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後腹膜腫瘍
大越 香江

監修医師
大越 香江(医師)

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京都大学医学部卒業。大学病院での勤務を経て、一般病院にて大腸がん手術を中心とした消化器外科および一般外科の診療に従事。また、院内感染対策やワクチン関連業務にも取り組み、医療の安全と公衆衛生の向上に寄与してきた。女性消化器外科医の先駆者として、診療や研究に尽力している。消化器疾患の診療に関する研究に加え、医師の働き方や女性医師の職場環境の改善に向けた研究も行い、多数の論文を執筆している。日本外科学会専門医・指導医、日本消化器外科学会専門医・指導医。

後腹膜腫瘍の概要

腹部の消化管や肝臓などを全部または一部包み込んでいる膜を腹膜と呼び、その腹膜よりも背中側にある臓器を「後腹膜臓器」と呼びます。「後腹膜臓器」には、腎臓、尿管、膀胱などの泌尿器系の臓器や、一部の消化管や腹部大動脈・下大静脈といった大血管などが含まれます。 後腹膜腫瘍とは、この後腹膜領域に発生する腫瘍の総称であり、ひとつの病気を指すものではありません。発生する組織により、多数の種類が存在します。主に非上皮性細胞(脂肪、筋肉、血管、リンパ管、骨、神経など)から発生する腫瘍が多いことが特徴です(いわゆる胃がんや大腸がんなどの「癌(がん)」は、上皮性細胞由来の悪性腫瘍です)。悪性腫瘍としては、悪性リンパ腫や脂肪肉腫、平滑筋肉腫、線維肉腫などの肉腫があり、良性腫瘍としては、神経鞘腫、血管腫、脂肪種、奇形腫などがあげられます。良性後腹膜腫瘍の中には治療を必要としない種類もあります。

「後腹膜腫瘍」という名称は、病気の種類をあらわした名前というより、あくまでも後腹膜に発生した腫瘍を指す総称です。稀といえる疾患で、年間の新規発症者数は10万に1人程度とされています。

後腹膜腫瘍の原因

後腹膜腫瘍とひとことで言っても発生組織によってさまざまな種類があり、それぞれの腫瘍によって原因は異なります。また、原因がはっきりわからない腫瘍もたくさんあります。

後腹膜腫瘍の中で頻度が高い腫瘍としては、肉腫(サルコーマ)、悪性リンパ腫などが挙げられます。 肉腫(サルコーマ)は一般的に、筋肉、脂肪、骨や神経といった組織から発生する悪性腫瘍で手や足に発症する頻度が多い疾患ですが、後腹膜にも発生することが知られています。肉腫の明瞭な原因は明らかになってはいませんが、遺伝子の異常が多数報告されているため、遺伝子の変異が原因となっていると考えられています。悪性リンパ腫の原因もリンパ球に遺伝子異常が生じて起こりますが、その原因ははっきりわかっていません。

後腹膜腫瘍の前兆や初期症状について

初期には症状が現れないことが多く、早期発見することは困難です。腫瘍が大きくなると周辺臓器を圧排するようになり、腫瘍の増大に伴っていろいろな症状が出現します。圧排された臓器により、腹部膨満、腹痛、嘔気、嘔吐、便秘、排尿障害などの症状があらわれます。症状が出現するようになってから発見された腫瘍は、腹部の半分以上を占める大きさまで巨大化していることもあります。 また、ほかの疾患に対して施行した画像検査(腹部超音波検査やCT・MRIなど)で偶然発見されることもあります。

まずは現れた症状に応じて診療科を受診し(排尿障害であれば泌尿器科、腹痛や嘔気、嘔吐、便秘などの消化器症状であれば消化器内科など)、検査を受けます。画像検査などによって後腹膜腫瘍と診断された場合、腫瘍が発生した組織によって治療を担当する診療科を紹介してもらうことになります。

後腹膜腫瘍の検査・診断

後腹膜腫瘍の治療方針を検討するためには後腹膜腫瘍が良性腫瘍なのか悪性腫瘍なのか、またその組織型について診断を確定する必要があります。 血液検査(腫瘍マーカーを含む)や一般的な画像検査(腹部超音波検査やCT・MRIなど)に加えて特殊な画像検査(PET-CTやシンチグラフィなど)の結果を総合的に見て診断します。

血液検査・画像検査で診断がつかない場合には、放射線科でCTガイド下に針生検を行い、病理組織学的検査を行うこともあります。CTガイド下針生検とは、CTを撮りながら腫瘍を正確に穿刺する方法で、腫瘍を確実に狙って精度の高い生検をすることが可能です。また、生検とは、腫瘍組織の一部を針などによって採取する処置のことです。そうして得られた組織を、病理検査(腫瘍細胞を顕微鏡で詳しく調べる検査)を行うことで、腫瘍の診断を行います。しかし、それでも診断がつかないこともあり、実際に手術で腫瘍を摘出して、特殊染色検査を含めた病理学的検索で初めて可能となることもあります。

後腹膜腫瘍の治療

腫瘍が発生した組織や種類によって担当診療科が分かれ、それに応じた治療方法が決定されます。手術、放射線療法、化学療法などの治療法は、病理組織型によって主たる方法が異なります。また、これらの治療を組み合わせて行うこともあります。

転移を認めない場合には、外科手術が適応となることが多く、良性腫瘍の場合には腫瘍の境界がわかりやすく、周囲の組織や臓器への影響が少なく、スムーズに切除できる場合が多いとされています。一方、悪性腫瘍の場合には腫瘍が周囲の臓器に浸潤していることもあり、必要に応じて周囲臓器の合併切除を行う必要が出てきます。泌尿器科、消化管外科、肝胆膵外科、整形外科、血管外科など各部位の専門家が協力して、根治手術を目指します。 例えば後腹膜診療ガイドラインによると、後腹膜肉腫(サルコーマ)の場合には、初回手術時にR0手術(腫瘍を完全に取り除いた手術)行うことが条件付きで推奨されています。R0手術を行うためには、腎臓や尿管などの臓器を同時に摘出してウロストミーなどの尿路変更を必要とする場合や、人工肛門造設が必要になる場合、大きな血管を摘出して人工血管を埋め込む手術が求められる場合などもあります。このように、大がかりな手術となることによって生じる術後の合併症や臓器の機能障害の可能性も考慮しなければなりません。

一方で、腫瘍がすでにほかの臓器に転移している場合や大がかりな手術に身体が耐えられないと判断された場合など、手術が適応とならないケースもあります。そのような場合には、抗がん剤治療や粒子線治療を含む放射線療法が選択されます。しかし、腫瘍のタイプによって抗がん剤や放射線療法の効果が異なり、適切な治療法が見つからない場合もあります。 また、血液検査の腫瘍マーカーやCTガイド下生検で悪性リンパ腫と診断された場合には、血液腫瘍科で主に化学療法(抗がん剤を用いた治療)が行われます。

後腹膜腫瘍になりやすい人・予防の方法

後腹膜腫瘍は、後腹膜臓器の組織ががん化したり、異常増殖したりすることによって引き起こされる病気です。稀な疾患であることもあり、それぞれの腫瘍がどのようなメカニズムで引き起こされるのか、適切な診断方法や治療方法がまだ十分に解明されていない腫瘍がたくさんあります。したがって予防することは困難です。しかし、症状に応じてまずは医療機関を受診し、必要に応じて画像検査をする必要があります。

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