

監修医師:
大越 香江(医師)
目次 -INDEX-
大腸ポリポーシスの概要
消化管ポリポーシスとは、消化管に多数のポリープが見られる状態を指し、一般的には100個以上のポリープが確認される場合をいいます。その中でも、大腸ポリポーシスは特に大腸にポリープが多発する状態を指し、消化管ポリポーシスの一種として分類されます。この大腸ポリポーシスには、単にポリープの数が多いだけではなく、大腸以外の部位に病変を伴うタイプも多く含まれています。
大腸ポリポーシスの病態は、遺伝性の有無や組織学的特徴に基づいて分類されます。組織学的には、腫瘍性と非腫瘍性の2つに大別され、腫瘍性はさらに腺腫性および腺腫・過形成性に細分化されます。一方、非腫瘍性は過誤腫性、過形成性、炎症性の3つに分類されます。この分類に基づき、主な病型は以下のように整理されます。
腫瘍性・遺伝性あり:家族性大腸腺腫症、Gardner症候群、Trucot症候群
非腫瘍性(過誤腫)・遺伝性あり:若年性ポリポーシス、Peutz-Jeghers症候群
非腫瘍性(過形成性)・遺伝性不明:大腸serrated polyposis症候群
非腫瘍性(炎症性)・遺伝性なし:炎症性ポリポーシス、良性リンパ濾胞性ポリポーシス
このように、大腸ポリポーシスにはさまざまなタイプがあり、診断および治療の際には、それぞれの特徴を正確に把握して対応することが重要です。この記事では、代表的な疾患として、家族性大腸腺腫症、若年性ポリポーシス、Peutz-Jeghers症候群、炎症性ポリポーシスについて詳しく解説します。
大腸ポリポーシスの原因
家族性大腸腺腫症は、APC遺伝子の病的バリアントによって引き起こされる遺伝性疾患です。病的バリアントとは、遺伝子のDNA配列に異常が生じ、本来の遺伝子機能が失われたり過剰に発揮されたりすることで疾患を引き起こす変化を指します。この疾患は常染色体優性遺伝であり、親から子へ50%の確率で遺伝します。
若年性ポリポーシス症候群は、BMPR1AまたはSMAD4遺伝子の病的バリアントによって発症します。これらの遺伝子は細胞の成長や分化を調節する役割を持っており、その機能が異常をきたすことでポリープが形成されます。
Peutz-Jeghers症候群は、STK11遺伝子の病的バリアントが原因で発症します。この遺伝子は細胞の増殖を抑える機能を持っていますが、その機能が失われることで過誤腫性ポリープが形成されます。この疾患も常染色体優性遺伝形式を持ちますが、約半数の症例は家族歴のない孤発例です。
炎症性ポリポーシスは、潰瘍性大腸炎やCrohn病などの慢性的な消化管炎症が原因となります。これらの炎症によって粘膜が刺激され、二次的にポリープが形成されることが特徴です。
大腸ポリポーシスの前兆や初期症状について
大腸ポリポーシスの初期症状としては、血便、下痢、腹痛などの消化器症状が一般的です。また、体表に骨腫や軟部腫瘍(表皮嚢胞、線維腫など)が出現することもあります。さらに、肛門からポリープが脱出する場合や、進行した大腸癌による腸閉塞が起こることもあります。
家族性大腸腺腫症では、10歳頃から大腸腺腫が発生し、数百個から1万個以上に増えることがあります。これに伴い、腹痛や貧血がみられ、高頻度でデスモイド腫瘍が発生するため、水腎症や血管・神経の圧迫症状を引き起こすことがあります。さらに、甲状腺癌や胃癌など、多臓器に腫瘍が発生しやすい特徴があります。
若年性ポリープでは、ほとんどが20歳までに発症し、ポリープの数は5個から200個程度と個人差があります。ポリープは脆弱で出血しやすく、貧血の原因となるほか、多発する場合には低タンパク血症や低栄養を引き起こすこともあります。さらに、ポリープの増大により腸重積を引き起こすこともあります。
Peutz-Jeghers症候群では、口唇や口腔粘膜、皮膚に色素沈着がみられ、この症状が診断の手がかりとなります。
気になる症状があるときは、消化器内科を受診しましょう。
大腸ポリポーシスの検査・診断
