

監修医師:
林 良典(医師)
腸結核の概要
腸結核は、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)によって引き起こされる感染症で、消化管、特に小腸や大腸に病変が発生する疾患です。
結核菌は肺を中心に感染を引き起こすことが知られていますが、血流やリンパ系を通じて腸に到達することで腸結核が発生します。肺結核に続発することが多く、患者さんの中には同時に肺結核を有する場合もあります。日本における腸結核の発生頻度はほかの結核感染症と比較して少ないものの、特に高齢者や免疫抑制状態の患者さんで注意が必要です。男女比に明確な差はないとされていますが、発生年齢層は比較的高齢者に集中しています。
結核菌は、細菌の一種であり、特に衛生環境が整備されていない地域で広がりやすい特徴があります。腸結核では、腸壁に炎症性病変や潰瘍、瘢痕化、狭窄が生じることがあり、これが消化管の機能を妨げる要因となります。早期に診断して治療を開始することが重要です。さらに、腸結核はほかの結核関連疾患と異なり、慢性的な経過をたどることが多く、長期間にわたる管理が必要となる場合があります。
腸結核の原因
腸結核の主な原因は、結核菌による感染です。この菌は主に飛沫感染によって広がります。たとえば、結核患者さんが咳やくしゃみをした際に放出された菌を吸い込むことで感染することがあります。体内に入った結核菌は、免疫が十分に働かない場合、痰に含まれる菌を飲み込むことで腸に届いたり、血液やリンパ液を通じて腸管に運ばれたりします。その結果、菌が腸の壁に付着して増殖を始めるのです。
また、汚染された食物や飲料を摂取することによって、直接腸管に菌が侵入する経路も存在します。このような経路は、特に発展途上国など衛生状態が十分でない地域で問題となります。結核菌群の一種である Mycobacterium bovis(ウシ型結核菌)は、加熱処理されていない乳製品に含まれることがあります。そのため、食品の取り扱いや適切な加熱処理が重要です。
さらに、免疫機能が低下している場合や長期間のステロイド治療を受けている場合など、感染リスクが増加します。具体的には、HIV感染症を持つ人、糖尿病患者、慢性疾患を有する人がリスクグループに挙げられます。これらの人々は特に注意が必要です。また、喫煙や栄養不良なども腸結核のリスク因子とされています。
腸結核の前兆や初期症状について
腸結核の初期症状は非特異的であり、さまざまなほかの疾患と類似しています。典型的な症状には、持続的な腹痛、下痢または便秘、体重減少、発熱などがあります。これらの症状は、単なる消化不良や過敏性腸症候群とも勘違いされやすいため、適切な医療機関での診察が重要です。
特に右下腹部の痛みは、腸結核の特徴的な症状の一つです。この部位には回盲部が位置し、結核菌がこの部位に病変を引き起こしやすい傾向があります。また、腸閉塞や腸管出血などの重篤な症状が現れる場合もあります。
前兆としては、微熱や倦怠感が数週間以上続くことがあります。また、腹部の膨満感や食欲不振も見られることがあります。これらの症状が続く場合、消化器内科や感染症内科を受診することをおすすめします。さらに、長期間にわたる腹部不快感や貧血、夜間発汗なども腸結核の可能性を示唆する症状として挙げられます。
腸結核の検査・診断
腸結核の診断には、臨床症状の確認に加えて複数の検査が必要です。最初に行われることが多いのは、血液検査と画像検査です。血液検査では、炎症の指標であるCRP値の上昇や貧血の有無が確認されます。また、ツベルクリン反応やインターフェロンγ遊離試験(IGRA)などが用いられることがあります。ただし、IGRAは既往感染と最近の感染を区別することができず、ツベルクリン反応はBCG接種や非結核性抗酸菌の影響で陽性になる場合があるため、これらの検査は補助的に行われることがあります。
画像検査としては、X線、CTスキャン、MRIが用いられます。特に回盲部の狭窄、リンパ節の腫大、腸管壁の肥厚などの所見は腸結核を示唆する重要な手がかりとなります。内視鏡検査では、潰瘍性病変や瘢痕組織が観察されることがあり、病変部からの生検により組織診断が行われます。病理組織検査では、抗酸菌染色やPCR法を用いて結核菌の存在を確認します。
鑑別診断としては、クローン病、腸炎、腫瘍性疾患などが挙げられます。これらの疾患は腸結核と類似した症状を引き起こすため、詳細な検査が必要です。特にクローン病は回盲部に病変を形成する点で腸結核と似ているため、注意が必要です。また、腸結核は長期間無症状の状態が続くことがあるため、慢性の腹部症状を持つ患者さんでは診断を見逃さないよう慎重なアプローチが求められます。
腸結核の治療
腸結核の治療は主に抗結核薬による薬物療法が中心です。代表的な薬剤には、イソニアジド(INH)、リファンピシン(RFP)、ピラジナミド(PZA)、エタンブトール(EB)などがあります。これらの薬剤は結核菌の細胞壁合成やタンパク質合成を阻害することで効果を発揮します。
治療の方法としては、肺結核と同様に、リファンピシン+イソニアジド+ピラジナミド+エタンブトールを2ヶ月間投与し、その後リファンピシン+イソニアジドを4ヶ月
間投与するのが一般的です。治療期間は通常6ヶ月から9ヶ月程度です。
治療効果の判定には、内視鏡検査で腸管潰瘍の消失を確認する方法が用いられます。ただし、効果判定を行う適切な時期については明確な基準がありませんが、治療開始から2ヶ月後に内視鏡検査を実施した報告が多いとされています。
治療の成功には、処方された薬を指示通りに服用し続けることが重要です。不適切な服薬は薬剤耐性菌の出現につながるリスクがあります。さらに、治療期間中は定期的に医療機関を受診し、副作用の有無を確認しながら治療を続ける必要があります。
重症例や腸閉塞などの合併症を伴う場合には、外科的治療が必要となることもあります。具体的には、狭窄部の切除や腸管吻合術が行われる場合があります。また、全身状態を改善するための栄養管理や、支持療法も重要な役割を果たします。
腸結核になりやすい人・予防の方法
腸結核にかかりやすい人は、免疫機能が低下している人、結核の既往歴がある人、または結核患者さんとの接触歴がある人です。また、HIV感染症や糖尿病などの慢性疾患を持つ人もリスクが高いとされています。高齢者や栄養状態の悪い人も特に注意が必要です。
予防のためには、BCGワクチンの接種が有効です。BCGワクチンは、結核菌に対する免疫を強化し、感染を防ぐ役割を果たします。さらに、結核患者さんとの接触を避けることや、手洗いや消毒を徹底することも感染予防に重要です。
医療施設や感染リスクが高い環境では、適切な感染対策を講じる必要があります。これには、換気の改善やN95マスクの使用などが含まれます。また、健康診断やスクリーニング検査を定期的に受けることで、早期発見と早期治療が可能となります。特に、結核患者さんが周囲にいる場合は、予防的治療を検討することもあります。衛生的な生活環境を維持することや、十分な栄養摂取による免疫力の強化も腸結核の予防に寄与します。
関連する病気
- 結核性腹膜炎
- クローン病
- 消化管出血
参考文献