

監修医師:
長田 和義(医師)
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2012年、長崎大学医学部卒業。消化器内科医として、複数の総合病院で胆膵疾患を中心に診療経験を積む。現在は、排泄障害、肛門疾患の診療にも従事。診療科目は消化器内科、肛門科。医学博士、日本内科学会認定内科医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。
目次 -INDEX-
食道神経症の概要
食道神経症とは、食道に器質的な異常がないにもかかわらず、のどの詰まり感や違和感、嚥下困難(飲み込みにくさ)などの症状が現れる疾患です。 食道神経症は機能性食道疾患の一つに分類され、明確な器質的異常(炎症や腫瘍など)が認められないことが診断の条件になります。 患者さんは「のどに何かが詰まっている感じがする」「飲み込むのが難しい」「胸が締め付けられるような感じがする」と訴えることが多く、症状が長期化することで生活の質(QOL)が低下することもあります。 食道神経症は稀な疾患とされますが、ストレスとの関連が報告されており、現代社会では増加傾向にあると考えられています。食道神経症の原因
食道神経症の原因は明確にはわかっていませんが、精神的な要因や自律神経の乱れが関与していると考えられています。精神的ストレス
食道神経症の主な原因の一つは、精神的ストレスと考えられています。仕事や家庭環境、人間関係などのストレスが蓄積すると、自律神経のバランスが崩れ、食道の異常な知覚過敏や運動機能の乱れを引き起こすことが考えられます。自律神経の乱れ
食道の動きは自律神経によってコントロールされています。自律神経が乱れることで食道の収縮運動が適切に機能せず、違和感や嚥下困難の原因となることが想定されています。特に交感神経が優位になりすぎると、食道の緊張が高まり、症状が悪化することがあります。食道粘膜の炎症
過去に食道炎や胃食道逆流症(GERD)を経験したことがある方は、炎症によって食道の異常な感覚を持ちやすくなり、食道神経症の発症リスクが高まる可能性が想定されています。 内視鏡検査で食道粘膜に明らかな炎症が認められなくても、胃酸の逆流によって食道粘膜に炎症をきたし、胸やけなどの症状を呈している場合があります。これは非びらん性胃食道逆流症(NERD)といわれ、食道神経症の症状と関連している可能性があり、明確に区別ができない場合もあります。過敏性腸症候群(IBS)や機能性ディスペプシア(FD)との関連
食道神経症の患者さんには、過敏性腸症候群(IBS)や機能性ディスペプシア(FD)といった消化管の機能障害を併発しているケースがみられます。これは、同じように精神的なストレスや自律神経の影響を受けやすく、消化管の知覚過敏が関連している疾患であるためと考えられます。食道神経症の前兆や初期症状について
食道神経症の症状は、軽度な違和感から重度の嚥下困難までさまざまです。以下のような症状がみられる場合は消化器内科を受診しましょう。のどや食道の違和感
初期症状として、のどや胸の奥に「何かが詰まっている感じ」が現れます。飲食時に限らず、空腹時やリラックスしているときでも違和感を覚えることがあります。嚥下困難(飲み込みにくさ)
食道神経症の代表的な症状の一つが、嚥下困難です。食べ物や飲み物を飲み込む際に、スムーズに通らないと感じることがあります。しかし、検査をしても物理的な狭窄は認められません。胸の圧迫感や痛み
食道が緊張すると、胸の奥に圧迫感を感じたり、締め付けられるような痛みを訴えることがあります。心臓の病気と間違われることもありますが、心電図検査などで異常がない場合は、食道神経症の可能性も考える必要があります。症状の変動
食道神経症の症状は、日によって変動することが多いです。特にストレスが強いときや疲れがたまっているときに悪化し、リラックス時には軽減する傾向があります。食道神経症の検査・診断
食道神経症の診断には、食道などの消化管に器質的な異常がないことを確認するための検査が必要です。内視鏡検査
食道や胃に粘膜の炎症や腫瘍、アカラシアなどの通過障害や違和感の原因となる異常がないかを、内視鏡検査(胃カメラ)で評価します。腫瘍を認める場合や、好酸球性食道炎など肉眼的にはわかりにくい疾患を否定するために、組織検査(生検)を行う場合があります。 また、クローン病など消化管の広範囲に異常をきたす疾患を否定するために、大腸カメラも行う場合があります。食道神経症の場合は、これらの消化管の異常を認めないことが条件となります。食道造影検査(バリウム検査)
バリウムという液状の金属を飲んでX線撮影を行い、食道の狭窄や運動異常がないかを確認します。多くの場合まずは内視鏡検査で食道の評価を行いますが、アカラシアなどの機能的疾患との鑑別が必要な場合など、造影検査が必要になることもあります。食道内圧検査
食道の収縮運動や圧力を測定する検査で、食道の機能異常がないかを評価します。心理的評価
ストレスや不安障害の影響が考えられる場合、心理的評価が行われることがあります。食道神経症の治療
生活習慣の改善やストレスの軽減
心理的、あるいは身体的なストレスを軽減することで、症状が緩和する可能性があります。規則正しい生活習慣やバランスのよい食生活を心掛け、喫煙や過度な飲酒をしないことなどが重要です。 また軽い運動や趣味などから、心と身体をリラックスさせることも重要と考えられます。薬物療法
症状を軽減させるために薬物療法が効果的な場合がありますが、医師との十分な相談により適切な評価と内服管理が求められます。抗不安薬や抗うつ薬(SSRI)
精神的な要因が強いと考えられる場合、精神疾患の症状の一部として食道神経症の症状をきたしていると考えられる場合は、抗不安薬や抗うつ薬が有効な可能性が考えられます。漢方薬
半夏厚朴湯が、食道神経症の症状緩和に効果的であったという報告があります。制酸薬
H2ブロッカー、プロトンポンプインヒビター(PPI)などの胃酸を抑える薬剤が有効な可能性があり、この場合は胃酸の逆流が症状に関与しているものと考えられます。心理療法
認知行動療法(CBT)などが有効な場合があります。食道神経症になりやすい人・予防の方法
ストレスを抱えやすい方、不安症やうつ症状がある方、自律神経が乱れやすい方などは、食道神経症になりやすい可能性があります。予防としては、何らかの方法でストレスを軽減したり適度に管理することが重要と考えられます。 ただし、実際には胃酸の逆流やそのほかの疾患と関連して症状が出ている可能性もあるため、医療機関で適切な検査を受けたうえ、診断や治療法について検討することが重要です。関連する病気
- 機能性胸痛
- 食道ヒステリー
- びまん性食道痙攣
- ナッツクラッカー食道
- 逆流性食道炎
- 食道カンジダ症
- 食道癌




