

監修医師:
長田 和義(医師)
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2012年、長崎大学医学部卒業。消化器内科医として、複数の総合病院で胆膵疾患を中心に診療経験を積む。現在は、排泄障害、肛門疾患の診療にも従事。診療科目は消化器内科、肛門科。医学博士、日本内科学会認定内科医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。
目次 -INDEX-
急性胃拡張の概要
急性胃拡張とは、胃や腸に閉塞がないにも関わらず、胃が進行性に著しく拡張する(広がる)状態をいいます。 この状態では、胃内に食べ物や液体、ガスなどが過剰に溜まり、胃の正常な運動が阻害されて内容物が十二指腸へ排出されなくなります。最悪の場合、胃壁の血流が低下し、組織が壊死して胃の穿孔や全身性の感染(敗血症)など、命に関わる重篤な合併症を引き起こすことがあります。急性胃拡張の原因
急性胃拡張の原因には、さまざまな要因が関与しています。 まず、何らかの原因で胃の中に食べ物や液体が多量に溜まることで、胃の壁が全体的に異常なほど引き延ばされます。そうすると副交感神経という消化管を動かすための神経伝達が麻痺したり、小腸が下に引き延ばされたり胃から圧迫されることで十二指腸が狭くなるなどして、胃から十二指腸・小腸へ内容物が進まなくなります。胃に内容物がある限り胃液が分泌されますので、さらに胃の中の圧力が高まり悪循環となります。 胃の内容物が溜まって滞る原因には、下記のようなものが考えられます。過食や急激な摂食
一度に大量の食べ物を摂取することで、胃の容量を超える負担がかかり、胃が急激に拡張することがあります。特に、消化の遅い高脂肪食品や大量の炭酸飲料を摂取した場合にリスクが高まります。胃の運動障害
胃の筋肉が正常に機能しない場合、食べ物や液体が胃内に停滞し、胃拡張を引き起こすことがあります。糖尿病による自律神経障害や、胃の動きを鈍らせるような薬剤、ウイルス感染症が原因となる場合があります。精神的ストレス
強いストレスは、自律神経系を介して胃の運動を抑制することがあります。これにより胃内容物が停滞し、急性胃拡張を引き起こす可能性があります。精神疾患
食べる量を適切にコントロールできない過食症の人、または統合失調症や重度の精神発達遅滞で消化管の運動障害が強い人などは、急性胃拡張のリスクと考えられます。手術後の影響
消化管などの手術後に、胃の運動が一時的に低下することがあります。この場合、術後回復期に急性胃拡張を引き起こすリスクがあります。上腸間膜(SMA)症候群
十二指腸の水平脚と呼ばれる部分は、大動脈と上腸間膜動脈の間を走行しています。十二指腸水平脚がこの2つの動脈から圧迫され、食物の通過が妨げられる状態を、SMA症候群といいます。SMA症候群が急性胃拡張の直接的な原因になることがあり、また胃が拡張することで十二指腸の圧排が強くなり、悪循環に関わることもあります。痩せていてこの部分の脂肪が少ない人や、生まれつきこの部分の角度が狭い人に発生しやすいとされています。仰向けになると圧迫が強くなるため症状が悪化し、四つん這いや左横向きになると症状が軽くなるという特徴があります。胃捻転
ごく稀に、胃が捻じれるように回転して食べ物が通らなくなることで、急性胃拡張の状態になることがあります。急性胃拡張の前兆や初期症状について
急性胃拡張の初期症状は、下記のようなものが考えられます。一度にたくさん食事を摂った後などに、下記のような症状が急激かつ強く出現する場合には、消化器内科または救急科への受診が望まれます。 腹部膨満感 胃が膨らむことで、お腹の圧迫感や張り、不快感を感じます。 吐き気・嘔吐 胃内に蓄積した食べ物やガスが排出されないことで、吐き気や嘔吐が生じます。場合によっては大量の嘔吐を繰り返すことがあります。胃酸が食道に炎症を起こすことで、胸やけ感を感じる場合もあります。 腹痛 みぞおちや上腹部、あるいは腹部全体や胸に痛みを感じる場合もあります。 食欲不振 胃の膨満感や不快感が続くため、食欲が低下します。急性胃拡張の検査・診断
急性胃拡張については、診断を行うと同時に重篤な合併症の兆候がないかを評価することが重要です。身体診察
腹部の膨満や圧痛、緊満感(圧が高まって緊張した状態)の有無などを確認します。また、血圧や脈の異常、冷や汗や意識レベルの変化など、ショック状態の兆候がないかについても確認を要します。血液検査
血液検査で急性胃拡張を診断するわけではないですが、血管内脱水や電解質(ミネラル)異常、感染、消化管出血、消化管壊死の兆候などの評価に重要です。腹部X線写真(レントゲン)
胃が拡張している状態を、ある程度評価できます。また、胃の減圧目的の胃管が正しく挿入されているかの確認や、経過観察にも用いられます。腹部CT検査
胃拡張の程度、原因、合併症などの評価が可能です。胃や腸の血流障害の有無、またSMA症候群の関与を評価するためには、血管内に造影剤を注射してCTを撮る造影CTを行う必要があります。ただし、造影CTは造影剤へのアレルギーがある人、重度の腎機能障害がある人などでは行えない場合があります。急性胃拡張の治療
保存的治療
過食などが原因が単純で症状や胃拡張の程度が軽く、バイタルサイン(血圧や脈拍)の異常や合併症の兆候がみられない軽症の場合は、絶食での安静や点滴による補液のみで改善する可能性があります。胃の拡張が著明であったり症状が強い場合、またはSMA症候群など持続的となり得る異常によって胃拡張が起きている場合には、鼻から胃管といわれるチューブを胃の中まで挿入して、内容物を持続的に排出させて胃の圧力を低下させます。このような場合は、体液が失われるため十分な補液が必要です。薬物治療
急性胃拡張自体に対する薬物療法のエビデンスはありません。胃酸逆流による症状に対しては、胃酸分泌を抑える薬(プロトンポンプインヒビター)が投与されることがあります。また、血流障害などによる細菌感染の兆候がみられる場合には、抗菌薬(抗生物質)を投与する場合があります。重症でショック状態となっている場合などは、ショックに対する薬物療法を要します。内視鏡治療
胃拡張の原因や粘膜障害の評価を行う必要があるときなど、内視鏡(胃カメラ)を行う場合がありますが、内視鏡では固形物の回収までは困難であり、胃の圧力を下げる治療にはならない可能性があります。なお、胃の捻転が原因となっている場合は、レントゲンを見ながら内視鏡を操作することで、捻転した状態を整復する(元に戻す)ことが可能な場合があります。外科的治療(手術)
胃の血流障害や穿孔による腹膜炎を起こしてしまった場合などは、外科手術が必要となることがあります。手術の内容は、原因や合併症の状況によって判断されます。急性胃拡張になりやすい人・予防の方法
下記のような人が、急性胃拡張のリスクと考えられます。- 大量の食事を一度に摂る習慣がある人。
- 糖尿病などで胃の運動機能が低下している人。
- 精神的ストレスを多く抱えている人。
- 過食症や、統合失調症などの精神疾患を持つ人。
- 消化管の手術後に回復期にある人。
- 標準体重以下の人。(SMA症候群のリスク)




