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食道狭窄
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

食道狭窄の概要

食道狭窄(しょくどうきょうさく)とは、口から胃へと食べ物を運ぶ管である食道の一部が細くなり、食べ物や飲み物がスムーズに通過できなくなる状態を指します。食道は長さ約25センチの管状の臓器で、通常は柔軟に広がりながら食物を胃へと送り込みます。しかし、炎症や腫瘍、瘢痕(はんこん)といった原因によって一部が狭くなると、飲み込みにくさや胸のつかえ感が生じます。軽症であれば固形物だけが通りにくくなりますが、進行すると水分すら飲み込みにくくなり、生活に大きな支障をきたすことがあります。

食道狭窄は小児から高齢者まで幅広い年齢層で起こり得ますが、その原因や背景には年齢や生活習慣が影響することが多く、病態は多様です。放置すると栄養障害や誤嚥性肺炎などの合併症を招く恐れがあるため、早期に診断して適切な治療を行うことが大切です。

食道狭窄の原因

食道狭窄を引き起こす原因はさまざまですが、大きく分けると「良性のもの」と「悪性のもの」に分かれます。良性の原因として最も多いのは、逆流性食道炎や薬剤による炎症の後に食道に瘢痕が形成されるケースです。胃酸が繰り返し食道に逆流することで粘膜が傷つき、治癒過程で硬い組織が生じると、食道の内腔が狭まってしまいます。また、強い腐食性の薬品や熱い液体を誤って飲み込んだ場合にも、急性の炎症から瘢痕性の狭窄が起こることがあります。

一方で、悪性の原因としては食道がんが代表的です。食道にできた腫瘍が管の内側にせり出すことで、物理的に通り道をふさぎ、狭窄を引き起こします。特に中高年で、飲み込みにくさが徐々に悪化していく場合には、がんを念頭に置いた検査が必要となります。

その他にも、先天的に食道が細い小児の症例や、放射線治療後の影響、食道手術後の合併症として狭窄が生じることもあります。

食道狭窄の前兆や初期症状について

食道狭窄の初期には、「食べ物が胸に引っかかる感じ」や「固形物を飲み込むときに時間がかかる」といった違和感が現れます。これらは最初は一時的で軽度のことも多く、やわらかいものや水分であれば通るため、見過ごされがちです。しかし、徐々に狭窄が進行すると、柔らかい食べ物や液体でもつかえるようになり、飲み込みそのものが困難になります。

症状が進むと、摂取量が減少して体重減少や栄養不良につながります。また、うまく飲み込めない食べ物が気管に入ってしまい、咳き込んだり、誤嚥性肺炎を起こしたりすることもあります。胸や喉の痛み、声のかすれといった症状が伴う場合には、がんや重度の炎症が背景にある可能性があり、注意が必要です。

このように、初期には些細な違和感として始まり、次第に食生活や健康に重大な影響を及ぼすのが食道狭窄の特徴です。

食道狭窄の検査・診断

食道狭窄が疑われる場合、最初に行われるのは上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)です。内視鏡を挿入して食道を直接観察することで、どの部位がどの程度狭くなっているのか、粘膜に炎症や腫瘍がないかを確認します。同時に、組織を採取して顕微鏡で調べる「生検」を行うことで、がんの有無を正確に診断できます。

また、バリウムを用いた食道造影検査も有用です。バリウムを飲んでX線を撮影することで、食道の通過状態を客観的に評価できます。狭窄の範囲や長さ、通過の程度を把握するのに適しています。

さらに、食道の動きそのものを評価するために「食道内圧検査」が行われることもあります。これは、食道の筋肉の収縮や協調運動に異常がないかを調べる検査で、機能性の狭窄が疑われる場合に有用です。

このように複数の検査を組み合わせることで、原因を突き止め、最適な治療方針を決定していきます。

食道狭窄の治療

食道狭窄の治療は原因によって異なりますが、基本的には「食道を広げる」ことと「原因を取り除く」ことの二つが柱となります。良性の瘢痕性狭窄の場合、内視鏡を用いた拡張術がよく行われます。バルーンやブジーと呼ばれる器具を用いて、狭くなった部分を少しずつ広げる方法です。これにより食べ物の通過が改善し、症状が和らぎます。ただし、再び狭くなることも多いため、繰り返し処置が必要になる場合もあります。

薬物療法としては、逆流性食道炎が原因の場合、胃酸を抑える薬を長期的に使用することで再発を防ぎます。炎症を抑える治療と並行して拡張術を行うことで、症状のコントロールがしやすくなります。

一方で、食道がんによる狭窄では、根本的な治療として手術、放射線療法、化学療法が選択されます。進行していて手術が難しい場合には、内視鏡でステントと呼ばれる金属の筒を食道に留置し、食べ物の通過を確保する方法がとられることもあります。これは緩和ケアの一環として、生活の質を保つために重要な手段です。

このように、治療は患者さんの年齢や全身状態、原因疾患の種類や進行度によって大きく異なるため、専門医と十分に相談することが不可欠です。

食道狭窄になりやすい人・予防の方法

食道狭窄になりやすい人にはいくつかの傾向があります。まず、慢性的に逆流性食道炎を繰り返している人は、炎症による瘢痕で狭窄を起こしやすいといわれています。また、食道がんのリスクが高い人、つまり喫煙や多量の飲酒を続けている人、野菜や果物の摂取が少ない人、熱い飲み物を好む人も注意が必要です。放射線治療や手術で食道に操作が加わった人も、瘢痕狭窄を生じやすいとされています。

予防のためには、まず逆流性食道炎の適切な治療が欠かせません。胃酸逆流を防ぐために、就寝前の食事を控える、脂っこいものや刺激物を減らす、体重を適正に保つといった生活習慣の工夫が役立ちます。また、禁煙と節度ある飲酒も重要です。

さらに、食道がんを早期に見つけるための定期的な内視鏡検診は、狭窄の予防や早期治療に直結します。特にリスクの高い人は、医師と相談しながら定期的な検査を受けることが推奨されます。

まとめ

食道狭窄は、食道が細くなることで食べ物や飲み物の通過が妨げられる病気であり、その背景には良性から悪性まで多様な原因が隠れています。初期には軽い飲み込みにくさから始まりますが、進行すると生活の質を大きく損なうことがあります。正しい診断と原因に応じた治療によって改善が期待できるため、異変を感じたら早めに専門医を受診することが大切です。

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