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急性胃粘膜病変
高宮 新之介

監修医師
高宮 新之介(医師)

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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。

急性胃粘膜病変の概要

急性胃粘膜病変(Acute Gastric Mucosal Lesion、以下AGML)は、胃の内側を覆う粘膜が急に傷つき、炎症や出血が起こる病気です。 この病気は、胃粘膜の保護バリアが何らかの原因で弱まり、胃酸や消化酵素によって直接的に損傷を受けることで発症します。 胃は通常、粘膜で保護されており、食べ物を消化するために強い酸を分泌しています。しかし、ストレスや特定の薬、過剰な飲酒や喫煙などが原因でこの保護機能が低下すると、胃酸が粘膜に直接触れて炎症を引き起こします。その結果、みぞおちの痛み、吐き気、出血などの症状が現れるのが特徴です。 近年の内視鏡検査の普及により、AGMLは早期に発見されることが増えてきました。胃粘膜の炎症が進行する前に治療を行うことで、多くの場合は数週間で症状が改善します。しかし、適切な治療を受けないと、潰瘍が深刻化して命に関わる出血や合併症を引き起こすリスクがあります。 例えば、普段から市販の痛み止め(非ステロイド性抗炎症薬:NSAIDs)をよく飲む方や、仕事や家庭で強いストレスを感じている方は、胃粘膜にダメージが蓄積しやすくなります。こうした背景を理解し、早めの受診や予防対策を取ることが重要です。

急性胃粘膜病変の原因

ストレス

心理的ストレス(仕事のプレッシャー、人間関係の悩み)や身体的ストレス(手術後、大けが、感染症など)は、胃に大きな影響を与えます。ストレスが強いと、自律神経の働きが乱れ、胃酸の分泌が増える一方で、粘膜を守る働きが弱まります。また、胃の血流が減少するため、傷ついた粘膜が修復されにくくなります。これがAGMLの発症に繋がります

薬剤(飲み薬)の影響

特に注意が必要なのが、痛み止めや抗炎症薬(NSAIDs)の使用です。これらの薬は、関節炎や腰痛などの治療によく使われますが、長期間使用すると胃粘膜の防御機能を低下させることがあります。また、血を固まりにくくする薬(アスピリンなど)も、胃の傷からの出血を悪化させる可能性があります。

飲酒と喫煙

過度の飲酒は、胃を直接刺激し、炎症を引き起こします。空腹時の飲酒は特に危険で、胃酸の分泌を刺激するため、粘膜に損傷を与えやすくなります。また、喫煙は胃粘膜の血流を悪くし、胃を修復する能力を低下させるため、AGMLを発症しやすくします。

ヘリコバクター・ピロリ菌感染

この菌は、胃の粘膜に住みつく細菌で、胃の炎症や潰瘍の原因となります。ピロリ菌がいると、胃粘膜が弱まり、AGMLを引き起こすリスクが高まります。日本では、成人の約半数がピロリ菌に感染していると言われており、感染が確認された場合は除菌治療を受けることが推奨されています。

その他の要因

香辛料の多い食事や熱い飲み物の摂りすぎ、食べ過ぎ、睡眠不足なども胃に負担をかけます。

急性胃粘膜病変の前兆や初期症状について

AGMLの症状は突然現れることが多く、主に以下のようなものがあります。 上腹部痛(みぞおちの痛み) 特に空腹時や食後すぐに、胃が刺すように痛むことがあります。この痛みはストレスや刺激物が原因で胃粘膜が傷ついた場合に起こります。 吐き気・嘔吐 食欲がなくなり、嘔吐することもあります。特に食後に症状が強く出ることが多いです。 吐血・黒色便 胃粘膜の傷が出血すると、血が混じった吐物や黒っぽい便が見られることがあります(黒い便は、胃酸で消化された血液が混じったものです)。

これらの症状が現れた場合、特に出血が疑われる場合は、早急に消化器内科を受診する必要があります。また、痛みや不快感が軽い場合でも放置せず、医師に相談することをおすすめします。

