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田中 茉里子

監修医師
田中 茉里子(医師)

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・弘前大学医学部卒業 ・現在は湘南鎌倉総合病院勤務 ・専門は肝胆膵外科、消化器外科、一般外科

粘膜脱症候群の概要

粘膜脱症候群は、直腸の粘膜が肛門から反復して脱出することで、隆起性病変(粘膜が盛り上がるような病変)や潰瘍性病変が生じる疾患です。
主な原因は、排便時に強くいきむ習慣があることや、本来緩むべき恥骨腸骨筋が緩まずに肛門が締まる「奇異性収縮」にあります。
これらの要因により、直腸粘膜に慢性的な刺激が加わり、虚血的な変化が生じることで症状が現れます。

発症頻度は10万人あたり1人程度で、20〜30代の若年層に多く見られる傾向があります。
出典:Gastroenterological Endoscopy「直腸粘膜脱症候群診断のこつ」

主な症状には、肛門からの粘膜の脱出、排便時の出血、粘液の排出、残便感などがあります。
また、便意を感じているのに便が出ない「テネスムス」と呼ばれる症状が現れることもあります。

診断には、問診や視診、直腸診、肛門鏡や内視鏡検査などが用いられます。

ほかの大腸疾患との鑑別が必要な症例では、病理検査がおこなわれることもあります。
治療の基本は生活習慣や食生活の改善で、特に強いいきみの習慣を直すことが重要です。
これらによって改善しない場合や、大きな隆起性病変が形成されている場合は、手術療法が検討されます。

粘膜脱症候群は、適切な診断と治療により管理可能な疾患ですが、症状がほかの消化器疾患と類似していることから、正確な診断が重要です。

粘膜脱症候群の原因

粘膜脱症候群の主な原因は、排便時の強いいきみの習慣と奇異性収縮です。
排便時に過度に腹圧を高めたり、長時間いきんだりすることで、直腸粘膜に慢性的な刺激が加わります。
この結果、直腸粘膜が次第に下垂し、肛門から脱出するようになります。

さらに、粘膜脱症候群は排便時に緩むはずの恥骨腸骨筋が適切に緩まず、肛門が締まったままになる奇異性収縮によって生じることもあります。
奇異性収縮が起こると、直腸粘膜が適切に血液供給を受けられず、虚血状態におちいります。

これらの要因が複合的に作用することで、直腸粘膜に隆起性病変や潰瘍性病変が形成されます。

粘膜脱症候群の前兆や初期症状について

粘膜脱症候群の初期症状は多岐にわたりますが、特徴的なのは排便時の出血で、血液や粘液が混ざった便が見られることが多いです。

また、大腸粘膜が肛門から脱出する感覚や、肛門周辺の痛みや違和感も初期症状として現れます。
さらに、便意を感じているのに完全に排便ができない「テネスムス」も次第に見られるようになります。

これらの症状は徐々に進行し、排便習慣がさらに悪くなる原因にもなります。
粘膜脱症候群を治すためには早期発見と適切な対応が重要で、症状が持続する場合はできるだけ早く医療機関での診察を受けることが推奨されます。

粘膜脱症候群の検査・診断

粘膜脱症候群の診断は、主に問診や視診、直腸診、肛門鏡や大腸内視鏡検査を組み合わせておこなわれます。
問診では、自覚症状や排便時の強いいきみの習慣などを詳しく聴取します。

特に大腸内視鏡検査では、直腸の隆起性病変や潰瘍性病変の状態を詳細に観察できます。
病理検査は、大腸ポリープや直腸がん、大腸の炎症性疾患などとの鑑別に重要な役割を果たします。

さらに、バリウムを使用した排便造影検査をおこなうことで、排便障害の状態や粘膜脱の程度を詳細に評価することもあります。
これらの総合的な診断アプローチにより、粘膜脱症候群の正確な診断と適切な治療方針の決定が可能となります。

粘膜脱症候群の治療

粘膜脱症候群の治療は、保存療法と外科的治療の2つのアプローチがあります。
第一選択として推奨されるのは保存療法で、主にいきみの習慣を改善することを目的としています。
保存療法では、排便時にトイレに座る時間を最小限に抑え、過度のいきみを控えるよう指導します。
これにより、直腸粘膜への過度な刺激を軽減し、症状の改善を図ります。

必要に応じて、排便を促す緩下剤や座薬の投与や、食物繊維や水分の摂取を意識した食事指導も並行しておこないます。
これらの対策により、便が柔らかくなり、排便時の負担を軽減できます。
正しいいきみ方を習得するために、複数回の外来通院で指導を受けることもあります。

保存療法で十分な改善が見込めない場合や、病変が大きい難治性の症例では、外科的治療が検討されます。
外科的治療では、原因となっている病変を切除するなどの手術がおこなわれます。
これらの治療は、症状の程度や全身状態を総合的に評価したうえで選択されます。

粘膜脱症候群になりやすい人・予防の方法

粘膜脱症候群は、排便時に強くいきむ癖のある若年者に多く見られる傾向があります。
便秘がちの人や、加齢により筋力が低下した高齢者も発症しやすくなります。

予防には、いきみの習慣を改善することが重要です。
排便時は過度にいきむことを控え、トイレでの滞在時間を最小限に抑えるよう心がけましょう。
日常生活では、食物繊維を多く含む食事を心がけ、積極的に水分を摂取して便通を整えることが大切です。
また、適度な運動習慣をつけることも重要で、ウォーキングなどの有酸素運動や骨盤底筋群のトレーニングなどは、正常な排便を促すのに役立ちます。

これらの生活習慣の改善により、便秘を予防し、強いいきみの必要性を減らすことで、粘膜脱症候群の発症リスクを軽減できます。

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