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臍帯ヘルニア
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

臍帯ヘルニアの概要

臍帯ヘルニアは、最も一般的な先天性腹壁欠損症の一つです。臍輪部に発生する正中欠損で、中腸(腸管)やその他の腹部臓器(肝臓、脾臓、性腺など)が飛び出している状態です。飛び出した腹部臓器は、外側の羊膜層、中間のワートン・ゼリー層、内側の腹膜層という3層の被膜に包まれています。
発生頻度は出生10,000件あたり1~2件とされていますが、選択的中絶や胎児死亡を考慮すると、実際の発生頻度はより高く、3,000~4,000件に1件となる可能性があります。この疾患の診断と治療は、1978年に妊娠33週での出生前診断が初めて報告されて以来、大きく進歩してきました。当時は30%以上の死亡率でしたが、現在では出生前診断により適切な管理が可能となっています

臍帯ヘルニアの原因

この疾患は胎児期の腹壁形成過程における異常により発生します。約40~80%の症例で他の先天異常を伴うことが特徴です。関連する先天異常としては心臓(7-47%)、消化器(3-20%)、泌尿生殖器(6-20%)、染色体(3-20%)、筋骨格系(4-25%)、中枢神経系(4-30%)の異常が報告されています。若年または高齢の母体年齢、男児、多胎妊娠との関連が報告されていますが、明確な原因は特定されていません。

臍帯ヘルニアの前兆や初期症状について

臍帯ヘルニアは、出生前の超音波検査で発見されることがほとんどです。1978年に妊娠33週での出生前診断が初めて報告されて以来、現在では妊娠11~14週という早期から診断が可能となっています。母体血清アルファフェトプロテイン(AFP)の上昇が見られた場合は、詳細な超音波検査による評価が必要です。超音波検査では、臍帯の基部や頂部に付着する特徴的な嚢胞性腫瘤として認められ、腹水が存在する場合は、それが膜性の嚢を示す境界となることがあります。

臍帯ヘルニアの検査・診断

主な診断方法は超音波検査であり、妊娠11~14週という早期から診断が可能です。超音波検査では、欠損部の大きさと位置、脱出臓器の種類と量、臍帯の付着部位、腹水の有無、嚢の状態などを評価します。臍帯ヘルニアは腹壁破裂との鑑別が重要です。腹壁破裂でも腹部臓器が体外に露出しますが、いくつかの重要な違いがあります。腹壁破裂では通常、臍帯は皮膚レベルで付着し、多くの場合、欠損部の左側に位置します。一方、臍帯ヘルニアでは臍帯が嚢の下部に付着し、その血管が嚢に沿って胎児に到達します。また、腹壁破裂では被覆膜がなく、腹腔内容積の減少や脊椎前湾がみられることがありますが、臍帯ヘルニアでは3層の被膜に覆われているのが特徴です。両者とも子宮内での臓器のねじれや胎児死亡のリスクがあり、出生後の腹腔内への臓器還納が困難になる可能性があります。
臍帯ヘルニアは発生部位により、上腹部型、臍部型、下腹部型に分類されます。大きさによる分類では、欠損が5cm未満で腸管のみを含む“小型”と、欠損が5cm以上で肝臓を含む“巨大型”に分けられます。特に巨大型の評価では肝臓の脱出の程度が重要で、肝臓の50%以上が脱出している場合を巨大臍帯ヘルニアと定義します。また、胎児の体格に対する欠損の割合も考慮し、横断面での評価で胎児胸郭の50%以上を占める場合も巨大型とされます。MRI検査は欠損の詳細な評価に有用であり、特に巨大型での肺低形成の評価において重要です。通常、肝臓は上腹部に位置することで胸郭の発達を促しますが、肝臓が大きく脱出している場合にはこの効果が失われ、細長い胸郭となることがあります。MRIでは肝臓脱出の程度の正確な評価、肺容積の測定、胸郭の発達状態の評価、腎臓の位置異常の確認などが可能です。さらに、染色体検査も重要であり、絨毛採取や羊水検査が推奨されます。

臍帯ヘルニアの治療

治療方針は、欠損の大きさと合併症の有無によって決定されます。小さな欠損(5cm未満)と巨大欠損(5cm以上)で治療方針が異なります。特に、巨大欠損で肝臓が含まれる場合は、より慎重な管理が必要となります。
分娩方法に関しては、小さな欠損の場合は経腟分娩も可能ですが、巨大欠損の場合は帝王切開が推奨されます。これは、腹部の圧迫による臓器損傷を防ぐためです。妊娠合併症がない限り、早産での分娩は推奨されません。
出生後の治療は、新生児集中治療室(NICU)での管理が必要です。特に、巨大欠損の場合は呼吸管理が重要となります。これは、腹腔内容積の減少により、肺の発育が制限される可能性があるためです。
現時点では胎児治療の適応はありませんが、出生前診断により適切な周産期管理計画を立てることが可能です。分娩は新生児外科医、産科医、新生児科医による多職種チームが対応可能な三次医療機関で行うことが推奨されます。

臍帯ヘルニアになりやすい人・予防の方法

臍帯ヘルニアになりやすい人

この疾患は、若年または高齢の母体年齢、男児、多胎妊娠との関連が指摘されています。また、染色体異常を伴う場合も多いため、妊娠初期からの慎重な管理が重要です。予後は合併奇形の有無により大きく異なります。染色体異常がなく、他の合併奇形を伴わない孤立性の場合、生存率は97%と良好です。一方、他の異常を伴う場合は予後が悪化します。小さな欠損の場合、むしろ合併奇形を伴うことが多いため、注意が必要です。

予防の方法

予防法は確立されていませんが、早期発見により適切な周産期管理が可能となります。特に重要なのは、専門施設での定期的な妊婦健診です。出生前診断により、分娩方法の選択や出生後の治療計画を適切に立てることができます。合併症のリスクを考慮すると、妊娠中の胎児の状態を定期的に評価することが重要です。特に、巨大欠損例では肺の発育状態の評価が重要となります。

関連する病気

  • ベックウィズ・ヴィーデマン症候群
  • カントレル五徴候
  • 十二指腸閉鎖症
  • 小腸閉鎖症
  • ヒルシュスプルング病
  • 心房中隔欠損症
  • 腹壁破裂

参考文献

  • Klein MD. Congenital defects of the abdominal wall. In: Coran AG, Adzick NS, eds. 7th ed. Pediatric Surgery, I, Philadelphia, PA: Elsevier Saunders; 2012:973-984.
  • Marshall J, et al. Prevalence, correlates, and outcomes of omphalocele in the United States, 1995-2005. Obstet Gynecol. 2015;126(2):284-293.
  • Tassin M, et al. Omphalocele in the first trimester: prediction of perinatal outcome. Prenat Diagn. 2013;33(5):497-501.
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  • Heider AL, et al. Omphalocele: clinical outcomes in cases with normal karyotypes. Am J Obstet Gynecol. 2004;190(1):135-141.

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