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食道良性腫瘍
前田 広太郎

監修医師
前田 広太郎(医師)

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2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。

食道良性腫瘍の概要

食道良性腫瘍は食道の腫瘍性病変において悪性腫瘍以外の腫瘍を示し、頻度は低い疾患です。良性腫瘍は平滑筋腫がほとんどであり、自覚症状が少ないことから内視鏡やCTといった検査で偶然発見されることが多いです。無症状であれば経過観察となりますが、症状が強かったり、腫瘍の種類によっては悪性化する可能性もあることから手術で切除を行うこともあります。

食道良性腫瘍の原因

食道にできる良性腫瘍は、上皮性腫瘍(食道の内腔表面にある腫瘍)と、非上皮性腫瘍(食道内腔の表面にはない腫瘍)に分類されます。大部分は非上皮性腫瘍である平滑筋腫で70~90%を占めます。他には、乳頭腫、顆粒細胞腫、脂肪腫、リンパ管腫、海綿状血管腫、線維腫などがあります。乳頭腫以外は食道扁平上皮で腫瘍が覆われているため、粘膜下にある腫瘍となります。

食道乳頭腫は上皮性腫瘍の中で最も多く、食道の下部(胃に近い方)に見つかることが多く、食道炎の治療で自然に消えることもあり、酸逆流による慢性的な刺激が原因と考えられています。頻度は0.05~0.31%でみられるとされます。

平滑筋腫は食道の消化管間葉系腫瘍の90%を占めるとされ、食道の下部に多くみられます。食道壁外に発育するものもあり、CTで縦隔腫瘍として偶然発見されることもあります。平滑筋腫と見分けが必要になる食道GIST(消化管間質腫瘍)は全消化管GISTの2%以下という食道ではまれな疾患です。

神経鞘腫は食道にあるシュワン細胞と呼ばれる細胞からできた腫瘤であり、食道ではまれです。女性に多く、上部食道(口に近い方)に発生し、比較的大きい(平均5.5cm)腫瘍です。神経鞘腫の多くが良性腫瘍とされますが、悪性化の報告もあり、腫瘍が大きいもしくは増大傾向であれば注意が必要です。

顆粒細胞腫は、全ての食道良性粘膜下腫瘍の中で平滑筋腫に次いで2番目に多い腫瘍(6.3%)です。好発部位は下部食道に65%、中部食道に15%とされます。大半は2cm以下の腫瘍で数も一つだけであることが多いですが、多発する場合もあります。生検で容易に組織を採取できますが、1~3%の頻度で悪性の報告もあります。

脂肪腫は全消化管良性腫瘍の約4%であり、大腸に最も多くみられますが食道では1.6%と非常にまれです。食道良性腫瘍の中では2%程度の頻度とされます。

リンパ管腫はリンパ管が存在する部位であればどこでも発生する可能性がありますが、消化管に発生することは少ないとされ、消化管での発症頻度は1%未満とされ、食道での発症はさらにまれとされます。中下部食道によくみられ、大きさは2~4cm程度です。

血管腫は食道良性腫瘍の2~4%と比較的まれな疾患です。血流が豊富な腫瘍ですが出血の可能性は低く、無症状であれば経過観察が一般的です。化膿性肉芽腫は良性疾患ですが易出血性(出血し易い)であり、急速に発育する場合もあるため、積極的に切除することが望ましいとされます。

線維血管性ポリープは可動性が良いため、通過障害といった症状がみられにくいとされ、大きくなるまで発見されづらいと考えられています。腫瘍が大きくなると嘔吐によりポリープを吐き出したり、吐き出したポリープで気道を閉塞し窒息する可能性もあることから、大きいものはなるべく切除した方が良いとされます。

食道良性腫瘍の前兆や初期症状について

食道良性腫瘍はほとんどが無症状であり、多くな内視鏡検査か食道X腺造影検査をしたときに偶然発見されることがほとんどです。4~5cmを超える巨大な腫瘤になると、ものの飲み込みにくさを感じたり、口腔内へ腫瘤が飛び出て見えるといった症状が出ることがあります。

食道良性腫瘍の検査・診断

診断は内視鏡検査で行います。乳頭腫は無茎性のものから桑の実、イソギンチャク様の形など様々ですが、内視鏡での診断は容易とされます。炎症性ポリープとの鑑別が必要になることもあり、生検を行って病理組織診断を行います。他の食道良性腫瘍は粘膜下腫瘍であることから、鉗子触診で腫瘍の硬さを確認したり、EUS(超音波内視鏡)で内部の性状や存在部位、発生部位を確認して診断を行います。必要に応じて、超音波内視鏡下生検を行って組織をみることもあります。基本的には2cmを超えると良性か悪性かの鑑別が必要となり、3cm以上、表面が不整で結節状、陥凹や潰瘍があったり、大きさが急速に大きくなるものは悪性の可能性が高く注意が必要です。

食道良性腫瘍の治療

原則として治療は不要です。悪性化を否定できない場合や悪性化が報告されている腫瘍は、内視鏡的切除、外科的切除、胸腔補助下手術といった方法で腫瘍を切除します。顆粒細胞腫は狭い範囲内で浸潤し進行する場合が多く、原則切除とする施設も多いです。粘膜下層までとどまる腫瘤であれば内視鏡的切除は容易とされますが、良性疾患であることから切除するかどうかは切除の合併症も含めて慎重に判断する必要があります。

予後は基本的に良好です。顆粒細胞腫は悪性化の報告もあり、厳重な経過観察や切除が必要です。また、最多である平滑筋腫と内視鏡診断しても、組織診が得られない場合は、GIST(消化管間質腫瘍)というまれな腫瘍との鑑別が必要になるため、経過観察が必要です。

食道良性腫瘍になりやすい人・予防の方法

食道良性腫瘍はまれな疾患です。発症予防の方法は確立されていません。

発生頻度としては、食道リンパ管腫は非常にまれで、報告も少なく、2歳以下の小児に発症が報告されています。食道血管腫は10000人に4人の割合で剖検時にみられたという報告がありますが、非常にまれとされます。線維血管ポリープは全食道良性腫瘍の0.5~1.0%とまれです。顆粒細胞腫は0.033%の有病率で、全食道良性腫瘍で1%の頻度と言われています。

参考文献

  • 1)Saers T, et al. Lymphangioma of the esophagus. Gastrointest Endosc. 2005;62(1):181.
  • 2)Palanivelu C, et al. A rare cause of intermittent dysphagia: giant fibrovascular polyp of the proximal esophagus. J Coll Physicians Surg Pak. 2007;17(1):51.
  • 3)Orlowska J, et al. A conservative approach to granular cell tumors of the esophagus: four case reports and literature review. Am J Gastroenterol. 1993;88(2):311.
  • 4)小澤 俊文:食道良性腫瘍(benign esophageal tumors). 胃と腸 47巻 5号 pp. 732. 2012
  • 5)門馬 久美子, 他:食道腫瘍性病変の内視鏡診断—良性腫瘍(非上皮性腫瘍を含む)の診断. 胃と腸 55巻 5号 pp. 530-543. 2020

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