家族性大腸腺腫症の診断には、大腸内視鏡検査が用いられ、腺腫が100個以上確認される場合に疑われます。また、遺伝子検査を行い、APC遺伝子の病的バリアントが確認されれば診断が確定します。
Peutz-Jeghers症候群の確定診断は、消化管内視鏡検査で特徴的なポリープを確認すること、または口唇や皮膚に見られる色素沈着といった臨床症状を確認することで行われます。さらに、遺伝子検査でSTK11遺伝子の病的バリアントを検出することで確定します。
若年性ポリープの診断には、内視鏡検査で若年性ポリープを確認することが必要です。また、遺伝子検査によって関連する遺伝子の病的バリアントを特定することで診断を確定します。ポリープの臨床的な特徴や分布も診断の手がかりとなります。
炎症性ポリープは内視鏡検査でポリープを確認し、組織学検査で粘膜固有層の炎症細胞浸潤を特徴として確認することで診断されます。
大腸ポリポーシスの治療
家族性大腸腺腫症は大腸がんのリスクが高いため、大腸全摘術が標準的な治療法となります。治療には遺伝カウンセリングが含まれ、家族への検査や疾患リスクの説明が重要です。予防的大腸切除は20歳代で行われることが多いのですが、術後に回腸嚢に腺腫が発生したり、様々な臓器に腫瘍が発生したりするリスクがあるので、残存腸管や全身のサーベイランスが必要となります。治療しない場合、40歳で約半数、60歳までにはほぼ全員が大腸がんを発症します。
若年性ポリポーシス症候群では、ポリープを内視鏡的または外科的に切除する治療が中心です。蛋白漏出性胃腸症や腸重積などの合併症がある場合は、それらへの対応が求められます。また、家族歴がある場合は、遺伝カウンセリングや検査が必要です。
Peutz-Jeghers症候群では、腸重積や腸閉塞を予防するために、内視鏡的または外科的にポリープを切除します。この疾患では大腸以外にも悪性腫瘍が発生するリスクが高いため、定期的なスクリーニングも欠かせません。
炎症性ポリポーシスの治療は、潰瘍性大腸炎やCrohn病といった背景疾患の適切な管理が中心です。ポリープ自体は悪性化しないことが多いため直接の治療は不要ですが、背景疾患の治療がポリープの発生抑制に役立ちます。
大腸ポリポーシスになりやすい人・予防の方法
大腸ポリポーシスでは、診断に基づき内視鏡検査やポリープ切除、必要に応じた腸管切除が必要です。
家族性大腸腺腫症は、20歳代での予防的大腸切除術が一般的で、術後も定期的なサーベイランスが推奨されます。
若年性ポリポーシス症候群では、12~15歳ごろから内視鏡検査を開始し、ポリープが認められた場合は毎年、認められなかった場合は2~3年ごとの検査が推奨されます。
Peutz-Jeghers症候群は、8歳で初回の内視鏡検査を行い、ポリープがあれば1~3年ごと、なければ18歳以降3年ごとに検査を行います。
また、炎症性ポリポーシスは基礎疾患である潰瘍性大腸炎やCrohn病の適切な管理が重要となります。
関連する病気
- 家族性大腸ポリポーシス
- リンチ症候群
- 大腸癌
参考文献
- 消化管ポリポーシス|慶應義塾大学病院 KOMPAS
- 三島/好雄, 八重樫/寛治, 大腸ポリポーシス 総説・統計・治療. 日本大腸肛門病学会雑誌. 1987; 40(6): 689-698.
- 黒田敏彦, 武藤徹一郎, 総説. 大腸ポリポーシス. 日本消化器病学会雑誌. 1994;91(9):1383-90.
- 近谷賢一, 母里淑子, 鈴木興秀, 石田秀行. 3. 消化管ポリポーシス (1) 総論 (疫学他). 日本臨牀. 2022;80(増刊号7):218-24.
- 中山佳子. 3. 消化管ポリポーシス (6) 若年性ポリポーシス症候群. 日本臨牀. 2022;80(増刊号7):247-51.
- 穂苅量太. 消化管ポリポーシス (FAPを除く). 日本医事新報. 2022(5122):44-5.
- 日本消化器病学会 大腸ポリープ診療ガイドライン2020(改訂第2版)