

監修医師:
大越 香江(医師)
肛門狭窄の概要
肛門狭窄は、肛門が異常に狭くなることで便の排出が困難になる疾患です。この状態は、排便時の痛みや、便が細くなる、便秘、などの症状を引き起こし、軽度から重度までさまざまな程度があります。いずれの場合も共通の問題として排便困難が挙げられ、患者さんの生活の質に大きな影響を及ぼします。
この疾患は、小児では先天性の鎖肛(直腸や肛門の形成異常)の一部として現れる場合があります。一方、成人では裂肛(切れ痔)の慢性化や痔の手術後の瘢痕形成、炎症性腸疾患が主な原因として挙げられます。これらの要因が肛門部の組織を硬化させ、狭窄を引き起こすことが知られています。
症状が軽度の場合、食事内容の改善や薬物療法による対症療法で症状を緩和することが可能です。しかし、重度の狭窄では、外科的治療が必要となることがあり、肛門形成術や瘢痕組織の切除が行われることがあります。
肛門狭窄の原因
成人における肛門狭窄の主な原因は、裂肛の慢性化、外傷、または痔核手術後に形成される瘢痕組織です。瘢痕組織は肛門やその周辺に硬く伸縮性のない線維の層を作り、肛門を狭くしてしまいます。この状態は、内括約筋(不随意筋)の硬化を引き起こし、排便をさらに困難にします。
その他の原因として、性感染症や直腸感染症が挙げられます。性感染症にはクラミジア、性器ヘルペス、ヒトパピローマウイルス、梅毒、淋病、A型・B型肝炎、HIVなどが含まれます。
また、炎症性腸疾患や下剤の過剰使用、肛門がん治療で行われる放射線療法も瘢痕組織の形成を引き起こし、肛門狭窄の原因となる可能性があります。
これらの要因は直接的に肛門狭窄を引き起こすわけではありませんが、肛門管に瘢痕組織が蓄積することで狭窄が進行します。瘢痕組織は健康な筋肉組織のような柔軟性を持たないため、時間とともに蓄積すると肛門管をさらに狭くし、排便を困難にします。
このような病態のメカニズムを理解することは、肛門狭窄の予防と適切な治療において重要です。
一方、小児における肛門狭窄は、先天性の肛門直腸奇形である鎖肛として現れることがあります。鎖肛は肛門挙筋群(直腸を取り巻く筋肉群)との位置関係から高位、中間位、低位の3型に分類されます。高位や中間位の鎖肛では肛門が形成されておらず、腸閉塞症状を伴うため、新生児期に診断されることが一般的です。しかし、低位鎖肛で完全に閉鎖されていない場合には少量の便が排出されるため、最初は見過ごされることがあります。この場合、乳児期以降に難治性の便秘、排便時出血、漏便、肛門周囲の皮膚トラブルなどが原因で診断されるケースが見られます。
肛門狭窄の前兆や初期症状について
急性裂肛が慢性化して慢性裂肛へ進行する場合、最初は硬い便や頻回の下痢便によって肛門の上皮に浅い裂創が生じ、痛みを伴います。多くの場合、この段階では自然に、あるいは保存的治療によって治癒します。しかし、痛みのために排便を我慢することが続き、便秘が遷延すると悪循環に陥ります。この過程で内肛門括約筋が攣縮し、浅い裂創が深くなり、感染を伴うことで筋層まで炎症が波及することがあります。その結果、内肛門括約筋が硬化し、肛門管上皮が線維化され、さらに肛門狭窄が進行します。
初期の段階では症状が軽微で気づかれにくいことがありますが、多くの場合、時間の経過とともに悪化します。主な症状としては便秘、排便時の痛み、細長い便、排便後の鮮血が挙げられ、これらは患者さんの生活の質を大きく低下させます。また、炎症性腸疾患であるクローン病に関連して肛門狭窄をきたすことが知られており、適切な診断と治療が不可欠です。
症状が現れた際は外科、肛門外科、消化器内科を受診しましょう。
肛門狭窄の検査・診断
肛門狭窄の診断は、小児と成人で異なる手順が必要とされ、それぞれの対象に適した方法が用いられます。症状の原因と重症度を明確にすることは、適切な治療計画を立てるための重要なステップです。
小児の場合、先天性の肛門狭窄が疑われる際には、診断確定のために腹部超音波検査や造影検査、CT、MRIなどの画像検査が実施されますまた、肛門部位に関する異常が疑われる場合には、外肛門括約筋の機能を評価する筋電図検査も行われることがあります。
成人の肛門狭窄では、まず症状や病歴を詳細に聴取し、過去の手術歴や治療歴を確認することが診断の第一歩となります。その後、直腸指診や肛門鏡、直腸鏡検査を通じて、狭窄の部位や程度を評価します。必要に応じて、肛門内圧の測定を行い、肛門括約筋の状態をより詳しく調べることもあります。
肛門狭窄の治療
低位鎖肛に関連する肛門狭窄の治療として、ブジー(肛門拡張術)が用いられることがあります。この処置は、拡張器を用いて肛門を徐々に広げる方法で、1日2回程度、数週間にわたって実施されます。治療は細い拡張器から開始し、少しずつサイズを大きくしながら正常な大きさに戻すことを目指します。しかし、ブジーだけでは十分な改善が得られない場合や症状が重度の場合、時期を見て肛門形成術などの外科的治療が必要になることがあります。
成人の肛門狭窄治療では、まず便通を改善することが重要です。十分な水分摂取を心がけ、整腸剤や軟便剤を使用して自然な便通を回復させることで、肛門の状態を改善できる場合があります。目標とする便の硬さはブリストルスケールで4~5程度であり、この範囲で便通が安定するよう調節を行います。
食事療法や下剤による治療が効果を示さない場合には、ブジーを実施します。それでも改善が見られない場合には、肛門形成術や括約筋切開術などの外科的治療を検討します。
肛門狭窄になりやすい人・予防の方法
排便は、私たちの日常生活において欠かせない基本的な生理現象です。しかし、肛門狭窄の症状があると、排便のたびに苦痛や不快感が伴い、生活の質に大きな影響を及ぼすことがあります。さらに、排便が困難になることで心理的な負担が増し、日常生活が排便の問題に支配されてしまうケースも少なくありません。
先天性の肛門狭窄症の場合でも、早期に診断を受けて適切な治療を行えば、多くのケースで症状が改善される可能性があります。
便秘や排便困難などの症状に気づいた場合は、放置せず早めに医療機関を受診することをお勧めします。適切な治療を受けることで、排便の問題から解放され、健康的で快適な日常生活を取り戻すことができるでしょう。
関連する病気
- 炎症性腸疾患
- 痔核
- 放射線治療後の狭窄
参考文献
- Anal Stenosis: What It Is, Symptoms, Causes & Treatment
- 鎖肛(直腸肛門奇形) | 獨協医科大学埼玉医療センター小児外科
- 肛門疾患・直腸脱ガイドライン
- 低位鎖肛, 肛門狭窄症 – 排便障害の鑑別と治療. 木村俊郎; 渕本康史.小児内科 , 02/2021, 巻 53, 号 2
- [肛門疾患のすべて 解剖から最新治療まで]裂肛・肛門狭窄の診断と治療. 紅谷鮎美; 宮島伸宜; 岡本康介ら.消化器外科 , 08/2024, 巻 47, 号 8