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食道気管支瘻
前田 広太郎

監修医師
前田 広太郎(医師)

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2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。

食道気管支瘻の概要

食道気管支瘻とは、食道と気管支の壁に孔(あな)があいて、食道と気管支が交通し繋がってしまう病態です。先天性食道気管支瘻と後天性食道気管支瘻があります。先天性食道気管支瘻は出生4500人に1人の割合で発生する病気です。食道閉鎖症の90%に合併し、手術による治療を必要とします。後天性気管支瘻は食道癌や肺癌といった悪性腫瘍が約20%程度を占めます。ほかにも、結核、外傷、放射線治療、食道アカラシアといった良性疾患も原因となります。食道から気管支へ食物や胃内容物、唾液が入り込むことで、咳嗽、発熱、呼吸困難といった症状が出現します。無治療の場合、経口摂取困難によるるい痩や脱水、肺炎を発症し、平均生存期間は1~6週程度とされます。

食道気管支瘻の原因

食道気管支瘻は先天性と後天性に分類されます。先天性はほとんどが先天性食道閉鎖症に伴うもので、原因は不明とされます。ほとんどが小児期に発見されますが、ごくまれに成人になって発見されることもあります。後天性は結核、梅毒、真菌性感染症といった感染症によるもの、異物、胸部外傷、器械操作、腐食剤嚥下による外傷性のもの、食道憩室によるものが挙げられます。悪性腫瘍によるものは、食道癌の10%、肺癌の1%に食道気管支瘻が発生するとされます。また、長期間気管チューブを挿入することによっても食道気管支瘻が形成されることがあります。

食道気管支瘻の前兆や初期症状について

先天性食道気管支瘻はほとんどの症例で出生後早期から症状がみられます。唾液を口腔や鼻腔より泡を吹くように出し、哺乳を開始するとむせて、口や鼻からミルクを噴出しチアノーゼをきたします。

後天性食道気管支瘻では食事(水分・固形物)摂取した後に頻回に咳をしたり、再発性の膿性気管支炎や肺炎、誤嚥を繰り返す、原因不明の栄養不良があれば、食道気管支瘻を疑うきっかけとなります。また、挿管チューブによる人工呼吸器管理中の患者では、突然呼吸状態が悪化したり、酸素化の悪化や一回換気量の減少や、胃の膨満がみられることがあり発見されることがあります。悪性腫瘍による食道気管支瘻では、数日〜数週間かけて徐々に進行することが多いとされます。挿管など急性の原因では、数時間以内に急速に症状が出現することもあります。瘻孔の大きさや位置により症状出現のタイミングが異なります。瘻孔が食道のより口に近い側で大きな場合は早期に症状があらわれやすいとされます。肺癌では咳や喀血、食道癌では嚥下困難や体重減少といった症状があり、食道気管支瘻と似たような症状がみられることから、食道気管支瘻の発生を遅らせる原因となります。

食道気管支瘻の検査・診断

先天性食道気管支瘻孔(食道閉鎖症)の出生後の診断法として経鼻胃管を挿入し、抵抗の有無を評価する方法が行われます。X線を撮影してガスが消化管に流入していれば食道気管支瘻が疑われます。

後天性食道気管支瘻では食道造影検査を行います。造影剤が肺側に流入することで瘻孔を確認できます。バリウム造影が推奨され、ガストログラフィンによる造影は、高張性であり誤嚥時に肺水腫や肺炎のリスクがあるため行いません。 嚥下できない患者(挿管中など)では、食道造影は困難であり、代わりに胸部CTを撮影します。経口・静脈造影により、瘻孔の位置や大きさ、原因、気管・食道の解剖学的関係を把握し、治療方針の決定に有用です。内視鏡検査で、気管支鏡や上部消化管内視鏡で瘻孔がどこにあるのかの確認を行います。 悪性が疑われる場合は生検を行い診断を確定します。小さな瘻孔は、粘膜の発赤・浮腫のため見落とされることもあるため、メチレンブルーを経口投与し、気道内に泡が出現するかを確認する方法が補助的に用いられます。 食道気管支瘻の診断はこれらの検査を総合的に組み合わせて行います。

