

監修医師:
大坂 貴史(医師)
ジアルジア症の概要
ジアルジア症は、ランブル鞭毛虫 (Giardia intestinalis) による感染症です。この寄生虫はシストと呼ばれる形態で水や食物を介して体内に入り、腸の粘膜で活動を開始します。塩素処理にも耐え、汚染された飲食物のほか水道水から感染するほか、男性間性交渉も感染経路の一つです (参考文献 1) 。
有症状の場合には下痢が必発で、腹痛や嘔吐下痢のような腹部症状がメインです。発熱や血便は一般的に見られません。免疫不全の背景がある場合には重症化することがあります。糞便検査で栄養型ジアルジアの存在を確認することで診断し、抗寄生虫薬のメトロニダゾールで治療します。
流行地域へ渡航する際に手洗いを徹底することや、十分な加熱処理をされた飲食物を摂取することが予防に重要です。性感染症の側面もあるため、コンドームの使用も感染リスクを下げる手段です。
ジアルジア症の原因
ジアルジア症は、ランブル鞭毛虫 (Giardia intestinalis) という寄生虫が原因で引き起こされる感染症です。この寄生虫はシスト (硬い殻で覆われた形態) の状態で水や食物を介して人の体内に入り、腸の粘膜で活動を始めます。シストは環境中で非常に強い耐久性を持ち、塩素処理された飲料水やプールでも生き残ることがあるため、感染が広がりやすい特徴があります (参考文献 1) 。
感染経路としては、汚染された水や食物の摂取のほかに、感染者との性交渉で感染することがあり、男性間性交渉での感染例が多いです (参考文献 2, 3) 。
ジアルジア症の前兆や初期症状について
ジアルジア症は、感染してもすぐに症状が出るわけではありません。潜伏期間は一般的に1~3週間程度で、消化器症状がメインです。
有症状の場合は下痢は必発で、これに加えて腹痛、腹部膨満感、吐き気、嘔吐が見られるほか、腐った卵のような匂い (硫化水素臭) が強いおならが特徴とされています (参考文献 1-3) 。
ジアルジアは腸の表面にくっつきますが、それより深いところには入り込みません。そのため発熱や血便といった症状がないことも特徴といえます (参考文献 2, 3) 。
これらの症状がある人はお近くの内科を受診してください。後述するジアルジア感染リスクの高い行動・生活をしていた方は、その旨を医師に伝えると診察がスムーズです。また、ジアルジアは他の感染症と一緒に発症する例も多く報告されていて、これらの感染症にはジアルジアよりも重症化しやすいものがあります。「低所得国への渡航・不衛生な飲食物の摂取・性交渉」は多くの感染症のリスクとして知られているので、渡航後に体調が崩れれば遠慮せずに病院を受診しましょう。
ジアルジア症の検査・診断
ジアルジア症は、便や十二指腸液、胆汁を採取し、顕微鏡で活動するジアルジアの存在を証明することで診断します (参考文献 3) 。
ジアルジア症の治療
ジアルジア症の治療には、抗寄生虫薬が使用されます。日本で保険適用となっているのはメトロニダゾールという薬剤です (参考文献 2, 3) 。
薬の投与は通常1週間程度で終了しますが、免疫不全が背景にある場合には難治性となる場合があり、投薬期間が伸びるほか、治療後の経過観察が必要になります (参考文献 3) 。
ジアルジア症になりやすい人・予防の方法
ジアルジアは世界中に分布していて、先進国でも感染リスクがあります。低所得国の小児の多くが感染しているほか、アメリカでは年間1万件、日本でも年間100例前後の患者報告があります (参考文献 3) 。
日本におけるジアルジア症の主なリスクファクターは、「南アジア、東南アジア、北アフリカ、カリブ諸国、南アメリカへの渡航」とされています (参考文献 2) 。ジアルジアの嚢子は非常に頑丈という特徴があり、塩素消毒では死滅せず、消毒には60℃以上数分の加熱が必要です (参考文献 2) 。
ジアルジアの主な感染経路である飲食物を介した感染のリスクを低減させるため、流行地域では生野菜の摂取はなるべく避け、加熱処理された食べ物を摂取しましょう。水道水ではなくボトルウォーターを飲むことも予防になります。先天性の免疫不全やHIV感染者では治療に難渋することがあるほか重症化リスクも高いため、予防には特に気を使いましょう。
感染症の基本的な対策である手洗いは無論有効です。ジアルジアは感染力が非常に強く、10〜25個程度の嚢子により人に感染することが確認されています (参考文献 1) 。知らない間に汚染されているものに触れ、ジアルジアのついた手を介して口に入ってしまえば、飲食物自体が衛生的でも感染が成立します。流行地へ渡航する際には、普段以上に食事前の手洗いには気を払いましょう。
汚染された飲食物の他には男性間性交渉がリスクとして知られています (参考文献 1) 。海外での男性間性交渉は他の感染症の感染リスクともオーバーラップし、実臨床ではジアルジアと赤痢菌・赤痢アメーバ・病原性大腸菌との混合性感染が少なくありません (参考文献 1) 。 性交渉の際には粘膜を介した感染リスクを低減させるため、コンドームを使用してください。
関連する病気
- 腸管感染症
- クリプトスポリジウム症
- アメーバ赤痢
参考文献