なり、食べ物を喉に詰まらせたり薬の包装ごと飲み込んだりする事故が起こりやすくなります。 実際、消費者庁の調査でも高齢者の薬のPTPシート誤飲事故が報告されており、注意喚起が行われています。高齢者自身が気付かないうちに誤飲していることもあり、家族や介護者が異変に気付いて受診に至るケースもあります。嚥下障害や食道狭窄のある方
食道の病気(例:食道がん術後の狭窄、先天的な狭窄、アカラシアなど)や神経疾患による嚥下障害がある方は、食べ物や錠剤が引っかかりやすく異物残留のリスクが高まります。普段から食事中のむせやつかえが多い方は特に注意が必要です。精神疾患のある方、矯正施設収容者
一部の精神科疾患では異物を反復して飲み込む自傷行為がみられます。また刑務所収容者による故意の異物摂取も報告されます。これらは特殊なケースですが、治療者側は念頭に置いて対応します。予防の方法
まず原因となる状況を減らすことが重要です。乳幼児の場合、誤飲事故を防ぐ環境整備が基本です。高齢者の場合は、服薬や食事の見守りが有効です。薬のシート(PTP)は 1錠ずつにハサミで切り離さないようにしましょう。関連する病気
- 誤嚥
- 食道閉塞
- 腸閉塞