食道気管支瘻の治療

先天性食道気管支瘻孔(食道閉鎖症)は開胸手術や内視鏡手術、場合によっては何回かに分けて手術をする必要があります。

後天性食道瘻孔では、口からの食事摂取ができないため、瘻孔の閉鎖術を行います。それまでは、まず経口摂取の中止と抗菌薬投与による気道感染の治療、経管もしくは経静脈的栄養を行います。頭部挙上(45度以上)、頻回の口腔吸引を行います。

良性疾患が原因である場合は接着剤などを用いた内視鏡的瘻孔閉鎖術や外科的治療を施行します。手術適応がある場合の根治的外科手術は成功率75~94%とされます。手術ができない場合で、瘻孔が大きい場合(>5mm)はステントの留置を行い、瘻孔が小さい場合(≦5mm)は内視鏡的局所治療を行うことが多いです。

悪性疾患(食道癌や肺癌)が原因の場合は、外科的腫瘍切除術の適応外となり、緩和治療、生活の質の向上を目標として治療を行います。メタリックステントという金属の筒を食道や気管に留置します。悪性腫瘍による食道気管支瘻は食道の中央部から口に近い側に多く発生し、その場合は食道と気道どちらにもステントを挿入することが多いです。瘻孔が小さければ局所的な治療(接着剤やクリッピング)も考慮します。気道ステントを先に入れ、食道ステントを入れる二重ステントは生存期間を延長したとの報告があります。二重ステントが困難な場合は食道ステントもしくは気道ステントを単独で留置します。遠位部(胃に近い側の食道)は、気道狭窄がなければ食道ステント単独で使用し、気道狭窄があれば二重にステントを留置します。

治療後は48時間以内に食道造影検査を再実施し、瘻孔の完全に閉じているか確認します。完全奏効(瘻孔からの漏れがなく、最低2週間経口摂取が可能)、部分奏効(漏れが減少し症状は改善するが、経口摂取は不可)によってその後の治療方針が異なります。部分奏効の場合、再介入が必要となる可能性があり、 ステントの入れ替えや追加の気道ステントの挿入、局所療法の追加施行などを検討します。後天性の良性疾患による食道気管支瘻では再発率が最大11%と報告されており、新たな症状や、症状の悪化(再瘻形成やステント合併症など)がみられれば、速やかに画像検査や内視鏡を再実施し再評価を行うべきとされます。

食道気管支瘻になりやすい人・予防の方法

先天性食道気管支瘻は胎生期(妊娠5~7週)の異常であり予防方法は確立されていません。悪性腫瘍による食道気管支瘻は食道癌や肺癌が多いです。他にも頻度は低いですが、喉頭癌、甲状腺癌、リンパ腫、胸腺悪性腫瘍などで食道気管支瘻になる場合があります。他にもなりやすい病態としては、長期間挿管を行ったことによる外傷、内視鏡施行時の損傷、感染症(結核、細菌性膿瘍、放散菌感染症)、炎症性疾患(リウマチ性関節炎など)、食道狭窄に対するステント留置、手術(喉頭摘出や食道切除、心血管手術、縦隔手術)、放射線治療、化学療法(ベバシズマブなど)が挙げられます。こういった疾患に罹患しないことが食道気管支瘻を予防する方法となります。

参考文献

  • 1)Muniappan A, et al. Surgical treatment of nonmalignant tracheoesophageal fistula: a thirty-five year experience. Ann Thorac Surg. 2013 Apr;95(4):1141-6. Epub 2012 Sep 20.
  • 2)Reed MF, Mathisen DJ. Tracheoesophageal fistula. Chest Surg Clin N Am. 2003 May;13(2):271-89.
  • 3)橋本 陽, 他:食道気管支瘻. 消化器内視鏡 35巻 13号 pp. 286-287. 2023
  • 4)平井 哲彦, 他:食道気管支瘻(気管ステント/食道ステント留置). 消化器内視鏡 35巻 13号 pp. 290-291. 2023
  • 5)梅田 聡. 食道閉鎖症. 周産期医学 53巻 11号 pp. 1607-1613. 2023
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