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胃憩室
長田 和義

監修医師
長田 和義(医師)

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2012年、長崎大学医学部卒業。消化器内科医として、複数の総合病院で胆膵疾患を中心に診療経験を積む。現在は、排泄障害、肛門疾患の診療にも従事。診療科目は消化器内科、肛門科。医学博士、日本内科学会認定内科医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。

胃憩室の概要

『憩室(けいしつ)』とは、消化管の壁の一部が外側に飛び出したように変化している状態です。内視鏡で消化管の中から見た場合は、ポケットや落とし穴のように凹んで見えますが、穴が開いているわけではなくあくまで凹んでいるだけです。胃憩室とは、そのような憩室が胃にできている状態のことをいいます。
胃の壁は厚いため、胃の憩室の場合は外側まで飛び出さずに胃壁の中で凹んでいるだけのことが多く、そのような状態を部分憩室ないし筋層内憩室といわれます。
胃にできる憩室の76-80%は、胃の入り口近くで食べ物を溜めておく部位である、噴門部〜穹窿部の後壁側(背中側)に存在すると報告されています。大きさは1㎝〜3㎝程度と、小さいことがほとんどです。
消化管憩室の中で最も頻繁にみられる大腸の憩室については、ときに出血して下血することがあります。また、便が詰まって周囲に炎症を起こして発熱や腹痛を起こすこともあります。さらには憩室の壁が薄く弱いために破けることがあり、その場合はお腹の中に便と細菌が広がって強い炎症を起こし、腹膜炎や膿瘍に進展したりします。しかし、胃の憩室は大腸にできる憩室に比べると頻度は少なく、また症状を起こして問題となることもほとんどありません。

胃憩室の原因

消化管の憩室は、消化管の壁に何らかの外側から引っ張る力や、内側からの圧力が加わることで作られます。
胃の憩室については、生まれる前に内臓が形作られる時期に起こる先天性のものと、生まれた後に癒着や胃の外側から引っ張られる力、胃の中の圧力などによって起こる後天性のものがあります。
とくに後天性の胃憩室については、腫瘍(癌や粘膜下腫瘍)、胃潰瘍、梅毒など特定の感染症によって胃の壁の一部が弱くなること、胃の周りの手術や炎症、腫瘍の存在によって引っ張られること、何らかの原因で胃の中の圧力が高まることなどが重なると、形成されることが考えられます。
しかし、必ずしも原因が特定できない場合があります。

胃憩室の前兆や初期症状について

胃に憩室があったとしても、通常は症状はありません。憩室が大きい場合や食物が溜まってしまう場所にある場合、また食物が溜まって炎症を起こした場合などに、腹痛や胸やけ、食欲低下などの症状をきたす可能性がありますが、ごく稀なケースです。
胃の中は胃酸により菌が増殖しにくいため、大腸憩室のように感染症が問題になる可能性は低いです。また、潰瘍や腫瘍などほかの病気が加わっている状況でなければ、出血が問題になる可能性も低いです。概要でも述べたように胃の壁は厚いため、胃の憩室が原因で胃の壁が破けてしまうということも考えにくいです。
胃憩室が見つかった方に何かしらのお腹の症状があっても、それが胃憩室によるものかが不明であったり否定的な場合もあります。

胃憩室の検査・診断

胃憩室を疑って検査を行うというケースは、まずありません。通常は、ほかの理由で内視鏡検査(胃カメラ)やバリウムの検査を行った際に、偶然発見されます。
検査で胃に憩室があると言われても、それだけであれば問題にならない場合が大半です。しかし、バリウム検査では胃の中の詳細な異常まではわからないため、バリウム検査で指摘された場合は追加で内視鏡検査を受けることが勧められます。
もし内視鏡での見た目が一般的な胃憩室ではなかった場合は、CTなどで胃の外側についても評価することが必要と判断されるかもしれません。
一般的な見た目で症状の原因となっていない胃憩室については、定期的な検査は必要ありません。

胃憩室の治療

胃に憩室があるからといって、治療の対象になることは基本的にありません
胃憩室によって何らかの症状が発生していると判断され、薬物療法で症状の管理が困難であれば、手術で憩室ごと胃の一部を切除する手術が行われる場合もあります。過去には、巨大な胃憩室のために食欲低下や嘔吐などの症状が続き、手術が行われたケースも報告されています。しかし、このようなケースは極めて稀です。
また、炎症や腫瘍などの結果として憩室ができている場合には、その原因の方について治療を行うということは考えられます。
胃憩室が自然に治るということも考えにくいため、一度指摘されれば毎回の検査で指摘されます。しかし、何ら症状の原因となっていない場合は治療の対象にはなりません。
最終的な治療や定期検査の必要性については、診断を受けた医療機関でご確認ください。

胃憩室になりやすい人・予防の方法

胃潰瘍をわずらったことがある方、何らかのお腹の上の方の手術をされた方などは、胃の壁が弱くなっていたり癒着により外側から引っ張られたりすることで、憩室ができる可能性があるとは考えられます。しかし、実際にはその頻度は極めて少ないです。
胃の憩室ができることを予防することは難しく、また予防しようとする必要性もないと考えられます。

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