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急性上腸間膜動脈閉塞症
和田 蔵人

監修医師
和田 蔵人(わだ内科・胃と腸クリニック)

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佐賀大学医学部卒業。南海医療センター消化器内科部長、大分市医師会立アルメイダ病院内視鏡センター長兼消化器内科部長などを歴任後の2023年、大分県大分市に「わだ内科・胃と腸クリニック」開業。地域医療に従事しながら、医療関連の記事の執筆や監修などを行なっている。医学博士。日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本肝臓学会肝臓専門医、日本医師会認定産業医の資格を有する。

急性上腸間膜動脈閉塞症の概要

急性腸間膜閉塞症は、腸管への血流が急激に途絶または減少する病態です。適切な診断と迅速な治療が行われない場合、腸管壊死や敗血症、多臓器不全に陥り、致死的となる可能性が高いです。

急性上腸間膜動脈閉塞症の原因

急性上腸間膜動脈閉塞症の主な原因は、塞栓症動脈血栓症です。

塞栓症

多くは、心臓に由来する塞栓(心原性塞栓)が上腸間膜動脈に流れ込み、閉塞することで起こります。原因となる心疾患には、心房細動弁膜症心機能低下などがあります。
心原性血栓以外にも、大動脈解離心臓血管外科術後の粥腫破綻などが塞栓の原因となることがあります。

動脈血栓症

腸間膜動脈の粥状硬化性病変を持つ方に多く発症します。動脈硬化を促進する糖尿病高血圧症高脂血症などが危険因子となります。

粥状硬化性変化による血流量の低下から徐々に血栓が形成されて閉塞する場合と、粥腫破綻により急激に閉塞する場合があります。急性閉塞の場合、側副血行路の発達が不良であることが多く、腸管虚血をきたしやすいとされています。

急性上腸間膜動脈閉塞症の前兆や初期症状について

急性上腸間膜動脈閉塞症には、特異的な前兆はなく、多くの場合、突然症状が現れることが特徴です。

初期症状

重要な初期症状は、激しい腹痛です。

この腹痛は、前触れなく突然発症することが多いとされています。患者さんは「今までに経験したことのないほどの強い痛み」と表現することがあります。

痛みの部位は、お腹の前面やへその周囲に生じることが一般的です。初期段階では、痛みの強さに比べて腹部の診察(理学所見)で異常が少ないか認められないことがあります。

これは、腹部所見に乏しい腹痛と呼ばれ、腹膜の炎症が遅れて起こるためと考えられています。そのため、腹部膨満や硬直といった症状は、通常、数日後に現れます

腹痛以外の初期症状

初期段階では、以下の症状がみられることもあります。

  • 悪心(おしん)・嘔吐(おうと)
  • 下痢(げり)
  • 下血(げけつ)

ただし、これらの症状は急性上腸間膜動脈閉塞症に特有のものではなく、ほかの多くの急性腹症でもみられるため、これらの症状だけで診断することは困難です。

受診すべき診療科

急性上腸間膜動脈閉塞症が疑われる場合、消化器内科救急科を早急に受診することが重要です。

急性上腸間膜動脈閉塞症の検査・診断

1.臨床的な疑い

まず、患者さんの病歴や既往歴から本症を疑うことが重要です。

2.血液検査

血液検査では、病状の進行とともにさまざまな異常がみられますが、急性上腸間膜動脈閉塞症に特異的な所見はありません
しかし、以下の項目が診断の参考となります。

  • 白血球の増加(WBC上昇):早期にみられることが多い
  • ヘマトクリット値(Ht値)の上昇:虚血腸管への水分漏出により上昇することがある
  • 代謝性アシドーシス
  • クレアチンキナーゼ(CPK)、血清カリウム(K)、血清クレアチニン(CRE)、尿素窒素(BUN)の上昇:腸管壊死が進行するとみられる
  • 乳酸値(lactate)の上昇
  • D-ダイマーの上昇:特異度は低いが感度が高いため、除外診断に有用

血液検査は、病状の進行度を把握するために有用ですが、早期診断には限界があります

3.画像検査

画像検査は、急性上腸間膜動脈閉塞症の診断において重要な役割を果たします。

① 造影CT検査

現在では、急性腹症の患者さんのほとんどで第一選択の画像検査として行われています。動脈内血栓の有無、腸間膜動静脈の血流、腸管壁の血流を評価できます。消化管穿孔や腸閉塞など、ほかの急性腹症との鑑別が可能です。

② 血管造影検査

急性腸管虚血が疑われる際に有用な検査ですが、緊急時に実施するには時間を要するため、適応を慎重に判断する必要があります。

③ 超音波検査

腸間膜動脈の評価には高い技術を要するため、診断には適さないとされています。

急性上腸間膜動脈閉塞症の治療

治療法には、外科的治療血管内治療、そして必要に応じて両者を組み合わせたハイブリッド治療があります。

1.治療方針決定のポイント

治療方針は、患者さんの全身状態、病状の進行度(特に腸管壊死の有無)、閉塞の原因(塞栓症か血栓症か)、発症からの時間、合併症の有無などを総合的に考慮して決定されます。

2.外科的治療

外科的治療には、開腹手術による血行再建術(血栓除去術やバイパス術)、壊死腸管の切除、および必要に応じたsecond look operationが含まれます。

血栓除去術

発症後早期であれば(一般的に12~24時間以内)、Fogartyバルーンカテーテルを用いた血栓除去術が適応となります。特に急性上腸間膜動脈塞栓症に対して有効です。

バイパス術

動脈硬化性狭窄に血栓症を伴う場合や、単純な血栓除去術では血行再建が不十分な場合に考慮されます。自家静脈や人工血管を用いたバイパス術を行うことがあります。

腸管切除

腸管壊死に至った場合は、壊死した腸管を切除する必要があります。壊死範囲が広範囲になると、短腸症候群などの術後QOLの低下につながる可能性があります。

3.血管内治療

近年、血管内治療の進歩により、急性上腸間膜動脈閉塞症に対する血栓溶解療法(薬物療法)、バルーン血管拡張術、ステント留置術が実施されるようになりました。

血栓溶解療法(動注療法)

ウロキナーゼなどの血栓溶解薬を直接動脈内に投与する方法です。

4.ハイブリッド治療

近年、手術室にCT・血管造影装置を統合させたハイブリッド手術室を導入する施設が増えています。このような施設では、血管造影や血管内治療を実施しながら、同時に開腹や腹腔鏡手術を行い、腸管のviabilityを確認することが可能です。その結果、治療の迅速化・適切化が期待されます。

急性上腸間膜動脈閉塞症になりやすい人・予防の方法

なりやすい人の特徴

高齢の方

高齢化に伴い、動脈硬化性疾患の増加とともに本疾患も高齢者に多くみられます。

心血管疾患の既往がある方

心血管疾患(四肢動脈閉塞、脳梗塞、心筋梗塞など)の既往がある方は、発症リスクが高いとされています。

心房細動などの不整脈がある方

心房細動は心臓内で血栓が形成されやすく、塞栓症の原因となることが知られています。この血栓が上腸間膜動脈を閉塞し、急性上腸間膜動脈閉塞症を引き起こすことがあります。

予防の方法

心房細動患者での適切な抗凝固療法の継続、動脈硬化リスク因子の管理(高血圧、糖尿病、脂質異常症の治療など)、そして禁煙が重要な予防法となります。

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参考文献

  • 上遠野由紀,藤田広峰,古森公浩:腸間膜動脈 血栓症.血管疾患,中外医学社,東京

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