急性胃粘膜病変の検査・診断

AGMLの診断には以下の方法が用いられます: 問診と身体診察 医師はまず、症状や背景について詳しく質問します(例:「いつから痛みますか?」「飲んでいる薬はありますか?」)。また、実際にお腹を触り、どの部分が痛むか、どの程度の痛みがあるかを調べます。 内視鏡検査(胃カメラ) 胃カメラを使い、胃の中を直接観察します。この検査では、粘膜の赤みや腫れ、びらん(浅い傷)、潰瘍(深い傷)などが確認されます。必要に応じて、組織を一部採取して悪性疾患の有無も確認します。 血液検査 血液検査では、貧血の有無や炎症の程度を調べます。特に、出血がある場合には赤血球の減少が見られることが多いです。 ピロリ菌検査 胃カメラと同時にピロリ菌の有無を確認することがあります。この菌が発見された場合、治療方針に影響するため、早めに調べておくことが重要です。

急性胃粘膜病変の治療

AGMLの治療は、主に胃酸を抑え粘膜を保護する薬を使用し、症状を改善することを目的としています。状態によっては、内視鏡や手術による治療が必要になることもあります。

薬物療法

AGMLでは、以下の薬が主に使用されます。 プロトンポンプ阻害薬(PPI) 胃酸を大幅に減らす薬。胃酸が減ることで粘膜の修復が進みます。例として、オメプラゾールやランソプラゾールがあります。 H2受容体拮抗薬 胃酸を抑える働きを持つ薬で、PPIよりも作用が穏やかです。ファモチジンなどがよく使われます。 粘膜保護剤 胃の粘膜をコーティングし、保護する薬です。スクラルファートやレバミピドが挙げられます。 これらの薬を2〜4週間使用することで、粘膜の修復が進み、症状が改善することが期待されます。症状の程度によっては、さらに長期間の治療が必要になる場合もあります。

内視鏡治療

内視鏡(胃カメラ)を用いて、出血している部分を直接治療することがあります。具体的には、以下の方法が取られます。 高周波を使って出血部位を焼き、止血する方法。 クリップを使用して出血している血管を閉じる方法。 これらの内視鏡治療は、出血が止まらない場合や症状が重い場合に行われます。

外科的治療

薬や内視鏡で効果が見られない場合、外科手術を検討することがあります。手術では、傷ついた胃粘膜を切除することで症状を改善します。特に大量出血がある場合や胃が穿孔(穴が開くこと)している場合には、緊急手術が必要になることがあります。 治療の過程では、医師と相談しながら、自身の症状や生活スタイルに合った方法を選ぶことが大切です。

急性胃粘膜病変になりやすい人・予防の方法

AGMLは、特定の生活習慣や健康状態によって発症リスクが高まることがあります。また、日常生活で注意することで予防が可能な場合もあります。

なりやすい人

以下のような人は、AGMLを発症しやすい傾向があります: 痛み止め(NSAIDs)を長期間使用している人 関節炎やリウマチなどで頻繁に服用している方は、胃粘膜がダメージを受けやすくなります。 強いストレスを抱えている人 精神的なストレスが続くと胃酸の分泌が増加し、胃粘膜が弱くなります。 ピロリ菌に感染している人 ピロリ菌は胃の炎症や潰瘍の原因となります。 飲酒や喫煙の習慣がある人 これらは胃粘膜に直接的なダメージを与えます。 重篤な病気にかかっている人 手術後や大けがの後は、胃粘膜の防御機能が低下しやすくなります。

予防方法

ストレスを軽減する 適度な運動やリラクゼーション法(ヨガや深呼吸など)を取り入れることで、ストレスを和らげることができます。 飲酒や喫煙を控える 空腹時の飲酒を避けることや喫煙量を減らすことが、胃粘膜の保護に役立ちます。 薬を適切に使用する 痛み止めを使用する際には、医師に相談して胃を保護する薬を併用することが大切です。 ピロリ菌の治療を受ける ピロリ菌感染が確認された場合は、早期に除菌治療を受けることでリスクを下げることができます。 バランスの取れた食事を心がける 香辛料の多い食事や熱い飲み物を控え、胃に優しい食べ物を摂るようにします。

これらの予防策を日常生活に取り入れることで、AGMLのリスクを大幅に減らすことが可能です。

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