

監修医師:
和田 蔵人(わだ内科・胃と腸クリニック)
目次 -INDEX-
メネトリエ病の概要
メネトリエ病(巨大肥厚性胃炎)は、胃粘膜の異常な肥厚と低タンパク血症を特徴とするまれな疾患です。
メネトリエ病の原因
メネトリエ病の原因は完全には解明されていませんが、遺伝性ではなく後天性の疾患と考えられています。小児ではサイトメガロウイルス(CMV)感染、成人ではヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)感染が発症の誘因として示唆されています。しかし、H. pylori未感染の成人症例も報告されており、原因には不明な点が多く残っています。近年、胃粘膜におけるトランスフォーミング増殖因子α(TGF-α)の過剰発現が、粘膜上皮の増殖、粘液産生の亢進、壁細胞による胃酸分泌の抑制などに重要な役割を果たしていることが指摘されています。また、胃からの蛋白漏出の機序については、胃粘膜の線溶能の亢進や、上皮細胞間のタイトジャンクションの拡大による細胞間透過性の増加が関与していると推測されています。
メネトリエ病の前兆や初期症状について
メネトリエ病(巨大肥厚性胃炎)は、胃粘膜の異常な肥厚を特徴とするまれな疾患です。初期症状として、以下の消化器症状が現れることがあります。
- 上腹部痛:胃の粘膜が肥厚することで、上腹部に不快感や痛みを感じることがあります
- 嘔吐:食後に吐き気や嘔吐が生じる場合があります
- 下痢:消化吸収機能の低下により、下痢を伴うことがあります
- 倦怠感:全身のだるさや疲労感を感じることがあります
- 食欲不振:食欲が低下し、体重減少につながることがあります
これらの症状は非特異的であり、ほかの消化器疾患でも見られるため、注意が必要です。病気が進行すると、胃粘膜からのタンパク質漏出により低タンパク血症が生じ、以下の症状が現れることがあります。
- 貧血:血液中の赤血球やヘモグロビンが減少し、疲れやすさやめまいを引き起こすことがあります
- 浮腫(むくみ):血中のアルブミン低下により、足や顔などにむくみが生じることがあります
- 体重減少:食欲不振や消化機能の低下により、体重が減少することがあります
- 黒色便:胃粘膜の損傷や出血により、黒色の便が見られることがあります
メネトリエ病の検査・診断
メネトリエ病(巨大肥厚性胃炎)の診断には、以下の検査が重要です。
1. 上部消化管内視鏡検査
胃の内部を直接観察し、胃粘膜の巨大皺襞(ひだ)や粘液の多量付着、易出血性などの特徴を確認します。
2. 上部消化管X線造影検査
造影剤を用いて胃の形態を評価し、胃体部から下部にかけて大彎側の皺襞の著明な肥大や粘液分泌亢進によるバリウムの付着不良を確認します。
3. 超音波内視鏡検査
胃壁の肥厚(20mm以上)や粘液の貯留、胃体上中部大彎側の第2層の著明な肥厚、固有筋層の正常厚、層構造の維持、活発な蠕動運動、肥厚した胃壁内の豊富な血流シグナルなどを観察します。
4. CT検査
胃粘膜層の著明な肥厚や巨大皺襞の存在を確認します。
5. 組織学的検査
内視鏡下で胃粘膜の一部を採取し、腺窩上皮の過形成、胃底腺の萎縮、粘膜筋板の肥厚、腺管の嚢胞状拡張、粘膜固有層の浮腫や炎症細胞浸潤などを確認します。
6. 蛋白漏出シンチグラフィ
放射性同位元素を用いて、胃からの蛋白漏出を画像的に確認します。
7. 血液検査
低蛋白血症や貧血の有無を確認し、血清総蛋白やアルブミン値の低下を評価します。
8. ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)抗体検査
H. pylori感染の有無を確認します。
これらの検査結果を総合的に評価し、ほかの疾患を除外することで、メネトリエ病の診断が確定されます。なお本疾患の特徴は胃の巨大皺襞であり、上部消化管内視鏡検査と上部消化管X線造影検査は必須です。
メネトリエ病の治療
メネトリエ病(巨大肥厚性胃炎)の治療は、症状の程度や進行状況に応じて、内科的治療と外科的治療が選択されます。
内科的治療
食事療法と薬物療法
低タンパク血症の改善を目的とし、高タンパク・低脂肪の食事や消化態栄養剤の摂取が推奨されます。薬物療法では、胃酸分泌を抑制するプロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2受容体拮抗薬、抗コリン薬、抗プラスミン薬などが使用されます。特に、セツキシマブなどの生物学的製剤の有効性が報告されています。
ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)除菌療法
H.pylori感染が確認された場合、除菌治療が行われます。除菌により、貧血や低タンパク血症、浮腫などの症状が改善した例が報告されています。
外科的治療
手術の適応
内科的治療で効果が得られない場合や、胃癌の合併が疑われる場合、または出血が著明な場合には、外科的治療が検討されます。具体的には、胃全摘術や胃亜全摘術が選択されることがあります。
手術のリスクと合併症
外科的治療には、出血、感染、縫合不全などの合併症リスクが伴います。手術後は、数週間から数ヶ月の回復期間が必要とされます。
治療方針は患者さんの症状や全身状態、合併症の有無などを総合的に判断して決定されます。医師と十分に相談し治療法を選択することが重要です。
メネトリエ病になりやすい人・予防の方法
メネトリエ病の予防法として、以下の点が考えられます。
- ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)感染の除菌:H. pylori感染がメネトリエ病の発症に関連している可能性が指摘されています。そのため、感染が確認された場合は、医師と相談のうえ、適切な除菌治療を検討することが推奨されます
- 定期的な内視鏡検査:メネトリエ病は胃癌を合併するリスクが高いため、定期的な内視鏡検査を受け、早期発見と適切な対応に努めることが重要です
関連する病気
- 胃がん
- 慢性胃炎
- タンパク漏出性胃腸症
参考文献
- 多賀須幸男,土谷春仁:胃巨大皺襞の病態─メネトリエ病の場合.胃と腸 15:531-541,1980
- Kaneko T, Akamatsu T, Gotoh A, et al : Remission of Ménétrier's disease after a prolonged period with therapeutic eradication of Helicobacter pylori. Am J Gastroenterol 94:272-273,1999
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- Okanobu H, Hata J, Haruma K, et al : Giant gastric folds : differential diagnosis at US. Radiology 226:686-690,2003
- 赤松泰次,下平和久,三木久能,他:まれな胃疾 患─臨床の立場から.胃と腸 50:725-735,2015




